駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

医者巡り

2010年08月04日 | 診療
 Y子さんは亡くなったご主人の主治医だったご縁で、遠路はるばる年に一度くらい受診される。ご主人とは気が合い受診時には何時も楽しいお話をしたのだが、奥さんのY子さんとは必ずしも相性がよくない。どうも過大評価を受けているようなのだ。もうご主人が亡くなって十五年になり、Y子さんも平均余命に近づいてきた。どうしても物忘れをする、眼が見にくい、耳が遠くなった、息が切れる、肩が痛い、膝が痛いといろいろ訴えが多くなっている。
 今日は思い切ってバス電車を乗り継ぎ一時間の道をやって来ましたと、螺旋階段というかメビウスの輪というか、頭から始まる訴えを順繰りに際限なく繰り返される。全ての訴えに対し、既にご近所の複数の医師に罹っておられるのだが、老化が関与しているので残念ながら思うようには改善しない。昔はこんなでこんなではなかったいう思いが強く、よくならないことに対する不満からそれらの医師に対する不平が出てくる。此処にくれば良くなるという願望から、一種の妄想が脹れあがって出掛けて来られる。その傾向がだんだんひどくなってきたので、先月受診された時には正直に私には力が及ばないのでお近くのいつもの先生にご相談下さいと申し上げざるを得なかった。
 突き放すようで申し訳ない気持ちも僅かにある。何か私に特別なものがあるように振る舞うことも不可能ではないのだが、そうした方便はいずれ破綻すると思い、わざわざ遠くまで来ることはないと申し上げた。果たしてどうされるだろうか。それで良かったのだろうか。
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