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経済学は難しい11

2005年11月24日 22時29分10秒 | 経済関連
面白い文献を見つけました。色々辿ってみたら出会いました。さすがは経済産業研究所だね。少し古いのもありますが、ロナルド・ドーアの論説は非常に参考になりました(そう言えば田中先生が書評を書いてましたね)。自分の今まで見てきた議論も含まれており、なるほどそういうことですか、と勉強になります。ここ最近続いている量的緩和解除を巡る諸問題に伴って、「インフレ・ターゲットのフレームワークとしての採用」(by 中原審議委員)についても、議論は再燃してくるでしょう。

インフレ抑制から維持へ RIETI 経済産業研究所

RIETI ポリシーディスカッション


特に目を引いたのは次の部分。
(下段の記事から一部抜粋)


具体的にいえば、次の4つの命題を区別しなければならないと思う。

1.現在の時点で、その目標の0%を2-3%に引き上げるべきかどうか。

2.2-3%の正の目標を採用したら、そのアナウンスメント効果だけでも景気に影響するかどうか。

3.日銀の使命である「物価安定」の解釈を(2、3%の)「価格上昇率安定」までに弾力的に拡大解釈できるかどうか。

4.現在できるかどうかは別として、原則として2-3%のインフレを安定して維持する事がマクロ経済政策として好ましいかどうか。

私のその4つの設問に対する答えはこうだ。

1.然り。

2.目標設定のアナウンスメントだけならあまり影響しないだろうが、エコノミストの誰しもが「これは確かにインフレを起こしそうだ」というような大胆な政策を伴った目標設定の発表なら、アナウンスメント効果も十分ありうる。

3.恐らく無理だろう。むしろ日銀法を改正して、目標インフレ率を政府が設定するように制度を変えた方が、すっきりするばかりではなく、却ってそれこそアナウンスメント効果を最大化する手段ともなりうる。

4.好ましい。



日本人にない、インパクトのある論説ですね。ちょっと感動。


インフレ・ターゲッティング政策に関してOECD加盟国の採用状況についても、日銀内部ではよく知っているでしょうし、そういった国々のCPI やその他経済指標の変動も調べていることでしょう。なので、その政策を採用しない、ということであれば、日本特有の経済学的理由(日本だけがインフレ・ターゲティング政策を採用すると大きなデメリットを生ずるという理由)が必要となるのですから、透明性確保ということを掲げる以上、説得的な説明がなされて当然ですね。ユーロ圏が一つの中央銀行となっていますから、30カ国より少なくなりますが、19あるうち14の中央銀行でインフレターゲットが採用されているそうじゃないですか。


ドーアが上の文献中で述べているように、「インフレ維持」という意味合いも当然あるでしょうね。ニュージーランドはかつてインフレ目標下限を0%にしていたそうですが、その後CPI が99年頃にマイナスとなって「デフレ傾向」となった為、下限を引き揚げて1%に改めたということです。


通常の先進国では、どこの国であっても「デフレでいいんだ」なんてことは金融政策としては採用しておらず、インフレ期待があるから、ということでゼロを目標とすることも、どこの国でもやっていないんですよ。私はブログを始める以前には、経済学には何の興味もなかったし、日銀の金融政策についても、「金利が下がるんだな~」くらいにしか感じていませんでしたが、日本経済にこれほどの停滞が起こり多くの悲劇を生んできた背景にあったことは、デフレであったのだな、と思いました。インフレ・ターゲットなんて聞いたことも無かったのですが、実は既に95年頃から日銀でも幾つかの研究を始めていて、一体今まで何をやってきたのか、と思いますよ。


初めてブログで見かけた時には、極々少数派の「怪しげな(というか不可解な)」理論(無知でゴメンナサイ、初期の頃は特定のマイナーな人々が敗北に打ちひしがれて主張してるかのような錯覚をしてしまいまして)なのかと思ったのですけれども、今まで色々見てくると、政府の委員の学者さん達や日銀内部の人達や、その他大勢の学者達などがその理論に基づいて運営を考えた方がいい、と言っているんですね。国内外からの、両方ですね。経済財政諮問会議の出した「21世紀ビジョン」にもちゃんと文言が入っている。これほどの支持を得ていて、何故政策として実行されてこなかったのか、というのは本当に疑問に思います。選択しなかった理由とは一体何なのか?って。


日銀が数々の研究の結論として「インフレターゲットは採用しない、出来ない」という主張をするのであれば、その論拠を提示するべきですね。「万能ではない」というのは、そりゃ判りますよ。ですがね、多くのOECD加盟国で採用されていて、きちんと機能していて、実証的にも導入後の年数は結構経ってきてますから、日本でも十分出来るということのようです。大幅なインフレを抑制するために機能していたんだ、デフレで採用された実績はないんだ、ということも理由の一部にあるのかもしれないですが、先のニュージーランドとか1930年代のスウェーデン(金本位制離脱などもあったようですので、単純ではないかもしれませんが)で、デフレ危機を脱しているようです。


そういった過去の例や他国の例を十分に研究し尽くしてきたんでしょうから、いい加減に「導入できない理由はこれ」と示してくれてもいいと思いますね。少なくとも量的緩和解除に関しての説明と同程度でよろしいですから。


インフレ期待に関する日銀の調査レポートでも次のように述べられています。

インフレ期待の形成について

以下に一部抜粋します。

『仮に、このように、合理的な期待形成が優勢となっているとすれば、(1)人々の中央銀行への信認が十分であり、かつ(2)中央銀行自身が判断の誤りを犯さない限りにおいて、中央銀行は、現時点の経済環境に基づいたメッセージを適切に発信することによって現時点の人々の期待形成にリアルタイムに働きかけることが可能となる。この場合、中央銀行がメッセージを発信した時点の経済環境とその結果が発現してくる時点での経済環境の差異が小さいため、中央銀行が意図した通りの反応がより効率的に得られ、経済全体にとっても政策発動と効果顕現化のタイムラグに起因する社会的損失が少なくて済むと思われる。このような状況下では、中央銀行による適切な情報提供が政策効果を高めることにつながり得る。近年議論されている中央銀行の透明性とアカウンタビリティーの向上は、こうした観点からも重要と言えよう。』


なかなか「いいこと」を言ってますね。

合理的期待形成には、中央銀行の適切な情報提供が政策効果を高めるんでしょ?適切な情報を提供して下さいな。「デフレ脱却」=「インフレ」という期待を形成してくれ、頼むから。透明性とアカウンタビリティに基づいて、「インフレ・ターゲットを導入しない理由」「緩やかなインフレを許容できない理由」「14のOECD加盟国で採用されている理由」を示してくれ。さもないと、国民の中央銀行に対する信認が低下してしまい、効果が不十分となってしまうのではないですか?日銀内部にさえある意見なのに、それが「間違ってる」と主張するならば、その理由を述べて欲しい。


福井総裁も、(政策決定の)「透明性確保」とおっしゃっていたではありませんか?