私のいちばん古い記憶にこういうものがあります。
私がまだ赤ん坊のころ若い両親と私は本家の広い敷地の一角の鶏小屋を改造した家に住んでいました。
夜の帳(とばり)が下りると母は私を背中に負ぶって本家まで風呂をもらいに行くのですが、その夜はかなりの雪が降っていて、本家に行く途中の背の高いツバキの木の下を通るとき、母の差している唐笠(番傘)の上に雪がどさっと落ちてきました。
今では雪こそあまり積もらなくなっていますが、ツバキは南方出身の樹にもかかわらずどういう訳かみな 冬に花を咲かせます。今日は少しだけその理由を考えてみようと思います。
ツバキ(Camellia japonica)'青い珊瑚礁'
種子島のヤブツバキから1988年に発見されたもので、花の姿はスタンダードですが、花弁の色が青みがかった赤という珍しい色をしています。
ヤブツバキの学名は
Camellia japonica で、学名からも分かるように日本の固有種で私たちがツバキというと頭に浮かぶのもこのヤブツバキです。
ところが、日本にいると別に不思議とも何とも思いませんが、ツバキ属の大半はもっと南の地方に生息しているのです。
南方の植物が寄りによって雪の降る寒い冬になぜ花を咲かすのか?
考えてみると不思議ですよね。どうしてなんでしょう。
同じ疑問を持つ方は多いようで、検索すると色々出て来ます。
まず目につくのが【あえて冬に咲く】説です。
【あえて冬に咲く】説とはおおよそ以下のような説です:
ツバキの花の花粉を運ぶのは、虫ではなく鳥である。
暖かい季節に花を咲かせても、鳥たちは餌となる虫を取るのに忙しくて、とても花の蜜など吸いには来てくれない。そのため、鳥の餌となる虫の少ない時期に【あえて】花を咲かせるのである。
ツバキ(Camellia japonica) '港の曙'
ツバキの園芸種「関東月見車」とルチエンシス(ヒメサザンカ)の交配種。
【あえて冬に咲く】説のつづきです:
ツバキの花がサザンカのようにハラハラと散ることなく、花全体がポトリと落ちるのは、花をバラバラにされて蜜を奪われないように、がくを中心に、花びらや雄しべがしっかりとした構造をしているからなのである。
ツバキでは沢山の雄しべの下半分が合着して王冠のようになっています。それも鳥たちに蜜と一緒に花粉を運んでもらうためだというのです。
でも…
それならなぜサザンカ(オキナワサザンカ)は雄しべが合着していなくてバラけたままなのでしょうか?
ツバキの本場 ベトナムなどの南方のツバキ属の花弁や雄しべは 皆 ばらけているのでしょうか?
ベトナムのツバキを見る前にもう一つの説を紹介しておきましょう。
【休眠が浅い】説
桜などの、日本に昔からある樹木は、夏から秋にかけてつぼみをつくります。しかし9月頃になると冬の訪れを知り、一旦開花の活動を止めて深い眠りに入ります。これを
休眠といいます。そして3~4月頃に気温が高くなると、開花活動を再開させて花を咲かせるのです。一方ツバキは、実はその花のルーツは南方にあり、9月頃から入る
休眠の眠りがとても浅いのです。なぜかといえば、南国の気候は、日本などのように四季がはっきりしていません。そのため冬が来たといっても気温がほんの少し下がるだけなので、桜などのように深く眠ってしまうと、その微妙な変化に気付かないのです。つまり眠りが浅く、
気温のちょっとした変化に敏感なツバキは、1~2月頃に少しでも暖かい日があると、眠りから醒めて花を咲かせてしまうというわけなのです。
ベトナムツバキ(Camellia amplexicaulis ) '海棠(ハイドゥン)'
越南(ベトナム)では テト(Tết Nguyên Đán 節元旦すなわち旧正月)を祝う花といわれてます。
今年のテトは2月8日です。
テトのころは一年でもいちばん寒い季節です。
そこからするとツバキは寒い季節に花を咲かせるという性質は共通のようです。
ただ、補足意見として、こういうことも考えられないかと思いました:
私はインドネシアのスラウェシ島に9月から1月まで滞在していたことがありますが、インドネシアのような乾季と雨季がはっきりした地域では【乾季の暑さをやり過ごした後、植物は活動を始める】という説です。インドネシアでは乾季はとても暑いです。それで雨季がはじまると湿度が上昇しぐっとしのぎやすくなります。そのとき気が付いたんです。過酷な乾季が終わり雨季になると木々がいっせいに芽吹きだすのです。だから私は「インドネシアでは夏が終わると春がやってくる」と総括したことがあります。植物たちも暑い夏を耐えたので、春(雨期)の到来とともに芽吹き、花を咲かせるというサイクルを作ったのではないでしょうか。
冬に花を咲かせるのではなく、暑い夏をやり過ごしてから芽吹きそして花を咲かせるという説です(^^♪
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