Yahooニュース - 毎日新聞 - <こんにゃくゼリー>事故相次ぐも、各省は法的措置取れず
こんにゃくゼリーによる窒息死事故が相次いでいる問題で、消費者団体などから製品の回収や販売禁止を求める声が高まっている。しかし、食品に衛生上の問題がある場合は厚生労働省が回収などを命じるが、食品衛生法には窒息などの事故に関する規定がなく、同省は回収命令などは不可能との立場。農林水産省や経済産業省も同様の理由で強制力ある措置を取れず、制度上の不備が明らかになっている。
こんにゃくゼリーによる窒息事故は、商品が普及した90年代半ばから発生。国民生活センターによると、95年以降に約40件発生し、6歳以下の乳幼児5人と60歳以上の高齢者3人、40代の女性1人が死亡した。今年3、4月に7歳の男児2人が相次いで窒息死し、改めて関心が高まった。
対策強化を求める消費者の声に対し、厚労省監視安全課は「食品衛生法で販売禁止や回収を命令できるのは、食品に腐敗や有害物質含有などの問題がある場合だけ。のどに詰まらせるのは、あめや餅と同じで規制の対象外」と説明する。
食品表示に関するJAS法を所管する農水省は先月下旬以降、全日本菓子協会など関係3団体に再発防止を求める文書を出したが、「処分できるのは品質表示基準に違反したもの」(表示・規格課)と話す。欧州連合は03年、ゼリーへのこんにゃく使用を禁止したが、同省特産振興課は「コンニャクイモから精粉したグルコマンナンは欧州では食品添加物扱いなので規制できるが、日本ではこんにゃくの原材料として使われているため禁止できない」としている。
消費生活用製品安全法を担う経産省も「食品は農水省や厚労省の分野」と所管外を強調する。
こうした状況を主婦連合会(兵頭美代子会長)は「今回の事故はこの間の行政・業界・企業の取り組みが全く効果のない対症療法的な措置だったことを示している」と批判。食品、日用品などの種類を問わず、すべての消費生活用品を対象とする強制的リコール制度の導入▽官庁や業界の枠を超え一元的に事故防止策を講じる「事故防止センター」の設立――などを求める要望書を、安倍晋三首相や柳沢伯夫厚労相らに提出した。
3月に学童保育のおやつでこんにゃくゼリーを食べ窒息死した三重県伊勢市、村田龍之介君(当時7歳)の母由佳さんは「(こんにゃくゼリーが)10年前になくなっていれば息子の事故はなかった。命を危険にさらす商品はなくなってほしい」と訴えている。【望月麻紀】


一応提訴ということで、司法の場で争われることになったようです。
Yahooニュース - 読売新聞 - 三重でもこんにゃくゼリー男児死亡、両親が市と製造元提訴
三重県伊勢市の民間学童保育所で今年3月、同市内の小学1年生男児(当時7歳)がこんにゃく入りゼリーをのどに詰まらせて死亡する事故があり、男児の両親は15日、死亡したのは、製品そのものに欠陥があり、学童保育事業を委託していた同市も安全対策を怠っていたためとして、製造元の食品製造会社「エースベーカリー」(愛知県小牧市)と伊勢市を相手取り、計約7500万円の賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。



この問題も、以前に書いたパロマ製品の一酸化炭素中毒問題(一酸化炭素中毒死を考える、続・CO中毒死の事故)と似ています。お子さんが亡くなられたことは残念ですし、無念であるとは思いますが、どこに責任があったのか、ということの検討は別に行われるべきであると思いますので、考えてみたいと思います。
省庁側の説明については、もう少し具体的に踏み込んだ見解を提示した方がいいのではないかと思われました。マスメディアお得意の「切り取り」(一部の語句だけが切り取られて、一人歩きしてしまう)で、誤解を招くような省庁回答とか理由付けが行われてしまいかねない(変な形で利用されてしまう)ので、各省の担当者が話し合うなら話し合って、共通の回答書みたいなものを作成しておいた方が宜しいのではないかな、と。
問題点を次の3つに分けて考えてみます。
1)窒息事故の危険性についての考え方
2)コンニャクゼリーはどの程度危険なのか
3)窒息事故の責任について


1)窒息事故の危険性についての考え方
まず、昔と今では、今の方がはるかに安全になっていると思います。それ故、「もっと安全にするのは当たり前、完璧な安全を!」ということを消費者側が求めるというのは、昨今の特徴的傾向なのかもしれません。
①不慮の事故による低年齢者の死亡数及び死亡率
人口動態調査で見ると、私が生まれた頃の1965年では4歳以下の死亡数は1839人、死亡率では66.8(人口10万対)でした。これが80年には869人、同34.0とほぼ半減、90年には415人、同19.8、05年では168人、同8.5と大きく減少してきました。つまり、昔に比べれば安全性は改善されてきた、ということです。出生数が減っているので、母親が注意して見てられやすいとか、そういう別な要因などもあるのかもしれませんが、私が幼少の頃の10分の1にまで減少しており、死亡率でも約8分の1くらいです。ここ10年で見ても、95年の半分くらいに死亡数が減っています。逆に不慮の事故死が滅多に遭遇しないものであるということで、それ故、「何故ウチの子だけが、絶対に許せない」という思いが強まるということもあるかもしれません。日常からは「死」というもの、その危険性や実感といったものが稀薄になってしまった結果なのかもしれません。
5~9歳で見ても、ほぼ同じ傾向であり、65年に527人、死亡率34.7だったのが、80年には321人、同16.0、90年には154人、同9.7、05年では65人、同5.5となり、死亡数は約8分の1、死亡率は約6分の1まで減少してきたのです。
◎昔に比べると、不慮の事故死は減少し、死亡数と死亡率ともに減少してきた。05年では4歳以下の死亡数は168人、5~9歳では65人であった。
②不慮の事故のうち、窒息に関する死亡数
直近の05年の人口動態調査を見ると、不慮の事故のうち、ア「気道閉塞を生じた食物の誤えん」と、イ「気道閉塞を生じたその他の物体の誤えん」という項目がある。乳児では食物誤嚥が多く、アの死亡数は0歳で24人、1~4歳では7人、5~9歳では3人となっていた。同じくイの死亡数を見ると、順に5、3、2となっていた。0歳における食物による窒息は「結構危険性がある」と知られていることが多いだろう。ところが、5歳以上になると食物の窒息とその他物体による窒息では、明確な差がないのである。他の死亡原因としては、ウ「詳細不明の窒息」というのがあるが、これも順に21、3、2となっており、アの死亡数とほぼ同じくらいの水準であることが分る。5~9歳においては、食物、他の物体、詳細不明の窒息による死亡数(順に3、2、2)には、殆ど違いが認められていない、ということである。
◎乳児においては食物の窒息死は割と見られるが、5~9歳においてはその他物体等食物以外の原因による窒息と大差がない。
2)コンニャクゼリーはどの程度危険なのか
30歳以上のアでの死亡数はかなり多い。同じ統計を見ると、30~44歳で63人、45~64歳で566人、65~79歳で1467人、80歳以上で2329人となっていた(一年間の死亡数である!)。要するに、桁違いに多い、ということである。コンニャクゼリーでの死亡は、上の毎日の記事では、95年以降で60歳以上の高齢者3人ということから、そのリスクは極めて低い部類に入ると考えられる。単年度で約3800名の食物誤嚥による死亡者がいるのですから、これが10年間ともなれば恐らく約3万人(高齢者数が年々増加してきたので10倍まではいかないと思うのでザッとの水準)中の3名と推定され、他の食品の危険性の方がはるかに問題であろうと思われます。
◎高齢者約3万人はコンニャクゼリー以外の食品で窒息死、コンニャクゼリーでは3名死亡。
<乳幼児よりも大人の死亡数が増加していることに疑問がある方もおられるかもしれませんが、多分内科的疾患等で障害を持つようになれば反射の低下などを生じるので窒息するリスクは増加するであろうと思います。特に高齢者では疾患を有する者の確率が増えるのと機能低下によるものとが混在しているので、数千人単位での死亡となっているものと思われます。毎年毎年「モチで窒息死亡」というニュースが出ますので、そちらの方がはるかに危険ということになりましょう。>
比較する他のリスクとしては、家庭内の浴槽における溺死があります。同じく05年人口動態調査の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」という項目を見ると、0歳は7人、1~4歳は26人、5~9歳は6人、10~14歳は12人、15~29歳は31人、30~44歳では63人といった具合になっており、割と死亡数が多いことが判ります(自然の川や池などでの溺死は別項目です)。特に、5~9歳での死亡数6人は、窒息による死亡ア、イ、ウを合わせた死亡数と同じです。
◎5~9歳では、「家庭の浴槽での溺死」と(ア、イ、ウ合計の)「窒息による死亡」は(05年統計においては)同程度の死亡リスク。よって「食物による窒息死」は家庭の風呂で溺死するよりも少ない。コンニャクゼリーで窒息死する数はもっと少ない。
各省庁の担当者たちは、せめてこれくらいの説明とか、理由付けとかくらいは考えて欲しいものです。優秀な官僚諸君が何人も集まっているのですから、これくらいは考えられるはずでしょう?(笑)
3)窒息事故の責任について
提訴ということにもなっていますので、ここが一番問題になってくるであろうと思います。前述した危険性から考えられること、そして窒息事故が防ぎえたのかについて考えてみたいと思います。訴訟では児童が7歳なので、5~9歳の範囲だけで考えてみます。
①コンニャクゼリー特有の事故なのか
・家庭の浴槽で溺死する危険性よりも少ないが、食品による窒息死亡事故は起こりえる。
・原因となる食品はコンニャクゼリー以外でも起こっている。
・コンニャクゼリー登場以前においても、窒息死亡事故はあった。
・コンニャクゼリー特有の危険性とまで言える証拠は見られていないが、検証が十分とも言えない。
危険性の評価ということになれば、他の食品との比較が必要になってくるであろうと思います。ソーセージ、ピーナッツや豆類などは窒息死亡事故が発生していると思われ、こういった食品との比較を行って、ゼリー特有の危険性があったかどうかを見なければ何とも言えないのではないでしょうか。コンニャクゼリーの摂取10万回(10万個)と、同じくピーナッツ摂取10万回とで、前者が誤嚥窒息をもたらし易い、気道閉塞のリスクが高い、というような結論でも出せない限り、正確な判断は困難であろうかと思います。そうではあっても、今のところ、「コンニャクゼリーは他の食品に比べて窒息死亡するリスクが高い」とは言えないでしょう。多分「モチ」による死亡リスクの方が高いとは思われますが、若年層での調査とかがなければこれも定かではありません。コンニャクゼリーが商品として登場する以前から、食物による窒息死亡事故はあったと思われます(統計的にはまだ確認していませんが、まず間違いないでしょう)。
◎仮に、この世にコンニャクゼリーという食品が存在しなかったとしても、「食物による窒息死亡事故」は起こってきたし、起こりえるものである、と言える。コンニャクゼリー登場以後に、「食物による窒息死亡事故」が増加した、という証拠は恐らくないでしょう。コンニャクゼリーが特別窒息死亡リスクを高める食品であるとは言えないでしょう。
②コンニャクゼリーの製品間で明らかな違いがあるか
これも、正確には判りません。報道では、製品及びメーカー名が2社だけが消費者センターから公表されたようです(実際の製品を見たことはないので、どのようなゼリーなのか判りません)。
ここで争点となるのは、これらメーカーの製品自体に「誤嚥窒息を招きやすい形状」という原因があり得るか否か、です。他のコンニャクゼリー製品では全く起こらずに、このメーカーだけが複数回窒息事故となっている、というような状況証拠が必要になるでありましょう。また、嚥下機能評価の観点から「気道閉塞を来たしやすい形状である」ということが、他製品と明確に区別される必要性があるでしょう。偶然にも生じた1回だけの事故だけでは、そこまで確定的に判断できる材料とはなり得ないと思われます。これはたとえば、中国産のピーナッツで窒息事故が起こり、千葉県産では起こっていないとすれば、「中国産ピーナッツの形状に問題があった、窒息原因は中国産ピーナッツのせいだ」という無理な断定を行うようなものです(これはあくまで例示ですので、事実とは何ら関係ありません)。
ただ形状的に完全閉塞しやすいというものがあるかもしれず、たとえば「ボール状」「円柱状」などの気道形状と似たもので、直径等の大きさも極めて似ている、ということであれば、他の形状の製品との違いが起こりうるかもしれません。完全閉塞を防ぐ為に、製品工程の改良などが必要になってコスト高になるかもしれませんが、たとえば「ハート型」「スペード型」のような気道形態とは異なるものにしておけば、仮に誤嚥したにしても気体の通過スペースを生み出せる可能性はあるので、窒息死は免れる可能性があるかもしれない、ということです。他社製品ではそうした形態となっていたが為に窒息死亡事故がなかったとすれば、特定形状(ボール状とか)のコンニャクゼリーを提供することは慎重さを要求されるかもしれません。
でも、これは研究してみないと何とも言えないでしょう。ゼリーに角があることで、逆に喉頭蓋付近に引っ掛かりやすく窒息リスクを高めてしまうかもしれませんし。なので、当該製品の形状に原因があったかどうかを判定するのは、やや難しいかもしれません。
◎コンニャクゼリーの製品間で明確な違いがなければ、当該製品特有の危険性があったとは判断できない。
③窒息死亡リスクについての予見性と注意義務
・コンニャクゼリーは他の食品に比べ窒息死亡を招き易い食品であると認識できたか
・死亡事故の情報が製造側や提供(児童施設職員等)側に十分伝わっていたか
・本人に起因する原因はなかったか
これらの辺りが争点になってくるかもしれません。
第一の点では、これまで見てきたように、他の食品と比べて危険性の高いものであるとは認識できなかったと思われます(危険性が高い食品であることを示す証拠自体が不明確)。ですので、施設のおやつとして提供する食品にコンニャクゼリーを選択したことに過失はないと考えられます。
第二の点ですが、製品情報として死亡事故情報が製造側に知られていなければ、製造側はそのまま提供し続けるでありましょう。消費者センターに寄せられた情報を元に、センターが製造元に注意を促す情報提供などを行っていたのであれば、事故への対策を何か講じるべきか否かを検討しているでありましょう。もし製品にその原因がない、という結論に達しているのであれば、これまで通りに製造販売が続けられるでありましょう。また、施設職員はコンニャクゼリーを食べることによって児童の死亡事故が発生している、ということを知っていたのであれば、例えば児童が食べる前に「一口で食べずに歯で分割、砕いて食べること」というような注意を与えるべきということも考えられる。しかし、窒息死亡事故はその他の広範な食品でも起こりえること、特別にコンニャクゼリーだけにその危険性があるとは知りえなかったこと、ということであれば、食べる前に敢えて注意喚起を行わなかったとしても止むを得ないのではないか。食べるたびに、毎回毎回この食品には窒息リスクがあります、食べる場合には生命の危険性があるものとして同意した人だけ食べて下さい、というような説明をせよ、ということになってしまいます。
第三の点では、色々と論点があるかもしれません。
分りやすいものとしては、嚥下反射に問題がある人というのは存在しており、普段は明確にはなっていないとしても誤嚥し易い人はいるのです。特に高齢になると嚥下反射や咳嗽反射などが低下している為に誤嚥が起こりやすくなってしまいます。咽頭反射が全般的に落ちてしまうことがあるのです。病気や障害の有無でも違いはありますし、元々咳き込み易い人とか、そういう個体差ということが関係するのです。更に、食べる時に児童が立ち歩いて食べていたり、天井を向いて(仰向けで)ゼリーを口の中に落としたり、といった通常とは異なる行動によって、誤って気道閉塞をきたすかもしれません。これら特殊な行動を取っていたのであれば、食品を児童に渡した結果普通に食べるのではなく、そういう特別な行動を取ることが予見できない限り事前に注意を与えることは困難なのです。こうした摂取する側の要因というものもあるので、一概に製品の責任とばかりは言えないでしょう。
以上のように、いくつかの論点はあると思いますので、直ちに「製品の販売を中止せよ」といったことは難しいのではないかと思われます。ただ、3)の②で述べたように、製品間での違いというものが判明し、若干ではあっても嚥下しやすい或いは誤嚥し難い形状の製品に改善すべきものであれば、そうした改良を施すのは製造側には求められてしかるべきでありましょう。それらに関する知識は広く消費者側に提供されるべきで、もしも安全対策を取らないメーカーということになれば、消費者側から選別されて淘汰されることになるでありましょう。なので、正しい情報がきちんと行き渡れば、仮にメーカーが対策を施さないということがあっても、売れなくなってしまうと思います。しかし、形状にも製品そのものにも問題がないのにも関わらず、「コンニャクゼリーは危険だ」という誤った認識を広く与えてしまうような報道とか情報提供は慎むべきでありましょう。
やや外れますが、医療裁判と同じような判決の出し方を考えてみますと、コンニャクゼリーの提供には過失があった、義務違反があった、という理屈が出される可能性は十分あると思います。マネをして架空の判決を考えてみますと、次のように言えます。
・因果関係を見れば、コンニャクゼリーを食べなければ窒息死亡することはなかった
(コンニャクゼリーが原因だ)
・コンニャクゼリーを食べて死亡した例が過去に複数あるのだから、死亡することは予見できたはず
・危険性について予見可能であったにも関わらず、提供を中止しなかったことは過失
(提供するなら窒息しない製品を提供する義務があったので義務違反)
・小さく切るなどの対策を取りえたのに、それを行わなかったのは注意義務違反
・他の製品においては大多数が死亡しておらず、コンニャクゼリーで死亡しない確率は90%以上
(なのに本件で死亡したということは過失があった)
こうして過失認定となり、コンニャクゼリーは販売中止となってしまうかもしれませんね。裁判結果というのは、それくらい影響力を持つものである、ということです。
こんにゃくゼリーによる窒息死事故が相次いでいる問題で、消費者団体などから製品の回収や販売禁止を求める声が高まっている。しかし、食品に衛生上の問題がある場合は厚生労働省が回収などを命じるが、食品衛生法には窒息などの事故に関する規定がなく、同省は回収命令などは不可能との立場。農林水産省や経済産業省も同様の理由で強制力ある措置を取れず、制度上の不備が明らかになっている。
こんにゃくゼリーによる窒息事故は、商品が普及した90年代半ばから発生。国民生活センターによると、95年以降に約40件発生し、6歳以下の乳幼児5人と60歳以上の高齢者3人、40代の女性1人が死亡した。今年3、4月に7歳の男児2人が相次いで窒息死し、改めて関心が高まった。
対策強化を求める消費者の声に対し、厚労省監視安全課は「食品衛生法で販売禁止や回収を命令できるのは、食品に腐敗や有害物質含有などの問題がある場合だけ。のどに詰まらせるのは、あめや餅と同じで規制の対象外」と説明する。
食品表示に関するJAS法を所管する農水省は先月下旬以降、全日本菓子協会など関係3団体に再発防止を求める文書を出したが、「処分できるのは品質表示基準に違反したもの」(表示・規格課)と話す。欧州連合は03年、ゼリーへのこんにゃく使用を禁止したが、同省特産振興課は「コンニャクイモから精粉したグルコマンナンは欧州では食品添加物扱いなので規制できるが、日本ではこんにゃくの原材料として使われているため禁止できない」としている。
消費生活用製品安全法を担う経産省も「食品は農水省や厚労省の分野」と所管外を強調する。
こうした状況を主婦連合会(兵頭美代子会長)は「今回の事故はこの間の行政・業界・企業の取り組みが全く効果のない対症療法的な措置だったことを示している」と批判。食品、日用品などの種類を問わず、すべての消費生活用品を対象とする強制的リコール制度の導入▽官庁や業界の枠を超え一元的に事故防止策を講じる「事故防止センター」の設立――などを求める要望書を、安倍晋三首相や柳沢伯夫厚労相らに提出した。
3月に学童保育のおやつでこんにゃくゼリーを食べ窒息死した三重県伊勢市、村田龍之介君(当時7歳)の母由佳さんは「(こんにゃくゼリーが)10年前になくなっていれば息子の事故はなかった。命を危険にさらす商品はなくなってほしい」と訴えている。【望月麻紀】


一応提訴ということで、司法の場で争われることになったようです。
Yahooニュース - 読売新聞 - 三重でもこんにゃくゼリー男児死亡、両親が市と製造元提訴
三重県伊勢市の民間学童保育所で今年3月、同市内の小学1年生男児(当時7歳)がこんにゃく入りゼリーをのどに詰まらせて死亡する事故があり、男児の両親は15日、死亡したのは、製品そのものに欠陥があり、学童保育事業を委託していた同市も安全対策を怠っていたためとして、製造元の食品製造会社「エースベーカリー」(愛知県小牧市)と伊勢市を相手取り、計約7500万円の賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。



この問題も、以前に書いたパロマ製品の一酸化炭素中毒問題(一酸化炭素中毒死を考える、続・CO中毒死の事故)と似ています。お子さんが亡くなられたことは残念ですし、無念であるとは思いますが、どこに責任があったのか、ということの検討は別に行われるべきであると思いますので、考えてみたいと思います。
省庁側の説明については、もう少し具体的に踏み込んだ見解を提示した方がいいのではないかと思われました。マスメディアお得意の「切り取り」(一部の語句だけが切り取られて、一人歩きしてしまう)で、誤解を招くような省庁回答とか理由付けが行われてしまいかねない(変な形で利用されてしまう)ので、各省の担当者が話し合うなら話し合って、共通の回答書みたいなものを作成しておいた方が宜しいのではないかな、と。
問題点を次の3つに分けて考えてみます。
1)窒息事故の危険性についての考え方
2)コンニャクゼリーはどの程度危険なのか
3)窒息事故の責任について


1)窒息事故の危険性についての考え方
まず、昔と今では、今の方がはるかに安全になっていると思います。それ故、「もっと安全にするのは当たり前、完璧な安全を!」ということを消費者側が求めるというのは、昨今の特徴的傾向なのかもしれません。
①不慮の事故による低年齢者の死亡数及び死亡率
人口動態調査で見ると、私が生まれた頃の1965年では4歳以下の死亡数は1839人、死亡率では66.8(人口10万対)でした。これが80年には869人、同34.0とほぼ半減、90年には415人、同19.8、05年では168人、同8.5と大きく減少してきました。つまり、昔に比べれば安全性は改善されてきた、ということです。出生数が減っているので、母親が注意して見てられやすいとか、そういう別な要因などもあるのかもしれませんが、私が幼少の頃の10分の1にまで減少しており、死亡率でも約8分の1くらいです。ここ10年で見ても、95年の半分くらいに死亡数が減っています。逆に不慮の事故死が滅多に遭遇しないものであるということで、それ故、「何故ウチの子だけが、絶対に許せない」という思いが強まるということもあるかもしれません。日常からは「死」というもの、その危険性や実感といったものが稀薄になってしまった結果なのかもしれません。
5~9歳で見ても、ほぼ同じ傾向であり、65年に527人、死亡率34.7だったのが、80年には321人、同16.0、90年には154人、同9.7、05年では65人、同5.5となり、死亡数は約8分の1、死亡率は約6分の1まで減少してきたのです。
◎昔に比べると、不慮の事故死は減少し、死亡数と死亡率ともに減少してきた。05年では4歳以下の死亡数は168人、5~9歳では65人であった。
②不慮の事故のうち、窒息に関する死亡数
直近の05年の人口動態調査を見ると、不慮の事故のうち、ア「気道閉塞を生じた食物の誤えん」と、イ「気道閉塞を生じたその他の物体の誤えん」という項目がある。乳児では食物誤嚥が多く、アの死亡数は0歳で24人、1~4歳では7人、5~9歳では3人となっていた。同じくイの死亡数を見ると、順に5、3、2となっていた。0歳における食物による窒息は「結構危険性がある」と知られていることが多いだろう。ところが、5歳以上になると食物の窒息とその他物体による窒息では、明確な差がないのである。他の死亡原因としては、ウ「詳細不明の窒息」というのがあるが、これも順に21、3、2となっており、アの死亡数とほぼ同じくらいの水準であることが分る。5~9歳においては、食物、他の物体、詳細不明の窒息による死亡数(順に3、2、2)には、殆ど違いが認められていない、ということである。
◎乳児においては食物の窒息死は割と見られるが、5~9歳においてはその他物体等食物以外の原因による窒息と大差がない。
2)コンニャクゼリーはどの程度危険なのか
30歳以上のアでの死亡数はかなり多い。同じ統計を見ると、30~44歳で63人、45~64歳で566人、65~79歳で1467人、80歳以上で2329人となっていた(一年間の死亡数である!)。要するに、桁違いに多い、ということである。コンニャクゼリーでの死亡は、上の毎日の記事では、95年以降で60歳以上の高齢者3人ということから、そのリスクは極めて低い部類に入ると考えられる。単年度で約3800名の食物誤嚥による死亡者がいるのですから、これが10年間ともなれば恐らく約3万人(高齢者数が年々増加してきたので10倍まではいかないと思うのでザッとの水準)中の3名と推定され、他の食品の危険性の方がはるかに問題であろうと思われます。
◎高齢者約3万人はコンニャクゼリー以外の食品で窒息死、コンニャクゼリーでは3名死亡。
<乳幼児よりも大人の死亡数が増加していることに疑問がある方もおられるかもしれませんが、多分内科的疾患等で障害を持つようになれば反射の低下などを生じるので窒息するリスクは増加するであろうと思います。特に高齢者では疾患を有する者の確率が増えるのと機能低下によるものとが混在しているので、数千人単位での死亡となっているものと思われます。毎年毎年「モチで窒息死亡」というニュースが出ますので、そちらの方がはるかに危険ということになりましょう。>
比較する他のリスクとしては、家庭内の浴槽における溺死があります。同じく05年人口動態調査の「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」という項目を見ると、0歳は7人、1~4歳は26人、5~9歳は6人、10~14歳は12人、15~29歳は31人、30~44歳では63人といった具合になっており、割と死亡数が多いことが判ります(自然の川や池などでの溺死は別項目です)。特に、5~9歳での死亡数6人は、窒息による死亡ア、イ、ウを合わせた死亡数と同じです。
◎5~9歳では、「家庭の浴槽での溺死」と(ア、イ、ウ合計の)「窒息による死亡」は(05年統計においては)同程度の死亡リスク。よって「食物による窒息死」は家庭の風呂で溺死するよりも少ない。コンニャクゼリーで窒息死する数はもっと少ない。
各省庁の担当者たちは、せめてこれくらいの説明とか、理由付けとかくらいは考えて欲しいものです。優秀な官僚諸君が何人も集まっているのですから、これくらいは考えられるはずでしょう?(笑)
3)窒息事故の責任について
提訴ということにもなっていますので、ここが一番問題になってくるであろうと思います。前述した危険性から考えられること、そして窒息事故が防ぎえたのかについて考えてみたいと思います。訴訟では児童が7歳なので、5~9歳の範囲だけで考えてみます。
①コンニャクゼリー特有の事故なのか
・家庭の浴槽で溺死する危険性よりも少ないが、食品による窒息死亡事故は起こりえる。
・原因となる食品はコンニャクゼリー以外でも起こっている。
・コンニャクゼリー登場以前においても、窒息死亡事故はあった。
・コンニャクゼリー特有の危険性とまで言える証拠は見られていないが、検証が十分とも言えない。
危険性の評価ということになれば、他の食品との比較が必要になってくるであろうと思います。ソーセージ、ピーナッツや豆類などは窒息死亡事故が発生していると思われ、こういった食品との比較を行って、ゼリー特有の危険性があったかどうかを見なければ何とも言えないのではないでしょうか。コンニャクゼリーの摂取10万回(10万個)と、同じくピーナッツ摂取10万回とで、前者が誤嚥窒息をもたらし易い、気道閉塞のリスクが高い、というような結論でも出せない限り、正確な判断は困難であろうかと思います。そうではあっても、今のところ、「コンニャクゼリーは他の食品に比べて窒息死亡するリスクが高い」とは言えないでしょう。多分「モチ」による死亡リスクの方が高いとは思われますが、若年層での調査とかがなければこれも定かではありません。コンニャクゼリーが商品として登場する以前から、食物による窒息死亡事故はあったと思われます(統計的にはまだ確認していませんが、まず間違いないでしょう)。
◎仮に、この世にコンニャクゼリーという食品が存在しなかったとしても、「食物による窒息死亡事故」は起こってきたし、起こりえるものである、と言える。コンニャクゼリー登場以後に、「食物による窒息死亡事故」が増加した、という証拠は恐らくないでしょう。コンニャクゼリーが特別窒息死亡リスクを高める食品であるとは言えないでしょう。
②コンニャクゼリーの製品間で明らかな違いがあるか
これも、正確には判りません。報道では、製品及びメーカー名が2社だけが消費者センターから公表されたようです(実際の製品を見たことはないので、どのようなゼリーなのか判りません)。
ここで争点となるのは、これらメーカーの製品自体に「誤嚥窒息を招きやすい形状」という原因があり得るか否か、です。他のコンニャクゼリー製品では全く起こらずに、このメーカーだけが複数回窒息事故となっている、というような状況証拠が必要になるでありましょう。また、嚥下機能評価の観点から「気道閉塞を来たしやすい形状である」ということが、他製品と明確に区別される必要性があるでしょう。偶然にも生じた1回だけの事故だけでは、そこまで確定的に判断できる材料とはなり得ないと思われます。これはたとえば、中国産のピーナッツで窒息事故が起こり、千葉県産では起こっていないとすれば、「中国産ピーナッツの形状に問題があった、窒息原因は中国産ピーナッツのせいだ」という無理な断定を行うようなものです(これはあくまで例示ですので、事実とは何ら関係ありません)。
ただ形状的に完全閉塞しやすいというものがあるかもしれず、たとえば「ボール状」「円柱状」などの気道形状と似たもので、直径等の大きさも極めて似ている、ということであれば、他の形状の製品との違いが起こりうるかもしれません。完全閉塞を防ぐ為に、製品工程の改良などが必要になってコスト高になるかもしれませんが、たとえば「ハート型」「スペード型」のような気道形態とは異なるものにしておけば、仮に誤嚥したにしても気体の通過スペースを生み出せる可能性はあるので、窒息死は免れる可能性があるかもしれない、ということです。他社製品ではそうした形態となっていたが為に窒息死亡事故がなかったとすれば、特定形状(ボール状とか)のコンニャクゼリーを提供することは慎重さを要求されるかもしれません。
でも、これは研究してみないと何とも言えないでしょう。ゼリーに角があることで、逆に喉頭蓋付近に引っ掛かりやすく窒息リスクを高めてしまうかもしれませんし。なので、当該製品の形状に原因があったかどうかを判定するのは、やや難しいかもしれません。
◎コンニャクゼリーの製品間で明確な違いがなければ、当該製品特有の危険性があったとは判断できない。
③窒息死亡リスクについての予見性と注意義務
・コンニャクゼリーは他の食品に比べ窒息死亡を招き易い食品であると認識できたか
・死亡事故の情報が製造側や提供(児童施設職員等)側に十分伝わっていたか
・本人に起因する原因はなかったか
これらの辺りが争点になってくるかもしれません。
第一の点では、これまで見てきたように、他の食品と比べて危険性の高いものであるとは認識できなかったと思われます(危険性が高い食品であることを示す証拠自体が不明確)。ですので、施設のおやつとして提供する食品にコンニャクゼリーを選択したことに過失はないと考えられます。
第二の点ですが、製品情報として死亡事故情報が製造側に知られていなければ、製造側はそのまま提供し続けるでありましょう。消費者センターに寄せられた情報を元に、センターが製造元に注意を促す情報提供などを行っていたのであれば、事故への対策を何か講じるべきか否かを検討しているでありましょう。もし製品にその原因がない、という結論に達しているのであれば、これまで通りに製造販売が続けられるでありましょう。また、施設職員はコンニャクゼリーを食べることによって児童の死亡事故が発生している、ということを知っていたのであれば、例えば児童が食べる前に「一口で食べずに歯で分割、砕いて食べること」というような注意を与えるべきということも考えられる。しかし、窒息死亡事故はその他の広範な食品でも起こりえること、特別にコンニャクゼリーだけにその危険性があるとは知りえなかったこと、ということであれば、食べる前に敢えて注意喚起を行わなかったとしても止むを得ないのではないか。食べるたびに、毎回毎回この食品には窒息リスクがあります、食べる場合には生命の危険性があるものとして同意した人だけ食べて下さい、というような説明をせよ、ということになってしまいます。
第三の点では、色々と論点があるかもしれません。
分りやすいものとしては、嚥下反射に問題がある人というのは存在しており、普段は明確にはなっていないとしても誤嚥し易い人はいるのです。特に高齢になると嚥下反射や咳嗽反射などが低下している為に誤嚥が起こりやすくなってしまいます。咽頭反射が全般的に落ちてしまうことがあるのです。病気や障害の有無でも違いはありますし、元々咳き込み易い人とか、そういう個体差ということが関係するのです。更に、食べる時に児童が立ち歩いて食べていたり、天井を向いて(仰向けで)ゼリーを口の中に落としたり、といった通常とは異なる行動によって、誤って気道閉塞をきたすかもしれません。これら特殊な行動を取っていたのであれば、食品を児童に渡した結果普通に食べるのではなく、そういう特別な行動を取ることが予見できない限り事前に注意を与えることは困難なのです。こうした摂取する側の要因というものもあるので、一概に製品の責任とばかりは言えないでしょう。
以上のように、いくつかの論点はあると思いますので、直ちに「製品の販売を中止せよ」といったことは難しいのではないかと思われます。ただ、3)の②で述べたように、製品間での違いというものが判明し、若干ではあっても嚥下しやすい或いは誤嚥し難い形状の製品に改善すべきものであれば、そうした改良を施すのは製造側には求められてしかるべきでありましょう。それらに関する知識は広く消費者側に提供されるべきで、もしも安全対策を取らないメーカーということになれば、消費者側から選別されて淘汰されることになるでありましょう。なので、正しい情報がきちんと行き渡れば、仮にメーカーが対策を施さないということがあっても、売れなくなってしまうと思います。しかし、形状にも製品そのものにも問題がないのにも関わらず、「コンニャクゼリーは危険だ」という誤った認識を広く与えてしまうような報道とか情報提供は慎むべきでありましょう。
やや外れますが、医療裁判と同じような判決の出し方を考えてみますと、コンニャクゼリーの提供には過失があった、義務違反があった、という理屈が出される可能性は十分あると思います。マネをして架空の判決を考えてみますと、次のように言えます。
・因果関係を見れば、コンニャクゼリーを食べなければ窒息死亡することはなかった
(コンニャクゼリーが原因だ)
・コンニャクゼリーを食べて死亡した例が過去に複数あるのだから、死亡することは予見できたはず
・危険性について予見可能であったにも関わらず、提供を中止しなかったことは過失
(提供するなら窒息しない製品を提供する義務があったので義務違反)
・小さく切るなどの対策を取りえたのに、それを行わなかったのは注意義務違反
・他の製品においては大多数が死亡しておらず、コンニャクゼリーで死亡しない確率は90%以上
(なのに本件で死亡したということは過失があった)
こうして過失認定となり、コンニャクゼリーは販売中止となってしまうかもしれませんね。裁判結果というのは、それくらい影響力を持つものである、ということです。