日本セーリング連盟のウエブ版会員誌『J-Sailing』に、表題のような連載記事を担当することになった。
J-Sailingのアップよりも少しずつ遅らせてこちらにも掲載することを許可していただいたので、転載することにします。
日本からアメリカスカップに挑戦する意義を理解する力があり、応援を下さる力も有している、民度の高い企業の経営者の方々の目に留まることを念じて、書いていきます。
目次的には、以下のような順序を追って解説していこうと思っています。
1、第34回アメリカズカップ議定書の基本理念
2、第34回アメリカズカップの制式艇 AC72
3、2013年の第34回アメリカズカップ本戦に至るまでのレースフォーマット
4、第34回アメリカズカップへのエントリーの要件
5、第34回アメリカズカップの新しい試み ユースアメリカスカップとは
6、第34回アメリカズカップの開催場所はどこに?
7、第34回アメリカスカップエントリーが予想されるチームの横顔
8、第34回アメリカズカップ、日本から挑戦の可能性は
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2013年開催 第34回アメリカズカップ議定書を解読する (第1回)
1、第34回アメリカズカップ議定書の基本理念(その1)
2007年7月3日。
スイスのジュネーブ・ヨットクラブ所属のアリンギの勝利で第32回アメリカズカップが終了した。
[photo/32nd America's Cup]
そしてそのわずか2日後、アリンギは素早く第33回アメリカズカップ議定書を発表。しかし、その議定書が発端となって、第33回アメリカズカップは迷走に次ぐ迷走を始めたのだった。
その議定書が発表されるとすぐに、BMWオラクルレーシングをはじめとする複数の挑戦予定チームが、あまりに防衛側有利に作られているその議定書に一斉に反発した。
それに続いて、挑戦者代表として防衛側から指名されたスペインのヨットクラブが、防衛側が不正に仕立てた、会員さえいない実体のない傀儡(操り人形)ヨットクラブであることが判明した。
この辺りから第33回アメリカズカップは2年半に渡る裁判所での混乱に突入したのだったが、今年2010年2月、裁判所から正式に挑戦者代表として認められた米国サンフランシスコのゴールデンゲイト・ヨットクラブが送り出したBMWオラクルレーシングが、圧勝で第33回アメリカズカップを制したのは、ご存知の通り。
[photo/33rd America's Cup]
つまり、前回の第33回アメリカズカップの混迷は、あまりに防衛者側に有利で、アンフェアな議定書から始まった。
だから、前回の挑戦者たちの急先鋒になって防衛側と裁判所で徹底的に闘い、2年以上をかけて海上での一騎打ちに持ち込み、そこで正々堂々とアメリカズカップを勝ち取ったゴールデンゲイト・ヨットクラブが、自らで定めた提出期限までに、どのようにフェアな第34回アメリカズカップ議定書を作り上げてくるのか、に、挑戦を目論んでいる関係者たちの関心が集まっていた。
アメリカズカップの議定書を作る作業は、防衛者が主導権を持っているものの、挑戦者代表との合同で進め、2者連名での書類として完成する。
今回の挑戦者代表に選ばれたのは、イタリアのクルブ・ノティーコ・ディ・ローマ(ローマ・ヨットクラブ)と、そのクラブが送り出す挑戦チーム、マスカルツォーネ・ラティーノ。
マスカルカルツォーネ・ラティーノのオーナーであり代表を務めるのは、ヴィンチェント・オノラート。
[photo/34th America's Cup]
イタリア海運界の実業家であるオノラートは、第31回と第32回アメリカズカップにオーナー/プレイヤーとして挑戦してきただけでなく、ヘルムスマンとしてワンデザイン・クラスのマム30とファー40の世界選手権で複数回優勝している現役トップセーラーでもある。
最近は、話題のメルジェス32に乗ってイタリア国内レースでのデビュー戦を飾っている。
オノラートは、ファー40で世界チャンピオンになったときはタクティシャンにラッセル・クーツを迎えているし、クーツが自身で艇を開発して世界ツアーもプロモートしているラッセル・クーツ44クラス艇の、ごく初期の頃からのオーナーでもある。二人の親密さはセーリング界ではよく知られている。
[photo/34th America's Cup]
アメリカズカップを離れても親密な関係を持っている防衛チームの最高経営責任者クーツと、挑戦者代表チームのオーナーであるオノラートが共同でまとめた議定書だから、作成作業は順調に進んだに違いない。
[photo/34th America's Cup]
だが、そういう二人が中心になって作った議定書だからこそ、第34回アメリカズカップに挑戦することを計画しているチームにとっては、その2チームにだけ有利な内容がどこかに隠されていないか、入念にチェックする必要のある、第34回アメリカズカップ議定書でもあったのだ。
その注目の第34回アメリカズカップ議定書が、9月13日、バレンシアのBMWオラクルレーシングのコンパウンドで発表された。
[photo/34th America's Cup]
(つづく)
J-Sailingのアップよりも少しずつ遅らせてこちらにも掲載することを許可していただいたので、転載することにします。
日本からアメリカスカップに挑戦する意義を理解する力があり、応援を下さる力も有している、民度の高い企業の経営者の方々の目に留まることを念じて、書いていきます。
目次的には、以下のような順序を追って解説していこうと思っています。
1、第34回アメリカズカップ議定書の基本理念
2、第34回アメリカズカップの制式艇 AC72
3、2013年の第34回アメリカズカップ本戦に至るまでのレースフォーマット
4、第34回アメリカズカップへのエントリーの要件
5、第34回アメリカズカップの新しい試み ユースアメリカスカップとは
6、第34回アメリカズカップの開催場所はどこに?
7、第34回アメリカスカップエントリーが予想されるチームの横顔
8、第34回アメリカズカップ、日本から挑戦の可能性は
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2013年開催 第34回アメリカズカップ議定書を解読する (第1回)
1、第34回アメリカズカップ議定書の基本理念(その1)
2007年7月3日。
スイスのジュネーブ・ヨットクラブ所属のアリンギの勝利で第32回アメリカズカップが終了した。
[photo/32nd America's Cup]
そしてそのわずか2日後、アリンギは素早く第33回アメリカズカップ議定書を発表。しかし、その議定書が発端となって、第33回アメリカズカップは迷走に次ぐ迷走を始めたのだった。
その議定書が発表されるとすぐに、BMWオラクルレーシングをはじめとする複数の挑戦予定チームが、あまりに防衛側有利に作られているその議定書に一斉に反発した。
それに続いて、挑戦者代表として防衛側から指名されたスペインのヨットクラブが、防衛側が不正に仕立てた、会員さえいない実体のない傀儡(操り人形)ヨットクラブであることが判明した。
この辺りから第33回アメリカズカップは2年半に渡る裁判所での混乱に突入したのだったが、今年2010年2月、裁判所から正式に挑戦者代表として認められた米国サンフランシスコのゴールデンゲイト・ヨットクラブが送り出したBMWオラクルレーシングが、圧勝で第33回アメリカズカップを制したのは、ご存知の通り。
[photo/33rd America's Cup]
つまり、前回の第33回アメリカズカップの混迷は、あまりに防衛者側に有利で、アンフェアな議定書から始まった。
だから、前回の挑戦者たちの急先鋒になって防衛側と裁判所で徹底的に闘い、2年以上をかけて海上での一騎打ちに持ち込み、そこで正々堂々とアメリカズカップを勝ち取ったゴールデンゲイト・ヨットクラブが、自らで定めた提出期限までに、どのようにフェアな第34回アメリカズカップ議定書を作り上げてくるのか、に、挑戦を目論んでいる関係者たちの関心が集まっていた。
アメリカズカップの議定書を作る作業は、防衛者が主導権を持っているものの、挑戦者代表との合同で進め、2者連名での書類として完成する。
今回の挑戦者代表に選ばれたのは、イタリアのクルブ・ノティーコ・ディ・ローマ(ローマ・ヨットクラブ)と、そのクラブが送り出す挑戦チーム、マスカルツォーネ・ラティーノ。
マスカルカルツォーネ・ラティーノのオーナーであり代表を務めるのは、ヴィンチェント・オノラート。
[photo/34th America's Cup]
イタリア海運界の実業家であるオノラートは、第31回と第32回アメリカズカップにオーナー/プレイヤーとして挑戦してきただけでなく、ヘルムスマンとしてワンデザイン・クラスのマム30とファー40の世界選手権で複数回優勝している現役トップセーラーでもある。
最近は、話題のメルジェス32に乗ってイタリア国内レースでのデビュー戦を飾っている。
オノラートは、ファー40で世界チャンピオンになったときはタクティシャンにラッセル・クーツを迎えているし、クーツが自身で艇を開発して世界ツアーもプロモートしているラッセル・クーツ44クラス艇の、ごく初期の頃からのオーナーでもある。二人の親密さはセーリング界ではよく知られている。
[photo/34th America's Cup]
アメリカズカップを離れても親密な関係を持っている防衛チームの最高経営責任者クーツと、挑戦者代表チームのオーナーであるオノラートが共同でまとめた議定書だから、作成作業は順調に進んだに違いない。
[photo/34th America's Cup]
だが、そういう二人が中心になって作った議定書だからこそ、第34回アメリカズカップに挑戦することを計画しているチームにとっては、その2チームにだけ有利な内容がどこかに隠されていないか、入念にチェックする必要のある、第34回アメリカズカップ議定書でもあったのだ。
その注目の第34回アメリカズカップ議定書が、9月13日、バレンシアのBMWオラクルレーシングのコンパウンドで発表された。
[photo/34th America's Cup]
(つづく)