子供をよく育てることは簡単なことではない。
私は三人の子供たちを育てた。
それなりに個性的に育ってくれたと思う。
家は貧しくても、しっかりと育った子供は宝だ。
子供たちが小さいときは子育てにかなり時間を使ったが、中学校へ入った頃からはあまりケアをしなかった。
ただ、長男に一冊の本を渡した。
彼の人生を救ったのは、この本だと思っている。
それは宮城谷昌光さんの晏子(あんし)だ。
よい本だと思う。
息子はこの本から中国の歴史に興味を持つようになった。
結果的に国語の成績が良くなり、大学受験でも国語だけはすばらしい成績をとった。
今、中学生や高校生と話すときに、この本を読みなさいと勧めることにしている。
宮城谷さんの本は漢字のもつ意味をきちんと教えてくれる。
子供たちは、この本から知らない間にさまざまなことを学んだ。
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晏子は、紀元前500年頃、中国の斉の国の政治家だった。
『史記』「管晏列伝」によると、晏子は身長が「6尺(周代の1尺は22.5cm)に満たず」であったという。
しかし小さな体に大きな勇気を備え、常に社稷(国家)を第一に考えて上を恐れず諫言を行った。
人民に絶大な人気を誇り、君主も彼を憚った。
また質素を心がけ、肉が食卓に出ることが稀だった。
狐の毛皮を仕立てた一枚きりの服を、三十年も着ていたという。
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身近な知り合いに、引きこもりの子供を持つ人が多い。
できれば、中学校くらいのときに、晏子を読ませてあげて欲しい。
人間とは如何に生きるべきか。
責任をもつとは。
親を敬うとは。
人として大切なことを、嫌味なく教えてくれる。
中学校の頃から、子供は反抗期に入る。
それは、学校での順位づけが始まる年代だ。
他人との比較の中で、自分の立ち位置を決めなければならない辛さの反動で、親にあたる。
そうやって大人になっていくのだが、時々、自分の立ち位置を見つけられない子供がいる。
そんな子供を、親がきちんと理解してやる必要がある。
どうやってよいか分からなければ、晏子を読ませればよい。
できれば親も一緒に読むとよい。
それだけの価値がある。