音楽的にリーダーの資質の星に産まれる人は稀である。
ブルガリアではテオドシ・スパソフやペーター・ラルチェフ、イヴォ・パパゾフといった人たちだ。
今回、相方のアタが前からハマりまくって聴かせてくれていた、そのスパソフの「フォーク・クインテット」のソフィア・サマーフェストでのチケットを入手してきてくれた。
スパソフはまず、カヴァルという楽器の奏法を極限まで改革した人。__声や歌とのミックス、特殊奏法など__それに作品が驚愕。極シンプルで、いくつかの音しか使ってないというのに、すごい求心力と即興スペースを持っている。
まさに「ブルガリアン・フォークジャズ」の王道、この人の音を無くしてはそれは語れない。
リーダーというのは、「楽器がめちゃ上手い」とか「音楽性に優れている」また単に「リーダー気質である」などの表面的な能力だけでは務まらない。
それには他に譲らない作曲能力と、それに基づくはっきりとした方向性、共演者を選べ、かつ、最大限に彼らの能力を発揮させる、深い哲学に基づいたインテリジェンスが求められる。
それがないと、人は誰もついて行かないからだ。
このクインテットは奏者たちも本当に素晴らしい。
グループは、単に上手い奏者を寄せ集めたからって成功するものではないと思う。
頭で考えて「良い奏者」を寄せ集めたグループはたいてい長続きしない。
ガドゥルカのペヨ・ペエフさんは、私たちが初めてペーターさんと共演した時一緒にいらっしゃった方だが、すっとスペースが空いた時にさりげなく入ってくれるセンス、その優しさと柔軟性は他に類を見ない。その繊細さは作編曲家やピアニストとして、また現代の機材をも使いこなす多才に支えられる。誰もが彼と共演したがるのもよく分かる。
先日テレビで見たとき(原始な編成。) の、ペヨさんの天上のソロ。
ガイダ(バグパイプ)の方は、本当に明るく、才能の赴くままに即興を繰り広げる人で、哲学的なスパソフさんとの対比がとても良く、この3者のミックスに聞き飽きることがない。
それを支えるタッパン(パーカッション)とリズムギター、時折使っているエフェクトペダルのカラーも良かった。
私が個人的にスパソフの好きなところは、独自の足跡、努力が見えるところだ。
ペーター・ラルチェフみたいな弾いているうちにどんどん何か出てくる天才タイプと違い、彼は即興の途中で止まって、考えてから何かを出していくタイプと思う。
だからペーターさんみたいに、次から次に出るフレーズの即興の中で永遠にエクスタシーが続いていく、みたいな感じでなく、今回聴いた彼は、一つのエレメントを捉えたら、そこを狂気で掘り下げることによって、そこにものすごい強さが産まれてきていた。
これがその渾身のカヴァルソロ!
ブルガリア音楽だけでなく多彩なジャンルを開拓し、そういう自分の気質を自分で知ってじっと見つめ、掘り下げてついにここまで来たんだなあと、感動を新たにした。
自分というものを分かり、自分の核に近づき、極めること。
そのお手本を見せてくれるのがスパソフさんなんである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます