耕平の家では、彼がすべての洗濯をしている。容量が小さいので、毎日洗わなくてはならない。それに、耕平のうちの洗濯機には乾燥機が付いていなかった。いつもは窓の軒先に干していたが、雨などで洗濯物を外に出せない時には、部屋干しにしていた。梅雨の時など雨が続くと、家の中がかび臭くなった。
耕平は小学校五年生だ。おかあさんと二人暮らしだった。駅から離れた所にある古い木造アパートに住んでいる。
おとうさんは、病気で二年前に亡くなっていた。その時、それまで住んでいた2DKの賃貸マンションを出て、今の古い1DKのアパートで暮らしている。
おとうさんが亡くなってからは、おかあさんがずっとフルタイムで働いていた。
でも、正社員ではない。契約社員といって、いつ会社に契約更新をしてもらえなくなるか分からない、不安定な立場だった。
おかあさんは、仕事からは早くても七時すぎに帰ってくるので、買い物に行く時間がない。そこで、おかあさんは、前の晩に夕食の献立を考えてメモにしておく。そのメモを持って、耕平が夕食の買い物に出かけている。
それ以外の買い物も耕平の役目だ。食料品だけでなく、洗剤やその他の日用品もドラッグストアで買ってくる。
アパートから歩いて五分ぐらいの所にスーパーがある。同じ敷地にドラッグストアもあった。だから、買い物には便利だった。
おかあさんは、家に帰ってから、二人の遅い夕食の支度をしていた。
ある日、耕平がいつものスーパーに買い物に行くと、目の前に自分より小さな男の子がいた。二、三年生ぐらいに見える。親と一緒じゃない子がスーパーにいるのは珍しいので、耕平はうしろすがたを何気なく見ていた。もっとも、自分自身もそんな子どもの一人なのだが。
男の子は、スーパーのかごと手提げ袋を持っている。袋の中にはタオルが入っていた。
売り物でもないタオルが入っているのは、誰が見ても不自然だった。
突然、男の子がカップ麺を手提げ袋のタオルの下に入れた。
(万引きだ)
耕平は直感的にそう思った。
男の子はその後も、スナックやお菓子を次々にタオルの下に入れた。耕平は買い物をやめて、男の子の後をつけていた。
男の子は、レジを通らずにそのままスーパーを出ていった。幸か不幸か、店の人には万引きを気づかれなかったようだ。
耕平は買い物をやめて、とっさに男の子の後に続いて店を出ていった。耕平が買おうと思った品物が入った買い物かごは、カートの上に放置したままだ。
康平が後をつけているのも気づかずに、男の子は歩いて10分ぐらいの所にある、耕平のうちよりもさらに古びたアパートへ入っていった。
その後も、耕平は同じスーパーで何度も男の子が万引きするのを見かけた。毎回、せいぜい数百円の物しか盗まない。それも調理しないですぐに食べられるものばかりだった。
とうとう男の子が、店の人に捕まってしまう。お金を払わずに店を出た所を、保安員に捕まったのだ。どうやら前からマークされていたようだ。
男の子は、事務所へ連れて行かれる。その子は、お金をぜんぜん持っていなかった。
店の人が、男の子にいろいろと尋ねた。この子の事情をうすうす気づいたのか、店員はそれほど厳しくはしなかった
それでも、男の子は何も話さない。
男の子が捕まったことに気付いた耕平は、事務所へ入っていった。
「君はこの子のおにいさん?」
店の人に聞かれた。
「違いますけど」
「どうもこの子は何度も万引きをやっているようなので、警察を呼ばないといけない」
と、店の人に言われた。店の人もどういていいか困っているようなのだ。
耕平がお金を払って代わりに謝った。今日もカップ麺とスナック菓子と飲み物だけだったので、耕平の手持ちのお金でも十分に足りた。
「もう二度とやらせませんから」
耕平がそう言うと、店の人も相手が小さな子なのでか許してくれた。なんだかホッとしているみたいだった。
耕平は、男の子と一緒に彼のアパートへ行った。
何もないがらんとした部屋だった。カップ麺やお菓子の袋が散らばっている
この子も母親と二人暮らしなのだが、最近はあまり家に帰ってこないので、一人で暮らしていたのだ。お金も置いていかないので、母親がいない時は食事ができない。
この子にとっては、給食だけが唯一の頼りだった。
でも、その給食費を長いこと払っていない。
ある日、先生に、みんなの前で給食費を払っていないことを、不用意に言われてしまう。
それ以来、友だちに、
「お金を払っていないのなら食べるな」
と、言われるようになってしまった。
そのため、この子は学校にも行かなくなってしまったのだ。だから、この子にとっては命の綱の給食も食べられないようになっていたのだ。それ以来、空腹に耐えられなくなると、万引きをしていたようなのだ。
耕平は、
「おかあさんが帰ってこない時は、うちに夕食を食べにおいで」
と、その子に言った。自宅の地図を書いて渡しておいた。
数日後、本当に男の子が耕平の家にやってくる。
話を聞いていたおかあさんが、男の子の分まで夕食を作ってくれた。
三人で一緒に食事をする。男の子がうれしそうな笑顔を浮かべた。
耕平は小学校五年生だ。おかあさんと二人暮らしだった。駅から離れた所にある古い木造アパートに住んでいる。
おとうさんは、病気で二年前に亡くなっていた。その時、それまで住んでいた2DKの賃貸マンションを出て、今の古い1DKのアパートで暮らしている。
おとうさんが亡くなってからは、おかあさんがずっとフルタイムで働いていた。
でも、正社員ではない。契約社員といって、いつ会社に契約更新をしてもらえなくなるか分からない、不安定な立場だった。
おかあさんは、仕事からは早くても七時すぎに帰ってくるので、買い物に行く時間がない。そこで、おかあさんは、前の晩に夕食の献立を考えてメモにしておく。そのメモを持って、耕平が夕食の買い物に出かけている。
それ以外の買い物も耕平の役目だ。食料品だけでなく、洗剤やその他の日用品もドラッグストアで買ってくる。
アパートから歩いて五分ぐらいの所にスーパーがある。同じ敷地にドラッグストアもあった。だから、買い物には便利だった。
おかあさんは、家に帰ってから、二人の遅い夕食の支度をしていた。
ある日、耕平がいつものスーパーに買い物に行くと、目の前に自分より小さな男の子がいた。二、三年生ぐらいに見える。親と一緒じゃない子がスーパーにいるのは珍しいので、耕平はうしろすがたを何気なく見ていた。もっとも、自分自身もそんな子どもの一人なのだが。
男の子は、スーパーのかごと手提げ袋を持っている。袋の中にはタオルが入っていた。
売り物でもないタオルが入っているのは、誰が見ても不自然だった。
突然、男の子がカップ麺を手提げ袋のタオルの下に入れた。
(万引きだ)
耕平は直感的にそう思った。
男の子はその後も、スナックやお菓子を次々にタオルの下に入れた。耕平は買い物をやめて、男の子の後をつけていた。
男の子は、レジを通らずにそのままスーパーを出ていった。幸か不幸か、店の人には万引きを気づかれなかったようだ。
耕平は買い物をやめて、とっさに男の子の後に続いて店を出ていった。耕平が買おうと思った品物が入った買い物かごは、カートの上に放置したままだ。
康平が後をつけているのも気づかずに、男の子は歩いて10分ぐらいの所にある、耕平のうちよりもさらに古びたアパートへ入っていった。
その後も、耕平は同じスーパーで何度も男の子が万引きするのを見かけた。毎回、せいぜい数百円の物しか盗まない。それも調理しないですぐに食べられるものばかりだった。
とうとう男の子が、店の人に捕まってしまう。お金を払わずに店を出た所を、保安員に捕まったのだ。どうやら前からマークされていたようだ。
男の子は、事務所へ連れて行かれる。その子は、お金をぜんぜん持っていなかった。
店の人が、男の子にいろいろと尋ねた。この子の事情をうすうす気づいたのか、店員はそれほど厳しくはしなかった
それでも、男の子は何も話さない。
男の子が捕まったことに気付いた耕平は、事務所へ入っていった。
「君はこの子のおにいさん?」
店の人に聞かれた。
「違いますけど」
「どうもこの子は何度も万引きをやっているようなので、警察を呼ばないといけない」
と、店の人に言われた。店の人もどういていいか困っているようなのだ。
耕平がお金を払って代わりに謝った。今日もカップ麺とスナック菓子と飲み物だけだったので、耕平の手持ちのお金でも十分に足りた。
「もう二度とやらせませんから」
耕平がそう言うと、店の人も相手が小さな子なのでか許してくれた。なんだかホッとしているみたいだった。
耕平は、男の子と一緒に彼のアパートへ行った。
何もないがらんとした部屋だった。カップ麺やお菓子の袋が散らばっている
この子も母親と二人暮らしなのだが、最近はあまり家に帰ってこないので、一人で暮らしていたのだ。お金も置いていかないので、母親がいない時は食事ができない。
この子にとっては、給食だけが唯一の頼りだった。
でも、その給食費を長いこと払っていない。
ある日、先生に、みんなの前で給食費を払っていないことを、不用意に言われてしまう。
それ以来、友だちに、
「お金を払っていないのなら食べるな」
と、言われるようになってしまった。
そのため、この子は学校にも行かなくなってしまったのだ。だから、この子にとっては命の綱の給食も食べられないようになっていたのだ。それ以来、空腹に耐えられなくなると、万引きをしていたようなのだ。
耕平は、
「おかあさんが帰ってこない時は、うちに夕食を食べにおいで」
と、その子に言った。自宅の地図を書いて渡しておいた。
数日後、本当に男の子が耕平の家にやってくる。
話を聞いていたおかあさんが、男の子の分まで夕食を作ってくれた。
三人で一緒に食事をする。男の子がうれしそうな笑顔を浮かべた。