それを最初に見たのは、いつのことだったかな。
船を下りたホクレアのクルーたちがほとんど必ず片手にぶら下げている、白いプラスチックのバケツのことだ。
最初は、確か2006年の12月に、日本航海の時期やコースについてナイノアと第1回めの打ち合わせをするためにホノルルのサンドアイランドに行ったときだったかな?
ホクレアのクルーたちが、それぞれ1個ずつ、若干大切そうにぶら下げて歩いているのを見て、少々、しかし深くいぶかしんだ。
アカ汲みなどに使う、ホクレアの備品なのか? それではなぜクルーたちはそれを車の助手席に積んで、家に持ち帰っていくのか?
なぜ、全部に細かな落書きがされているのか?
その謎は、4月にパラオでホクレアを迎えたときに解けた。
あのバケツは、水密のふた付きで、航海中に濡れてほしくない個人の備品を入れるためのものだったのである。そして自分のものと人のものが区別が付くように、それぞれ意匠を凝らした落書きをしているというわけだったのだ。
ホクレアが沖縄に到着して、クルーたちと行動を共にするようになると、クルーたちにとってあの白いバケツがどんなに大切なものなのかが理解できるようになった。もう、なんというか、ほとんど肌身離さず、という感じ。
タクジ君などは、暇があるといつも、頻繁にふたを開けてその中身を整理したり、またかき回したり、している。
ホクレアの日本航海が終わりに近づいた頃、ぼくはついにそのバケツを手に入れることができた。
ある日、カマヘレのマイク船長とテリーに呼ばれ、行ってみると、「これは我々が慎重に相談した結果なのだ。これを君に捧げる」と言って、まだ未使用の、しかも中身入りのそれを厳かにプレゼントしてくれたのだ。
手渡してもらう前後の会話と、言外のニュアンスから察して、このバケツを所有することは、ホクレア&カマヘレの正式のクルーになった証なのである、と勝手に悟った。
さてこのバケツの正体は、ホクレアのクルーたちの好物であるクッキーの、お徳用サイズの中身が湿気ないための水密容器であった。
ホクレアのクルーたちはその中身を平らげた後、その容器を航海中の防水私物入れとして二次利用しているのだ。
実際は二次利用に回されてからの活躍のほうが人目につく。
写真はそのバケツに貼られているラベル。
このバケツ入りクッキーを製造販売しているホノルルのダイヤモンド・ベーカリーのウエブアドレスは、
www.diamondbakery.com
です。