駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

患者さんの善処問題

2008年10月28日 | 診療
 「善処します」というのはお役所言葉で何にもしないという意味だと教えられたのは何時だったか。勿論、答弁する端から何にもしないというつもりではないだろう。ただ、やろうという姿勢を作ってみたが、あれこれ難しいので実行出来なかったという釈明がいつも用意されているので、何もしない意味だと受け取られるようになったと推定する
 同じことを診察室でしばしば経験する。アルコール、煙草、過体重という成人病の三大誘因を毎回お経のように減らし止め是正するように繰り返し指導している。理解しても、効果が出てくるのは四分の一あるかどうか、半数は糠に釘。「努力しているんですよ」。とゆう返事が返ってくるばかりだ。
 四年も五年も指導し話し合ってしているのに、努力が全然結果に出ない患者さんも多い。時々つい声を荒げ「努力はいいですから、結果を出してください」。と申し上げることがある。実はこれが逆効果のことが多く、明らかにむっとされる方や努力を評価しないのかと気色ばむ人もいて、言わなきゃよかったと思うことも多い。
 節制の要請に、結果が出なくても努力していると答えることで、その場を切り抜けて先送りにしてゆくやりとりを繰り返すことは、まるで熱くて長くは持てない焼きたての餅や冷たくて長くは持てない氷をやりとりするのに似ている。餅はやがて冷えて持てるようになるが、氷はやがて水になって消えてしまう。
 これは責任の所在を問題化しない極意のようで、餅の方は食べられる温度に落ち着いて賢い?のだろうが、氷の方は跡形もなく消えて失われ元も子もなくなる。
 たぶん診察室には外交並みの様々な交渉の現実があるのだと思う。自分の健康いや命さえも掛かっているに、現実感がないとつい目先の安逸のために交渉を始めるのが人間の習性らしい。それを無碍に却下せず、何らかの実りを得るのが優れた外交官否優れた臨床医なのだろう。なかなか単細胞医には難しい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不安定も続けば

2008年10月27日 | 世の中
 碁や将棋、テニスやゴルフもそうかな?、では負けが込むと調子が悪い、全然勝てないと絶不調と言う。ほとんどは本人弁。これが半年以上続けば調子が悪いのではなく弱くなったのだと判明して、ハンディを変えますかなどと言われ、甚だ不愉快というか居心地が悪くなる。
 天気の場合はどうか。もう十年くらい患者さんと、今年の夏は青空が見えないねえ、今年の冬は寒くないねえ、なんだか急に大雨が降りますねえとか話をしてきた。気候に10年は単位としては短すぎるかしれないが、人間の感覚ではこれは異常が常態となってきたように感じられる。
 10月末にしては暖かい、朝表に出ると前の山の中腹に靄と言うか雲がかかっている。一幅の日本画のようで美しいのだが、季節感が伴わない。あれ今の季節はいつだったかなと、認知症の患者さんのようについカレンダーを見たくなる。成る程、福島県昭和村の紅葉の写真だから、今は秋かと納得する始末だ。
 10月になると今年も年を越さねばならないからなあと町工場の社長の友人はため息をつく。町医者の私は、柿や蜜柑が実る頃には医者が青くなると言われながら実は4月の保険改訂以来青くなったままなのだが、今年の冬は風邪が流行るかなと気になる。
 世の中も気候も不安定が常態と成りつつある平成20年代をどうやって平静に生きてゆくかなどはシャレにもならないなと、坂道を下りながら考えた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカの知恵

2008年10月25日 | 世の中
 アメリカの知恵というと、アメリカの力の間違いではないかと首を傾ける方もおられるかもしれない。私のアメリカ体験は限られたものだし、知識も不十分なものだが、アメリカに深い知恵を感じることがある。
 おそらく一般的な日本人のアメリカの印象は人種のるつぼで人は玉石混淆といっても複雑ではなく、単純ステレオタイプ思考嗜好で力が物を言う国、といったものではないかと思う。
 確かに十分熟成されておらず荒削りで単純と思えるところも多いが、辛くも危機と崩壊を防いできた深い知恵も感ずる。それには恵まれた自然と資源の背景もあるが、アメリカの精神も効いていると思う。私ごときが勿体ぶった前置きで申し訳ないが、大統領の任期にアメリカの知恵を強く感じる。一期四年二期八年まで、これは凄いと思う。短くては不十分、再挑戦の機会を一度くらいは与えたい、どんなに優れているようでも長すぎては見えないところで腐敗が始まる。
 このあたりは日本も学ぶべきではないか、国情の違いと言えばそれまでだが、使い捨てその場しのぎの人物に何が出来るだろうか。優れた創業社長や頭取も長すぎると名前を挙げるまでもないだろうが、碌なことはない。
 (我田引水かもしれないが、零細企業や零細商店は長の目が隅まで届き、茶坊主も育ちにくいから例外かもしれない?)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

救急年齢の自覚

2008年10月24日 | 医療
 災害救急時の医療体験を聞いた。阪神淡路大震災に遭遇された救急医の生々しい話で、いくつか強烈に心に残った言葉があった。
 *最初の48時間は自分の命は自分で守らなければならない。(水さえあればなんとかなる)。
 *救急医療の最初の仕事は生きているか死んでいるかを見分けること。
 *死体の安置場所がなくてに困った。
 *年寄りの医者は使い物にならない。
 *内科医は役に立たない。(そうでもないと思いたいのだが)。
 災害救急時には何か役に立ちたいと思っていたが、どうも難しいと知って残念に感じた。毎日診療できているので、使い物になるかと思ったが、そう言われれば確かに余力がなくなった。30代40代の体力のある医者でないと不眠不休で頑張れない。体力がなくへたばった医者は口うるさく治療しにくいので足手まといとのこと。
 年齢というのは不思議な物で、なかなか自分を年寄りとは感じない。80歳を過ぎ足が弱ると、さすがに年を取ったと言われる患者さんが多いが、60代ではまだ自分を年寄りとは思っていない人がほとんどだ。
 年齢というのは面白いもので、自分の年を中心に周りが見える。40歳の人には30歳は若く50歳は年寄りに見える。60歳の人には50歳は若く70歳は年寄りに見える。
 自覚的には年寄りでないつもりだが、災害時には使い物にならないらしい。二、三週間もすれば年配の内科医にもやる仕事が出てくるだろうから、それまでは自分と家内の身を守り、自力で救援を待てればそれで良いのかもしれない。
 それよりも何よりも、災害には遭いたくない。まして人災などまっぴらごめんだ。
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

介護保険認定格差問題

2008年10月23日 | 医療
 介護保険制度が始まり8年、試験期間を入れれば9年になる。介護審査はまず調査員の対象者訪問調査結果から機械的(コンピュータで)に介護度を判定し、次いでその結果を医師の意見書と共に認定審査委員会に提出して、そこで複数の医療介護経験者の眼で疑問判定が是正される仕組みになっている。8年間の間にいろいろな改定があり、その都度審査委員は講習会で判定審査法変更の要点を教えられてきた(出席しないあるいはできない委員も相当数いる)。
 日本の介護度判定法はきめ細かく合理的且つ情緒的に作られており、かなり納得のゆくものになりつつある。ちょっと微に入り細を穿ち、病膏肓の感じもあるが。
 時折、作成と審査の手間暇とそれに掛かる費用が莫大なので、その労力と金額を介護に直接回せば個人負担が激減するとの批判を、介護保険に非協力的な医師から聞かされる。正確な数字を知らないし、基準なしでの補助が上手くできるか疑問なので、どの程度妥当な批判か分からない。確かに無駄な費用は極力削る必要があると思う(当初付いていた弁当はなくなった)。しかし発足時から協力してきた医師としては、日本でしか出来ない盆栽的というか駅弁的というか、このきめ細かい制度は世界に誇れる仕組みになってきていると思う。
 さて、そうした制度なのだが、作成審査の手間費用の他に大きな問題が出てきている。それは地域による判定の格差なのだ。たとえば秋田県と大阪府(全くの例え)で介護度の分布に倍以上の格差があるのは実態から考えてあり得ない。どうも、この格差は調査と審査の現場から生まれているらしいのが明らかになってきた。要するに伝言ゲームの誤聞増幅という仕組みで、厚労省で地方公務員が習得した調査審査法が末端に行くほど様々に変容して伝わり、市町村ごとの調査判定基準、審査判定基準がバラバラになってきているのだ。
 確かに時間を掛けて作り上げた整合性のある制度は美しい。しかし改訂ごとに、変容して末端現場に伝わり、実際の運用はちぐはぐになってきている。
 飛躍した提案かもしれないが、本当の天下り制度を作るべきだ。官僚は末端に就職し、正真正銘の平職員として介護施設などで働いてみる必要がある。どうして歪が生ずるのか、下から見て見なければわからない。そうすれば整えられた制度が末端で歪んで運用されるのを防ぐ手立てがいくつか見いだされるだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする