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岡崎平野を中心とする 植物 と カメラの対話

ツバキはなぜ冬に咲くのか?

2024-02-24 15:00:00 | みんなの花図鑑
私のいちばん古い記憶にこういうものがあります。
 私がまだ赤ん坊のころ若い両親と私は本家の広い敷地の一角の鶏小屋を改造した家に住んでいました。
夜の帳(とばり)が下りると母は私を背中に負ぶって本家まで風呂をもらいに行くのですが、その夜はかなりの雪が降っていて、本家に行く途中の背の高いツバキの木の下を通るとき、母の差している唐笠(番傘)の上に雪がどさっと落ちてきました。

今では雪こそあまり積もらなくなっていますが、ツバキは南方出身の樹にもかかわらずどういう訳かみな 冬に花を咲かせます。今日は少しだけその理由を考えてみようと思います。



ツバキ(Camellia japonica)'青い珊瑚礁'

種子島のヤブツバキから1988年に発見されたもので、花の姿はスタンダードですが、花弁の色が青みがかった赤という珍しい色をしています。



ヤブツバキの学名は Camellia japonica で、学名からも分かるように日本の固有種で私たちがツバキというと頭に浮かぶのもこのヤブツバキです。



ところが、日本にいると別に不思議とも何とも思いませんが、ツバキ属の大半はもっと南の地方に生息しているのです。
 南方の植物が寄りによって雪の降る寒い冬になぜ花を咲かすのか?
考えてみると不思議ですよね。どうしてなんでしょう。




同じ疑問を持つ方は多いようで、検索すると色々出て来ます。
まず目につくのが【あえて冬に咲く】説です。




【あえて冬に咲く】説とはおおよそ以下のような説です:
ツバキの花の花粉を運ぶのは、虫ではなく鳥である。
暖かい季節に花を咲かせても、鳥たちは餌となる虫を取るのに忙しくて、とても花の蜜など吸いには来てくれない。そのため、鳥の餌となる虫の少ない時期に【あえて】花を咲かせるのである。





ツバキ(Camellia japonica) '港の曙'

ツバキの園芸種「関東月見車」とルチエンシス(ヒメサザンカ)の交配種。



【あえて冬に咲く】説のつづきです:
ツバキの花がサザンカのようにハラハラと散ることなく、花全体がポトリと落ちるのは、花をバラバラにされて蜜を奪われないように、がくを中心に、花びらや雄しべがしっかりとした構造をしているからなのである。




ツバキでは沢山の雄しべの下半分が合着して王冠のようになっています。それも鳥たちに蜜と一緒に花粉を運んでもらうためだというのです。



でも…
それならなぜサザンカ(オキナワサザンカ)は雄しべが合着していなくてバラけたままなのでしょうか?
ツバキの本場 ベトナムなどの南方のツバキ属の花弁や雄しべは 皆 ばらけているのでしょうか?
ベトナムのツバキを見る前にもう一つの説を紹介しておきましょう。

【休眠が浅い】説
桜などの、日本に昔からある樹木は、夏から秋にかけてつぼみをつくります。しかし9月頃になると冬の訪れを知り、一旦開花の活動を止めて深い眠りに入ります。これを休眠といいます。そして3~4月頃に気温が高くなると、開花活動を再開させて花を咲かせるのです。一方ツバキは、実はその花のルーツは南方にあり、9月頃から入る休眠の眠りがとても浅いのです。なぜかといえば、南国の気候は、日本などのように四季がはっきりしていません。そのため冬が来たといっても気温がほんの少し下がるだけなので、桜などのように深く眠ってしまうと、その微妙な変化に気付かないのです。つまり眠りが浅く、気温のちょっとした変化に敏感なツバキは、1~2月頃に少しでも暖かい日があると、眠りから醒めて花を咲かせてしまうというわけなのです。




ベトナムツバキ(Camellia amplexicaulis ) '海棠(ハイドゥン)'

越南(ベトナム)では テト(Tết Nguyên Đán 節元旦すなわち旧正月)を祝う花といわれてます。
今年のテトは2月8日です。



テトのころは一年でもいちばん寒い季節です。
そこからするとツバキは寒い季節に花を咲かせるという性質は共通のようです。










ただ、補足意見として、こういうことも考えられないかと思いました:
 私はインドネシアのスラウェシ島に9月から1月まで滞在していたことがありますが、インドネシアのような乾季と雨季がはっきりした地域では【乾季の暑さをやり過ごした後、植物は活動を始める】という説です。インドネシアでは乾季はとても暑いです。それで雨季がはじまると湿度が上昇しぐっとしのぎやすくなります。そのとき気が付いたんです。過酷な乾季が終わり雨季になると木々がいっせいに芽吹きだすのです。だから私は「インドネシアでは夏が終わると春がやってくる」と総括したことがあります。植物たちも暑い夏を耐えたので、春(雨期)の到来とともに芽吹き、花を咲かせるというサイクルを作ったのではないでしょうか。
 冬に花を咲かせるのではなく、暑い夏をやり過ごしてから芽吹きそして花を咲かせるという説です(^^♪





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6 コメント

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椿 (あられ)
2024-02-25 05:53:39
私も植物や花の撮影が好きであちらこちらの公園に花目当てで出掛けてました

椿の見頃は2月に入ってから
けど3月になると草花が一気に咲いて椿の撮影は激減します
今日の記事の「あえて冬に咲く」説に私も同意です
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ツバキとサザンカ (koji)
2024-02-25 09:44:12
わたしには、区別のつきにくいツバキとサザンカ。
しかし、花の構造に決定的な違いがあるのですね。
さらに、植物が開花する時期にも、それぞれが種の生存をかけた深いわけがあるのですね。
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Re: あられさん^^ (アブリル)
2024-02-25 10:32:13
コメントありがとうございます!
冬に花を咲かせる植物はツバキ科の他にもロウバイやウメなどあります。ロウバイについてはメジロやヒヨが来てるのでやはり鳥媒花ということでツバキ属と共通の事情なんでしょうか。
冬に花をつける植物にウコギ科があります。ところがウコギ科の植物は虫媒花です。「虫の少ない冬」に何故【あえて】花をつけるのでしょうか?
草本ですが、クリスマスローズ(ヘレボルス・ニゲル)やシクラメンは冬に花を咲かせますが、これもいろんな理由が考えられています。
地中海原産の花が冬に咲くのは冬に雨が多いからです。雨が多いから咲くのですが、雨が多いから花粉が雨に当たって流されてしまわないよう下を向いて咲くのだとまで理由付けされています(´∀`)
でも私は【あえて咲く】事情はひとつではないと思います。
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Re: kojiさん^^ (アブリル)
2024-02-25 10:46:03
kojiさん、こんにちは~
そうなんですよ。前半がサザンカ、後半がツバキの咲く時期としていますが要は冬なんですよ。ツバキに当てはまる理由をつけると、サザンカのばあいに当てはまらなくなる、ってなことが多々あるわけでして "(-""-)"
それと… ベトナムといっても北と南では気候が大違い!
南では乾季と雨季が入れ替わる熱帯性気候ですが、ベトナムツバキと言ってるものは北のハノイのほうの四季のある気候風土の植物のようです。
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Unknown (jikefurusatomura)
2024-02-25 22:25:14
ご無沙汰しております。とても興味深い内容で大変勉強になりました。ありがとうごさいました。
番傘から雪が落ちる描写、背中におぶられてる情景、小説を読んでいるようでした。
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Unknown (avril_kanabun)
2024-02-26 09:17:27
@jikefurusatomura コメントありがとうございます😊
よくよく考えると、背中におんぶされた記憶って、3歳より前のもっと小さい頃ではないかと思いますが、どういう訳かハッキリ記憶に残っています。
同感してくださる方がいらして大変嬉しいです、ありがとうございました(^^)
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