第33回アメリカズカップを考える(その2)

2008年03月27日 | 風の旅人日乗
何と驚いたことに、抗告はしないと宣言していたアリンギのアーネスト・ベルタレーリは、昨日(ニューヨーク時間3月26日)の、ジュネーブでのゴールデンゲート・ヨットクラブとの直接交渉の後、ニューヨーク最高裁のハーマン・カーン裁判官に提訴した。

次回アメリカズカップの開催時期について、ゴールデンゲート・ヨットクラブが主張する今年10月を不服だとする訴えだ。
昨年の11月に、アリンギが捏造して祭り上げた挑戦者代表ヨットクラブ(在スペイン)には、その資格がなく、したがって、すでに昨年7月に挑戦の名乗りを上げていたゴールデンゲート・ヨットクラブが次回アメリカズカップの挑戦者だと正式に認められた。
この判決が出た日時を「挑戦状を提出してから10ヵ月以降にレースを行なうことができる」とする贈与証書での規定の起点とすれば、ゴールデンゲート・ヨットクラブは今年10月の開催を、まったくルール通りに主張することができる。

しかし、アリンギのベルタレーリは、まるでゴールデンゲート・ヨットクラブとBMWオラクル・レーシングが不当な主張をしているかのようなプレス・リリースをインターネットで乱発したうえで、ジュネーブの自分の本拠にわざわざゴールデンゲート・ヨットクラブの代表を呼びつけた話し合いの席を蹴って、弁護士団に訴訟を指示した。

セーリング競技というスポーツは、『忍耐』を否応なく学ばざるを得ないスポーツだ。アーネスト・ベルタレーリは事業では3代目として大成功を収めた人物だが、セーリング競技で鍛え上げられたセーラーではないのかもしれない。
彼は現在のアメリカズカップ・チャンピオンであるチームを率いている人物であり、自身もそのチームのアフターガードとしてセーラーを名乗っている。しかし、ここのところの彼の行動は、『忍耐』を知るトップ・セーラーとしての行動ではなく、『殿の御乱心』としか思えないような、子供じみた行動としか思えない。
このところのアメリカズカップが混迷している一連のことがらのすべては、第33回アメリカズカップを自身に都合のいいように運営しようと姑息な手段を使ったベルタレーリ自身が引き起こしたことであるにも拘らず、そのことは一切棚の上に上げてしまって、自分にたてつく相手だけを攻撃する、わがままに育ったお坊ちゃまのような行動のように思える。

また、BMWオラクル・レーシングはすでに水線長90フィートのマルチハルをアメリカ国内で建造中だが、このことを指して「ラリー・エリソンは狡猾だ」と言うのも間違っている。BMWオラクルは贈与証書に従って「こういう艇で挑戦します」と挑戦状を送り、それに従って挑戦艇を建造しているに過ぎない。

この、ベルタレーリの訴訟の直前に出された、エミレーツ・チーム・ニュージーランド代表のグラント・ダルトンの,以下のコメントに大賛成するセーラーは世界中に数多くいるのではないかと思う。

「アリンギが今年10月のBMWオラクル・レーシングとの1対1のアメリカズカップに対応できないと言うのなら、アリンギは、すべてのアメリカズカップ挑戦チーム、それらのチームにスポンサードしている企業、それらのチームに所属しているセーラーや関係者のために、今すぐアメリカズカップをゴールデンゲート・ヨットクラブとBMWオラクル・レーシングに渡してしまうべきだ。それが彼らの最良の選択肢だ」とグラント・ダルトンは主張する。

さらにダルトンは、次のように続ける。
「今すぐアリンギはアメリカズカップをBMWオラクル・レーシングに渡すべきだ。そうすれば、BMWオラクル・レーシングはその他のアメリカズカップ挑戦チームとも連携して話し合いをすでに持っているから、次のようなスケジュールで今後のアメリカズカップを、正常な状態に戻すことが可能だ。

つまり、まず今年、2007年の夏・秋は、古いバージョンのアメリカズカップクラスの艇を使ってバレンシアでいくつかのレガッタを行なうことができる。
来年2008年から2009年にかけては、アリンギが提案した90フィートの新しいアメリカズカップクラスの艇による予選シリーズを行ない、2010年に(これまでのように)複数の挑戦者が挑戦するアメリカズカップを開催することが可能になる。
アリンギが(よくプレス・リリースで口にするように)本当にアメリカズカップに関わるセーラーやスポンサーのことを考えているのなら、この正しい選択をすることを切に願う」。