紙魚子の小部屋 パート1

節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物のあれこれ、家族漫才を、ほぼ毎日書いています。

黄砂、突風、桜そして悪人

2006-04-08 20:23:37 | 読書
 今日は空が古い紙色の白さだった。黄砂だ。西も北も東の市内の山でさえ白い黄砂がかかってみえない。太陽すら肉眼で見えるくらい、突風で黄砂のカーテンが幾重にも引かれていた。

 桜はちらほらと咲き始めたが、この風にあおられて蕾みごとひきちぎられないか心配になる。花見提灯が桜の枝に下がり始めたので、明日あたりから「お花見」が始まるのかもしれない。

 本屋大賞で3位だった『死神の精度』、伊坂幸太郎氏の連作短編集のことを、このごろ毎日考えていた。
 魅力的なキャラクター、軽妙洒脱な会話、ハートウォーミングなエピソード、おしゃれでトリッキーなストーリーテラーの伊坂さんの作品が好きだったが、唯一、どうしようもない極悪人がでてきては、問答無用でやっつけられる展開には、いつも違和感を感じ続けていた。
 
 そりゃ人間とはおもえない非道な奴らなんだから、やっつけられて当然なのかもしれないけれど、なんだかそれってあまりに「いまの現実的」すぎて、なんだか。現実では悪い奴があまりにのうのうと生きてるからって、はらいせに小説の中でばっさり成敗しちゃうというのもなー。小説だからこそ、悪い奴に人間としての説得力をもたせなくちゃ。

 『死神の精度』は6つの連作短編集で、そのなかのひとつに『旅路を死神』がある。これを読んでなんだかとても安心した。キレる少年、殺人者のバックと救いを書いてくれて、どうもありがとう、と伊坂さんに握手を求めたくなるくらいだった。このラストは、しかし泣いたなー。

 このなかの恋愛小説の短編『恋愛で死神』は大好きな話で、何度も思い出しては泣いてしまった。短い話なのに、恋愛が始まるときのわくわくする感じに主人公といっしょにうれしくなり、死神の査定に「おいおい」と驚き、悲劇の中、ヒロインの最上の笑顔で終わるのが無性にせつない。

 『東京タワー』では、個人的な泣きのツボにはまらなかったけれど、『死神の精度』は何度も爆笑しつつ、何度も泣かされてしまったのでした。
『死神の精度』伊坂 幸太郎著

税込価格 : \1,500

出版 : 文件t秋