これまでの続きですが、頂いたコメントにお答えしたいと思います。
知事の能力を疑う~政務調査費の返還請求について
続・知事の能力を疑う~政務調査費の返還請求について
「住民が選んだんだよ、議員を。」~by 太田大阪府知事
続・「住民が選んだんだよ、議員を。」~by 太田大阪府知事
まず、コメントを再掲致します。
今回の知事の一連の発言は「監査自体が異例の事態」を起点において始まっていると思いますが、この発言について以下の理由から正当性ありと判断しております。
そもそも、地方自治法は戦前の行政権のあり方の反省もあり三権分立の思想により「議会及び監査委員会により知事を筆頭とした地方行政組織の事務執行を監視すること」を想定して法律が作られており、「知事をはじめとした事務の執行機関が地方議会(議員)を監視する事は想定外」な事とされてきました。知事を筆頭に地方行政事務は議会・監査委員の監視下におき、議会は住民を通して(司法権の介入を含む)監視する事が前提とされてきました。
この事は、第242条の住民監査請求が議長・議員の行為を対象としない旨について、議長には最高裁・議員には下級裁判所の判例があり、これを覆す判例は今の所ない事もあって確定した法解釈とされてきました。また第199条の監査請求(外部監査込み)は「地方公共団体の事務」を対象としており、議長・議員の行為は対象に含まれないとの解釈がありこれを正面から覆す判例は今の所無いとされていたと思われます。
そのようなわけで、議長・議員の行為は監査請求の対象とはならず(監査委員は議長・議員の行為について監査できず)、しかし措置の請求の対象とはなりうるとされてきました。これは、議決無く行政事務の変更を行えない事案もあることを想定して措置の対象と定められたとされていました。
ところが、今回「議員の行為(政務調査費の具体的な使い方)」について監査報告及び措置の請求がなされました。これは過去の法律の運用からすると当否は別として異例の事態であったことは確かのように思います。
監査委員の監査権限とは、独立性の高い会計検査院と同様な位置付けの意味があるのではないかと思っています。基本的には、権力を持つことになる執行機関に対して監査権限が及ぶもので、国民側が権力機構(行政の執行機関)を監視するということなのでありましょう。そして、本来的には国民の側に立つであろう議員たちが構成する議会の要請があれば、その監査権限行使が期待されているものであろうと思います。理念としては、よもや議員たちが腐敗や堕落をするはずはないものとして、制度が作られていたものと思います。
今回が「異例の監査」であったのは、これまでは監査委員とは言いながらも、府議会議員や議員経験者たちなどが選任されていたので、実質的には「内輪」で馴れ合ってやってきただけでしょう。監視機能ということは期待できない、機能していない、ということだったのでしょう。監査委員とは名ばかりであった、ということです。この決定権限は行政や議会などにあるのであって、結託されてしまえば止めようがない、ということです。気付いた住民が選挙で落とすしか方法がない、ということです。まさしく、そんな議員を「住民が選んだんだよ」ということでしょう。
何度も書きますけれども、住民監査請求は「議員の行為」の監査を請求するものではない、というのはよく判ります。別に住民たちにしても、行為を監査して結果を教えろ、ということを求めてはいないでありましょう。過去の判例の判決文が判ればいいのですが、見ていませんのでどういった解釈が述べられていたのか気になるところです。判決文を読むのが一番なのですが、番号とか判決年月日などがわからないので…
とりあえず、また具体的な例を考えてみます(あくまで架空の話ですので)。
ある地方議会の議長Aが、政務調査費として支出した。
県内経済動向調査を目的として、料亭Bにおいて他の地方議員Cや会社経営者Dと伴に会食した。費用は15万円であった。同時に、芸者の雇用・勤務実態調査及び個別的家計調査のサンプリングの為、当該会食時に芸者を数名呼び、聞き取り調査等を行った。この費用は10万円であった。以上の合計費用は25万円で、議長の政務調査費として支出された。
再三指摘しておられるのは、「住民監査請求においては、議員の行為について監査できない」という点です。これを考えてみます。
上記事例の場合には、具体的行為として
・料亭Bで会食
・地方議員Cと会社経営者Dと同伴
・芸者数名も同席
などというものです。
監査結果としては、請求者に監査報告が公開されるのと、知事や議会などにも報告が提出されるわけです。要するに、全部バレてしまう、と。こういう危惧があるではありませんか、と。それを問題視されているのかな、と思いました。
しかし、監査報告を決定するのは監査委員であって、個別具体的行為まで報告する必要はない、すなわち住民の請求ではそのような情報まで「知る権利」としては保障されていない、というものではないかと思います。住民が知るべきこととしては、「25万円が政務調査費として適正に費消されたかどうか」だけであって、具体的「議員の行為」まで監査請求できるものではない、ということだろうと思います。
住民にはそこまで知る権利がないとしても、監査委員は監査するにあたり必要なものは精査せねばなりませんから、具体的に「何に使ったのか」ということを監査します。そこで知り得た情報というのは、原則秘密にされるもので、監査委員に守秘義務が課せられているのはその為であると思います。そうではありながら、監査結果として報告せねばなりませんので、決定するにあたり法的に公開が禁止される場合を除いて、25万円がどのように使われ適正であったかどうか、ということは明らかにせねばならないでありましょう。それが、地方自治法第100条第13項の「交付対象、交付額、交付方法」を条例で定めることになっております。目的は、「調査研究に資するため必要な経費の一部として」であって、あくまで一部分を公金で補いましょう、という主旨と思います。
上記例に戻りますけれども、条例に従って、「交付対象」「交付額」が法に則っているかどうかを見るものと思います。その上で、監査委員は具体的な支出項目について、本当に「調査研究に資するために必要な経費」なのかどうかを判断せねばなりません。自治体が支払うべき「債務」であることが必要で、この政務調査費は次のように表せます。前と同様な書き方です。
債務者:知事
債権者:議長A
債務:料亭会食費15万円、芸者費用10万円
(債権者から見れば、債権でもあるか)
監査を行う場合に、債権が存在することを確認するには、「料亭で会食をした事実」を証明するとか「料亭の領収書」の存在が必要になりましょう。そうでなければ、実際に支出されていたことが物理的に確認のしようがないですので。もしも領収書のような具体的記録が残されていない場合には、議員Cや会社経営者Dとか、料亭の女将や従業員たちなどからの、整合性のある証言などによって実際に支出された事実がある、というようなことを確かめるしかないでしょう。こうした確認が「行為の監査」にあたる、故に監査することは認められないという判決があるのでしょうか。それは考え難いのではないかと思えますが。領収書などを実際に見て支出された事実を確認するとか、物理的証拠がないのであれば証言などから確認するといったことは、監査を実施する上では認められるものと思います。
これを、「行為の監査」にあたるのでこれら確認行為ができない、ということは、事実上監査できないのと同じであり、議員側の言い分だけで全てを「確実に支出したものと認める」ということになってしまいます。
争点になるのは、上記25万円分の支出が「調査研究に資するために必要な経費」と認めうるか、条例に則っていたか、ということだろうと思われます。これは国税庁の判断や決定においても同様な「見解の相違」というものがあり、監査される側には文句の出る余地というものがあるのは不思議ではないでしょう。
料亭における会食費や芸者費用が、
・交付対象外である
・調査研究が行われたことを示す具体的結果がない
(=調査研究はなかったと推定される)
・調査研究に資するとは判断できない
(故に、必要な経費とは認められない)
などであれば、政務調査費に該当しない支出、と判断されうるということです。
25万円が政務調査費に該当しないとなれば、債務は存在していないことになるわけですから、債権者が主張しているような「政務調査費として25万円を支出した」ということを認めることはできないでしょう。監査結果としては、「会食費等で使用された25万円分は目的外使用で、不適正。よって返還せよ」という監査報告となる、ということです。請求者が知るべきは、基本的にこの部分だけでよい、ということが「住民監査請求」の本来的意義でしょう、ということです。住民にとっての利益とは、「芸者費用10万円」を監査結果から知ることによって10万円を請求するということではなく、「目的外使用された10万円を自治体に返還してもらうこと」であって、これをもって(住民監査請求の)目的が十分達成されている、ということなのではないかな、と。「議員の行為」を監査請求するわけではない、ということは、そういう意味なのではないのかな、と。
いずれにせよ、料亭会食費や芸者費用が政務調査費に該当している、というのが債権者の見解であるならば、監査委員の決定が不当であるとして「裁判で争えばよい」ことでしょう。返還に応じたとしても、別な解決方法はまだ残されている、ということであって、債権者だけに一方的に不利なものとも思われません。一般国民はこれまでの監査請求や情報公開請求などの過程で、一体どれほど多くの提訴を行い時間やお金や労力を投入してきたのか、ということを考えるならば、府議会議員たちの監査結果に対する不服など微々たるものでありましょう。
これまで行政側の決定を覆せないことによって国民が蒙ってきた不利益のごく一部を、今回議員さんたちに感じてもらえることになるのであれば、よい勉強になるでありましょう。ちょっと授業料は高くついたかもしれませんが。政務調査費として認められないにせよ、使ったお金の受益者は議員本人ですから、別に損したわけでもないでしょう。購入した液晶テレビとか消えてなくなるわけでもないのですから(笑)。
知事の能力を疑う~政務調査費の返還請求について
続・知事の能力を疑う~政務調査費の返還請求について
「住民が選んだんだよ、議員を。」~by 太田大阪府知事
続・「住民が選んだんだよ、議員を。」~by 太田大阪府知事
まず、コメントを再掲致します。
今回の知事の一連の発言は「監査自体が異例の事態」を起点において始まっていると思いますが、この発言について以下の理由から正当性ありと判断しております。
そもそも、地方自治法は戦前の行政権のあり方の反省もあり三権分立の思想により「議会及び監査委員会により知事を筆頭とした地方行政組織の事務執行を監視すること」を想定して法律が作られており、「知事をはじめとした事務の執行機関が地方議会(議員)を監視する事は想定外」な事とされてきました。知事を筆頭に地方行政事務は議会・監査委員の監視下におき、議会は住民を通して(司法権の介入を含む)監視する事が前提とされてきました。
この事は、第242条の住民監査請求が議長・議員の行為を対象としない旨について、議長には最高裁・議員には下級裁判所の判例があり、これを覆す判例は今の所ない事もあって確定した法解釈とされてきました。また第199条の監査請求(外部監査込み)は「地方公共団体の事務」を対象としており、議長・議員の行為は対象に含まれないとの解釈がありこれを正面から覆す判例は今の所無いとされていたと思われます。
そのようなわけで、議長・議員の行為は監査請求の対象とはならず(監査委員は議長・議員の行為について監査できず)、しかし措置の請求の対象とはなりうるとされてきました。これは、議決無く行政事務の変更を行えない事案もあることを想定して措置の対象と定められたとされていました。
ところが、今回「議員の行為(政務調査費の具体的な使い方)」について監査報告及び措置の請求がなされました。これは過去の法律の運用からすると当否は別として異例の事態であったことは確かのように思います。
監査委員の監査権限とは、独立性の高い会計検査院と同様な位置付けの意味があるのではないかと思っています。基本的には、権力を持つことになる執行機関に対して監査権限が及ぶもので、国民側が権力機構(行政の執行機関)を監視するということなのでありましょう。そして、本来的には国民の側に立つであろう議員たちが構成する議会の要請があれば、その監査権限行使が期待されているものであろうと思います。理念としては、よもや議員たちが腐敗や堕落をするはずはないものとして、制度が作られていたものと思います。
今回が「異例の監査」であったのは、これまでは監査委員とは言いながらも、府議会議員や議員経験者たちなどが選任されていたので、実質的には「内輪」で馴れ合ってやってきただけでしょう。監視機能ということは期待できない、機能していない、ということだったのでしょう。監査委員とは名ばかりであった、ということです。この決定権限は行政や議会などにあるのであって、結託されてしまえば止めようがない、ということです。気付いた住民が選挙で落とすしか方法がない、ということです。まさしく、そんな議員を「住民が選んだんだよ」ということでしょう。
何度も書きますけれども、住民監査請求は「議員の行為」の監査を請求するものではない、というのはよく判ります。別に住民たちにしても、行為を監査して結果を教えろ、ということを求めてはいないでありましょう。過去の判例の判決文が判ればいいのですが、見ていませんのでどういった解釈が述べられていたのか気になるところです。判決文を読むのが一番なのですが、番号とか判決年月日などがわからないので…
とりあえず、また具体的な例を考えてみます(あくまで架空の話ですので)。
ある地方議会の議長Aが、政務調査費として支出した。
県内経済動向調査を目的として、料亭Bにおいて他の地方議員Cや会社経営者Dと伴に会食した。費用は15万円であった。同時に、芸者の雇用・勤務実態調査及び個別的家計調査のサンプリングの為、当該会食時に芸者を数名呼び、聞き取り調査等を行った。この費用は10万円であった。以上の合計費用は25万円で、議長の政務調査費として支出された。
再三指摘しておられるのは、「住民監査請求においては、議員の行為について監査できない」という点です。これを考えてみます。
上記事例の場合には、具体的行為として
・料亭Bで会食
・地方議員Cと会社経営者Dと同伴
・芸者数名も同席
などというものです。
監査結果としては、請求者に監査報告が公開されるのと、知事や議会などにも報告が提出されるわけです。要するに、全部バレてしまう、と。こういう危惧があるではありませんか、と。それを問題視されているのかな、と思いました。
しかし、監査報告を決定するのは監査委員であって、個別具体的行為まで報告する必要はない、すなわち住民の請求ではそのような情報まで「知る権利」としては保障されていない、というものではないかと思います。住民が知るべきこととしては、「25万円が政務調査費として適正に費消されたかどうか」だけであって、具体的「議員の行為」まで監査請求できるものではない、ということだろうと思います。
住民にはそこまで知る権利がないとしても、監査委員は監査するにあたり必要なものは精査せねばなりませんから、具体的に「何に使ったのか」ということを監査します。そこで知り得た情報というのは、原則秘密にされるもので、監査委員に守秘義務が課せられているのはその為であると思います。そうではありながら、監査結果として報告せねばなりませんので、決定するにあたり法的に公開が禁止される場合を除いて、25万円がどのように使われ適正であったかどうか、ということは明らかにせねばならないでありましょう。それが、地方自治法第100条第13項の「交付対象、交付額、交付方法」を条例で定めることになっております。目的は、「調査研究に資するため必要な経費の一部として」であって、あくまで一部分を公金で補いましょう、という主旨と思います。
上記例に戻りますけれども、条例に従って、「交付対象」「交付額」が法に則っているかどうかを見るものと思います。その上で、監査委員は具体的な支出項目について、本当に「調査研究に資するために必要な経費」なのかどうかを判断せねばなりません。自治体が支払うべき「債務」であることが必要で、この政務調査費は次のように表せます。前と同様な書き方です。
債務者:知事
債権者:議長A
債務:料亭会食費15万円、芸者費用10万円
(債権者から見れば、債権でもあるか)
監査を行う場合に、債権が存在することを確認するには、「料亭で会食をした事実」を証明するとか「料亭の領収書」の存在が必要になりましょう。そうでなければ、実際に支出されていたことが物理的に確認のしようがないですので。もしも領収書のような具体的記録が残されていない場合には、議員Cや会社経営者Dとか、料亭の女将や従業員たちなどからの、整合性のある証言などによって実際に支出された事実がある、というようなことを確かめるしかないでしょう。こうした確認が「行為の監査」にあたる、故に監査することは認められないという判決があるのでしょうか。それは考え難いのではないかと思えますが。領収書などを実際に見て支出された事実を確認するとか、物理的証拠がないのであれば証言などから確認するといったことは、監査を実施する上では認められるものと思います。
これを、「行為の監査」にあたるのでこれら確認行為ができない、ということは、事実上監査できないのと同じであり、議員側の言い分だけで全てを「確実に支出したものと認める」ということになってしまいます。
争点になるのは、上記25万円分の支出が「調査研究に資するために必要な経費」と認めうるか、条例に則っていたか、ということだろうと思われます。これは国税庁の判断や決定においても同様な「見解の相違」というものがあり、監査される側には文句の出る余地というものがあるのは不思議ではないでしょう。
料亭における会食費や芸者費用が、
・交付対象外である
・調査研究が行われたことを示す具体的結果がない
(=調査研究はなかったと推定される)
・調査研究に資するとは判断できない
(故に、必要な経費とは認められない)
などであれば、政務調査費に該当しない支出、と判断されうるということです。
25万円が政務調査費に該当しないとなれば、債務は存在していないことになるわけですから、債権者が主張しているような「政務調査費として25万円を支出した」ということを認めることはできないでしょう。監査結果としては、「会食費等で使用された25万円分は目的外使用で、不適正。よって返還せよ」という監査報告となる、ということです。請求者が知るべきは、基本的にこの部分だけでよい、ということが「住民監査請求」の本来的意義でしょう、ということです。住民にとっての利益とは、「芸者費用10万円」を監査結果から知ることによって10万円を請求するということではなく、「目的外使用された10万円を自治体に返還してもらうこと」であって、これをもって(住民監査請求の)目的が十分達成されている、ということなのではないかな、と。「議員の行為」を監査請求するわけではない、ということは、そういう意味なのではないのかな、と。
いずれにせよ、料亭会食費や芸者費用が政務調査費に該当している、というのが債権者の見解であるならば、監査委員の決定が不当であるとして「裁判で争えばよい」ことでしょう。返還に応じたとしても、別な解決方法はまだ残されている、ということであって、債権者だけに一方的に不利なものとも思われません。一般国民はこれまでの監査請求や情報公開請求などの過程で、一体どれほど多くの提訴を行い時間やお金や労力を投入してきたのか、ということを考えるならば、府議会議員たちの監査結果に対する不服など微々たるものでありましょう。
これまで行政側の決定を覆せないことによって国民が蒙ってきた不利益のごく一部を、今回議員さんたちに感じてもらえることになるのであれば、よい勉強になるでありましょう。ちょっと授業料は高くついたかもしれませんが。政務調査費として認められないにせよ、使ったお金の受益者は議員本人ですから、別に損したわけでもないでしょう。購入した液晶テレビとか消えてなくなるわけでもないのですから(笑)。