診察する患者さんの十人に一人が九十歳を超えておられる。勿論、九十台後半は少ないのだが、九十前半は数多い。しかも、自分のことは自分ででき、自力で来院できる人も結構おられる。
臨床医は他の技術職と同じで最初の二、三年で一番肝腎な基礎の基礎が出来、大体五、六年で自立し、ほぼ十年で一人前になる。その後の伸び縮みは本人の努力才能と環境次第だ。
他の職種もそうだと思うが、能力には知識技術の他に感覚も含まれる。その感覚は最初の五六年で身に染み付くものだ。患者の年齢から受けとる感覚から想起される病態診断は臨床医の大きな経験知なのだが、これだけ高齢者が元気というか若返ると、四十年前に出来た患者年齢による感覚が狂ってしまい変更を余儀なくされる。概ね十年ごとにバージョンアップしてきたのだが、これだけ元気な九十代が増えると自分ももう少し働けるのではないかという妙な考えが浮かぶ。
果たして本当にまだ働けるのか錯覚なのか気になる。とにかく勉強時間は減った。殆どしてないに等しい。どうもオンライン学習が苦手というか、気軽に質問できない講義は好きでなく、三ヶ月に一度嫌々聞いている始末だ。もう少しで後期高齢者になるのだが、果たして医師の仕事可能年齢も延びているだろうか?。