「いつ起きてもおかしくない」と言われ続けている南海トラフの巨大地震。
しかし実際の大地震は、2016年に熊本、2018年に北海道・胆振、そして今年は元旦に能登半島と、発生確率が高くないとされていた地域ばかりで大地震が起きています。8月8日にも宮崎沖の日向灘でM7.1の地震が起き初めての「南海トラフ(巨大地震注意)」が発表されましたが、震源は南海トラフ想定震源域の最西端であり、後述するようにいささか無理やり感を否めません。
図1. 地震は火山フロントと海溝の間で起きる(1)
南海トラフは「沈黙のトラフ」?
図1 を見てください。日本列島周辺には大きく2つの地震帯があることが分かります。ひとつは千島海溝から日本海溝・伊豆小笠原海溝へと連なる連続した海溝の列島側に、もう一つは日向灘~南西諸島海溝の陸側の地震帯です。いずれも海洋プレートが大陸プレートに沈み込む地帯で、陸側に活火山列(火山フロント)があります。これはニュースでよく出て来る海洋プレートの大陸プレートへの沈み込み説明図(プレートテクトニクス理論(2))そのものです。
ところが同じ図から分かるように南海トラフの列島側には火山フロントが見当たらず、地震も相対的に少ないのです。南海トラフ地震は過去にほぼ100~200年間隔で起きているとされています。しかし同じ100年の間に日本列島を東西から挟む大地震帯では火山噴火も含め毎日のように地震が起きているのです。それゆえ南海トラフを「沈黙のトラフ」と呼ぶ科学者さえいます(3)。
8月8日の宮崎沖の地震も南海トラフというよりも「日向灘~南西諸島海溝の陸側の地震帯」で起きた地震のように見えて仕方ありません。
直下型地震
地震は海溝型地震だけではありません。活断層で起きる直下型地震は震源が直下であるだけに被害は大きくなります。被害を減らすには何が被害を大きくしたかを知ることです。
主な大地震の死因 (4)
1923年 関東大震災 M7.9:87.1% 火災
1995年 阪神淡路大震災Mw6.9:83.3%建物倒壊
2011年 東日本大震災M9.0:90.6% 溺死
2016年 熊本地震Mw7.0:76.0% 建物倒壊
2024年 能登半島地震Mw7.5:90.5% 建物倒壊
三河地震の教訓
直下型地震「三河地震」(M6.8)は死者・行方不明者数3,400人余という、20世紀に日本で起きた地震のなかで6番目に多くの被害者を出しました (6)。三河地震の死者数を多くした直接の原因は家屋の倒壊による圧死ですが、その遠因は37日前に起きた東南海地震(Mw8.2)により既に多くの家屋の「ほぞ」が外れ半壊状態にあったこと、にもかかわらず応急処置できる男手が徴兵されていて不在であったこと、しかも戦時下で補強材料が不足していたことにもあります (7)。油ヶ渕の西端村では村内の寺院3つがすべて倒壊し、そこに集団疎開していた多くの児童が犠牲になりました (8)。直下型地震に対する直接的な対策は建物の耐震化ですが、三河地震は戦時下に起きたことが被害を大きくしています。
さらに運よく建物の倒壊から逃れたとしても避難所生活で過労死する危険が待っています。熊本地震では、余震の影響で「直接死」の4倍を超す「災害(震災)関連死」が報告されています (9)。能登半島地震でも雑魚寝の避難所生活のため2週間で早くも14人が災害関連死の疑いがあるとされています (10)。
一方、4月の台湾の地震で被害の大きかった花蓮市内の避難所には、冷房完備・簡易ベッドが備えられたプライバシーに配慮したテントが、地震からわずか3時間後に設置されて話題になりました (11)。これは東日本大震災のとき釜石市が3週間後に設置した同様の施設を参考にしたと言われています (12)。デジタル化を含め、日本も台湾の良いところを大いに取り入れるときではないでしょうか。
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脚注
(1) 火山の分布と地震の分布 その1
http://raytheory.jp/nazotoki/volcano/distribution/
火山は海溝と平行に列をなして分布する
© 2024 Shizuoka University Center for Integrated Research and Education of Natural Hazards
https://www.cnh.shizuoka.ac.jp/research/barchive/mtfuji/001-2/
(2) プレートテクトニクスについてはたとえば以下が参考になります
第19章 科学の革命 プレートテクトニクス
https://ocw.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2016/01/ScienceLiteracy2-2011-Text-19.pdf
(3) 「沈黙のトラフ」は以下の記事を参考にしました
https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji102/
(4) 過去の大地震の主な死因
https://www.tokiwa-system.com/column/column-298/
(5) Mが1増えるとエネルギーは約32倍に
https://www.kajima.co.jp/tech/seismic/higai/040602.html
(6) 三河地震 死者 過去6番目
https://www.katch.co.jp/kinjo/prevention/2.html
(7) 三河地震 被害を拡大した要因
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1944_tounankai_jishin/pdf/8_chap4.pdf pp.127
(8) 東南海地震と三河地震は戦争中に起き(中略)救助や復旧工事でたよりになるわかい男の人の多くは、戦地に行っていていませんでした。また、こわれた家をなおすための木材やくぎも、足りませんでした。 一方、この地域には名古屋から戦火をさけてたくさんの子どもたちが来ていて、被害にあってしまいました。 (キャッチネットワーク発行 DVDブック「三河地震から70年」)
https://www.katch.co.jp/kinjo/prevention/2.html
(9) 熊本地震から8年 死者の8割を占めた災害関連死の教訓から学ぶ
https://weathernews.jp/s/topics/202404/050215/
(10) 能登半島地震では避難所で十分に暖をとることができず、眠れない状況が続いている
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240115/k10014321601000.html
(11) 被害が大きかった花蓮市内の避難所は、冷房完備、簡易ベッドが備えられたプライバシーに配慮したテントが設置され、女性専用や特別支援者専用の寝室も設置されました。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900002158.html
(12) 危機管理アドバイザー 国崎信江氏:
実は、台湾は同じ地震大国ということから、日本で起きた東日本大震災や熊本地震の避難所の在り方を調べて、良いと思ったところを取り入れてきているんです。残念なのは、日本はこのスタイルなるまでに、発災から2~3週間以上かかっている。これに対して、台湾は発災から2時間で準備をして、3時間で受け入れを開始しているということなんです。
https://www.fnn.jp/articles/-/682444?display=full
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しかし実際の大地震は、2016年に熊本、2018年に北海道・胆振、そして今年は元旦に能登半島と、発生確率が高くないとされていた地域ばかりで大地震が起きています。8月8日にも宮崎沖の日向灘でM7.1の地震が起き初めての「南海トラフ(巨大地震注意)」が発表されましたが、震源は南海トラフ想定震源域の最西端であり、後述するようにいささか無理やり感を否めません。
図1. 地震は火山フロントと海溝の間で起きる(1)
南海トラフは「沈黙のトラフ」?
図1 を見てください。日本列島周辺には大きく2つの地震帯があることが分かります。ひとつは千島海溝から日本海溝・伊豆小笠原海溝へと連なる連続した海溝の列島側に、もう一つは日向灘~南西諸島海溝の陸側の地震帯です。いずれも海洋プレートが大陸プレートに沈み込む地帯で、陸側に活火山列(火山フロント)があります。これはニュースでよく出て来る海洋プレートの大陸プレートへの沈み込み説明図(プレートテクトニクス理論(2))そのものです。
ところが同じ図から分かるように南海トラフの列島側には火山フロントが見当たらず、地震も相対的に少ないのです。南海トラフ地震は過去にほぼ100~200年間隔で起きているとされています。しかし同じ100年の間に日本列島を東西から挟む大地震帯では火山噴火も含め毎日のように地震が起きているのです。それゆえ南海トラフを「沈黙のトラフ」と呼ぶ科学者さえいます(3)。
8月8日の宮崎沖の地震も南海トラフというよりも「日向灘~南西諸島海溝の陸側の地震帯」で起きた地震のように見えて仕方ありません。
直下型地震
地震は海溝型地震だけではありません。活断層で起きる直下型地震は震源が直下であるだけに被害は大きくなります。被害を減らすには何が被害を大きくしたかを知ることです。
主な大地震の死因 (4)
1923年 関東大震災 M7.9:87.1% 火災
1995年 阪神淡路大震災Mw6.9:83.3%建物倒壊
2011年 東日本大震災M9.0:90.6% 溺死
2016年 熊本地震Mw7.0:76.0% 建物倒壊
2024年 能登半島地震Mw7.5:90.5% 建物倒壊
三河地震の教訓
直下型地震「三河地震」(M6.8)は死者・行方不明者数3,400人余という、20世紀に日本で起きた地震のなかで6番目に多くの被害者を出しました (6)。三河地震の死者数を多くした直接の原因は家屋の倒壊による圧死ですが、その遠因は37日前に起きた東南海地震(Mw8.2)により既に多くの家屋の「ほぞ」が外れ半壊状態にあったこと、にもかかわらず応急処置できる男手が徴兵されていて不在であったこと、しかも戦時下で補強材料が不足していたことにもあります (7)。油ヶ渕の西端村では村内の寺院3つがすべて倒壊し、そこに集団疎開していた多くの児童が犠牲になりました (8)。直下型地震に対する直接的な対策は建物の耐震化ですが、三河地震は戦時下に起きたことが被害を大きくしています。
さらに運よく建物の倒壊から逃れたとしても避難所生活で過労死する危険が待っています。熊本地震では、余震の影響で「直接死」の4倍を超す「災害(震災)関連死」が報告されています (9)。能登半島地震でも雑魚寝の避難所生活のため2週間で早くも14人が災害関連死の疑いがあるとされています (10)。
一方、4月の台湾の地震で被害の大きかった花蓮市内の避難所には、冷房完備・簡易ベッドが備えられたプライバシーに配慮したテントが、地震からわずか3時間後に設置されて話題になりました (11)。これは東日本大震災のとき釜石市が3週間後に設置した同様の施設を参考にしたと言われています (12)。デジタル化を含め、日本も台湾の良いところを大いに取り入れるときではないでしょうか。
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脚注
(1) 火山の分布と地震の分布 その1
http://raytheory.jp/nazotoki/volcano/distribution/
火山は海溝と平行に列をなして分布する
© 2024 Shizuoka University Center for Integrated Research and Education of Natural Hazards
https://www.cnh.shizuoka.ac.jp/research/barchive/mtfuji/001-2/
(2) プレートテクトニクスについてはたとえば以下が参考になります
第19章 科学の革命 プレートテクトニクス
https://ocw.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2016/01/ScienceLiteracy2-2011-Text-19.pdf
(3) 「沈黙のトラフ」は以下の記事を参考にしました
https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji102/
(4) 過去の大地震の主な死因
https://www.tokiwa-system.com/column/column-298/
(5) Mが1増えるとエネルギーは約32倍に
https://www.kajima.co.jp/tech/seismic/higai/040602.html
(6) 三河地震 死者 過去6番目
https://www.katch.co.jp/kinjo/prevention/2.html
(7) 三河地震 被害を拡大した要因
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1944_tounankai_jishin/pdf/8_chap4.pdf pp.127
(8) 東南海地震と三河地震は戦争中に起き(中略)救助や復旧工事でたよりになるわかい男の人の多くは、戦地に行っていていませんでした。また、こわれた家をなおすための木材やくぎも、足りませんでした。 一方、この地域には名古屋から戦火をさけてたくさんの子どもたちが来ていて、被害にあってしまいました。 (キャッチネットワーク発行 DVDブック「三河地震から70年」)
https://www.katch.co.jp/kinjo/prevention/2.html
(9) 熊本地震から8年 死者の8割を占めた災害関連死の教訓から学ぶ
https://weathernews.jp/s/topics/202404/050215/
(10) 能登半島地震では避難所で十分に暖をとることができず、眠れない状況が続いている
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240115/k10014321601000.html
(11) 被害が大きかった花蓮市内の避難所は、冷房完備、簡易ベッドが備えられたプライバシーに配慮したテントが設置され、女性専用や特別支援者専用の寝室も設置されました。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900002158.html
(12) 危機管理アドバイザー 国崎信江氏:
実は、台湾は同じ地震大国ということから、日本で起きた東日本大震災や熊本地震の避難所の在り方を調べて、良いと思ったところを取り入れてきているんです。残念なのは、日本はこのスタイルなるまでに、発災から2~3週間以上かかっている。これに対して、台湾は発災から2時間で準備をして、3時間で受け入れを開始しているということなんです。
https://www.fnn.jp/articles/-/682444?display=full
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