この短編集の表題作です。
中編といってもいいぐらいの長さがあり、他の短編と違ってかなり風刺性が強く、幼い読者にはやや難しいかもしれません。
トラゴロウ(実はサーカスのトラであるトラノスケ)を眠らせて、薬に使えるというトラの胆をとろうとする医者や猟師夫婦、さらにはサーカスの団長たちを相手に、トラゴロウをはじめとした森の動物たちとサーカスの動物たちが団結して戦います。
悪い人間(大人)たちによって、檻(学校?)に入れられたり、搾取されたりしている動物(子ども)たちに、目をさまして戦おうと呼びかけ、最期は動物(子ども)たちの勝利に終わります。
作者があとがきに述べているとおりに、作者の「ものの見かた・考えかた」が、この作品では特に色濃く表れています。
その背景については、他の幾つかの記事に詳しく述べているのでここでは触れませんが、作中の「トラゴロウの目をさますうた」や「まちが かわる日のうた(他の記事に全文を引用しています)」の覚醒と連帯を求める痛切な響きは、現在の困難な状況(格差社会、貧困、差別、いじめ、ネグレクト、学校や親の過剰な管理、孤独など)にある子どもたちにとっても力になるものだと思います。
作者があとがきに述べている「人間の成長とは、その人間のいまだ歳いたらぬ心の中に生れ出た、ものの見かた・考えかたの成長と発展にほかならない」という主張は、児童文学に携わるすべての人間が自覚していなければならないことですが、現在の商業主義に偏った出版状況の中では、「歳いたらぬ心の中に生れ出た、ものの見かた・考えかたの成長と発展」に資する作品のどんなに少ないかを嘆かなければなりません。
目をさませトラゴロウ (新・名作の愛蔵版) | |
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