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貸金業の上限金利問題~その17

2007年07月02日 22時16分48秒 | 社会全般
先日記事に書きました(キリギリスに貸すのは愚策?~行動経済学と上限金利規制)が、日経の経済教室の記事で解説をされていた筒井阪大教授のグループの研究成果を見ることができました。大竹教授や早大の晝間教授も参加している、本格的な検討であると思います。行動経済学的な考え方を知るには良いと思いますけれども、現実世界ではどうなんだろうか、という疑問点も若干はあるかな、と。

上限金利規制の是非:行動経済学的アプローチ

この論文からは上限金利規制が経済学的には必ずしも効果的ではない、と言えることは理解できるのですが、では実際に対応する場合にはどのように対策を講じるべきか、という部分にやや欠けるかな、と思いました。この世に「完璧な薬」が存在しないのと同じく、経済学的に完全な対策を取りうるのか、ということです。「この薬を使えば、~という副作用がある」という時に、使うか使わないかの判断をどうするかは、検討の余地があるかな、とは思います。上限金利引下げ論が起こったのは2000年以前からであり、経済学的な検討を行う時間はそれなりにあったわけだし、一体これまで何をやってきたのかと疑問に思いますね(笑)。消費者金融分野の研究者というのが非常に少なくて、学術的成果を中々出せないとか、そういう理由があるのかもしれませんが、専門にやってるなら「割と短期間で判りそうなもの」ではないかと思えますよね。それとも、行動経済学の理論がでてきたのは、2000年以降なんでしょうか?アンケート調査などは時間がかかるとしても、理論上だけならばいくらでも考えることができるのであって、経済学理論を「知っていた、判っていた」のであれば、今まで何をやっていたんでしょうね、ということです。

まずは経済学の専門家の中で、結論を出してもらった方がいいのでは。初等的経済学理論が正しいのか、行動経済学的な考え方が正しいのか、結論を出してから政策に反映した方がよろしいかと思いますね。例えば、早大消費者金融サービス研究所の出したペーパーが正しいのか、阪大経済研究所の出したペーパーが正しいのか、どうなんでしょうか、ということです。「経済学理論では~が正しい」とか言ってた人たちは、何をもってあれほど正しいと豪語していたのか知りませんが、そういう人たちは正確に理解できて理論的に全て判っていたのでしょう。それほどの自信をもたらす「経済学理論」とは何なのか、不思議でしょうがないですよ。経済学の教授レベルの意見を比較しても、これほどの大きな違いをもたらすとなれば、かなり「不確か」な程度でしか判らないのではないでしょうか、ということですわな。

上記論文で興味深いのは、「キリギリス」タイプの人が必ずしも正しく判断して借りているとも言えないことで、これまでの「借り手は合理的な判断の結果借りているのだから、金利水準は正しい」みたいな主張というものが、経済学的には「主張できない」ということなのでしょうか。推定では消費者金融市場の借り手の約3~4割がキリギリスであるということですので、合理的とも言えない割合は「そんなにいたんですか、かなり多いですね」という感想を抱きましたよ(笑)。よくありがちな主張である、「借り手は金利とかを十分正しく理解した上で借りてる」云々というものが、かなりいい加減だったということでしょうか?

あと、上限を引き下げると、金利分布で「ハイリスク側が市場から排除され借りられなくなる、故にヤミ金に行く」とか散々謳ってた経済学信奉者たちがいたようですが、これも相当怪しいのではないですか?
上記ペーパーからすると、貸し手側は「情報の非対称性」の為に「借り手のリスクが十分判らない」ということで、そのためキリギリスが大量に混ざっていても排除できず貸出してきました、ということですよね?リスクが正確に判らないのであれば、貸出金利は一様に適用する貸出方式になりがちではないでしょうかね。

金融庁に提出された消費者金融連絡会の資料によれば、06年3月期の経費率(%)は
資金調達コスト 1.38
人件費  1.85
広告宣伝費  1.01
その他費用  4.16

合計すると、8.40%。後は、貸倒率7.27%+過払い返還費用2.26%がある。
これは貸金業者の規模には関係なく算出されており、加盟している業者の数字からの平均的な値であろうと思うが、大手だけだと更に経費率は低い(6%弱くらいだったはず)。合法業者では返還費用なんか発生しないし一時的なものであるので、無視できる。経費は貸倒経費とそれ以外の費用ということで、利益を1.6%見込んでも、コスト(それ以外の費用)率は10%(=8.4+1.6)でしかない。後は貸倒だけだ。

キリギリスを確実に審査から割り出して、市場から排除するか、キリギリスにはあまり貸さない方法が望ましい、ということですよね。昨年決定された法改正で上限が引き下げられてしまえば、貸金市場が崩壊してしまって、「誰も貸せなくなる」って?
コスト率10%、貸倒率1%なら、引下げた金利水準でも十分ウマミがあると思いますが(笑)。ま、辞めたい人が辞めればいいだけで、11%より上の部分が儲けではないですか(本当は1.6%分混ざってるからもっと利益になるだろうけど)。それでも消費者金融市場は崩壊する、と??貸し手は全部消えていなくなるって??
キリギリスが大量に残ってしまって、貸倒率を下げられないなら、そりゃ成り立たないでしょうね。この「貸倒率を引き下げる」ということを求めることこそ、改正の意味があろうというものだ。現実に18%に引き下げた業者が大手を中心に増えたし、結果的には審査を厳しく行うようになっている、ということで貸出抑制になっているのかもしれませんよ?アコムとか。それは、「キリギリスには貸しませんよ」という確率が高くなった、ということだ。


貸金市場が1500万人規模であるとしますか。で、このうちキリギリスタイプの借り手が600万人(40%)、残り900万人(60%)は合理的なタイプであると仮定してみます。5社以上から借りてる多重債務者は約230万人で債務残高は280万円くらいだったと思いますが、便宜的に次のように仮定してみます。

キリギリスタイプは次々と借り入れてしまうタイプなので、複数からの借入を行っている人が多い、ということで、平均債務残高が250万円の人が200万人、同じく100万円の人が200万人、同じく60万円の人が200万人、とします。すると、債務残高は、順に5兆円、2兆円、1.2兆円となって、合計8.2兆円(一人平均債務残高約137万円)となります。市場全体で貸出残高10兆円ならば、残り900万人の債務残高は1.8兆円(平均債務20万円)に過ぎません。キリギリスタイプではないので、まあ、あまり借りていませんよ、ということでしょうか。平均債務が30万円なら2.7兆円ですから市場全体では10.9兆円、40万円ならば3.6兆円ですから11.8兆円となります。

これはどういうことか?貸金市場の債務残高の大半は「キリギリスへの貸出」によって保たれている、ということですわな。全情連のデータでは1社だけからの借入者は600万人くらいしかいないので、ざっと800万人~900万人は複数貸金からの借入者なんですよ。この中に、キリギリスが相当数混ざっていて、貸金業者たちがやってきたのは「キリギリスに貸し込んで」債務残高を膨らませてきた、というビジネスモデルってことですわな(爆)。このキリギリスに貸すのを止めればどうなるかと言えば、多くの貸金業者は倒れるに決まってる。これまでは、キリギリスの特性ゆえに、「次々借りてしまう」というキリギリスの弱点につけ込んで、かっぱいできたのだろう?違うの?だから、ヤミ金の戦術は経験的に正しいんだって。別に行動経済学の理論なんか知らなくても(笑)。儲けるならキリギリスに貸すのが正しいでしょう?
もしもキリギリスを市場から排除して、それ以外の人たちに貸すとしたら、債務残高はずっと少ないだろう、ってことだ。債務が膨らんじゃったのは、キリギリスに貸し込んだから、ということに他ならないでしょう、ということですよ。これを止めるとなれば、結局「lockoutルール」を適用することに他ならず、一定以上は貸さないようにしない限りダメってことなんじゃないの?

ところが反対派たちは、「貸さないとヤミ金に行く」と言い張るわけだ。だったら、キリギリスを矯正してあげなさいよ。借り手規制の方がいいと思っているんでしょ?ならば、その解決策を出せばいいんだよ。貸し手規制じゃなく、やってごらんよ。「キリギリス矯正」でも「キリギリス規制」でも。それは、自動車免許に近いのではないですか、ってことだよね。でも、貸さないと、ヤミ金に直行されるのではありませんか?NHKの間抜けな主張に従えば、「借りられないと、ヤミ金で借りちゃう」って人が倍増中らしいですから(笑)。ヤミ金が絶賛活動中ってことで、満員御礼ですか。初等的経済学理論によれば、貸出が減ればヤミ金で補うそうだから。それとも、キリギリスに貸せってことですかね?
「ヤミ金を個別に取り締まれ」というのは上限規制賛否に関係ない政策なので、何か別な解決策があるということでしょうね。それを最初から主張すればいいではありませんか。だって、経済学理論で判り切っていたことなのでしょう?何で、それを言わないのでしょう。
ところで、GRIPSの鶴田大先生は規制を撤廃して「競争をするように仕向ける政策」とか言ってたはずですけど、それはキリギリスに効くんでしょうか?誰の言ってることが正しいのか、皆目見当もつかないね(笑)。


参考記事:貸金業の上限金利問題~その16

もっと別な見方で考えてみます。貸出金利が上限なしだと、「ハイリスクグループにも貸せる、だから上限がない方がいいんだ」ってなことを真剣に主張する経済学信奉者たちがいるんですよね。これは実際どうなの?と思うのですよ。じゃあ、専業の貸金業者が存在するとして、ハイリスクグループに貸すとしよう。堂下先生のペーパーで出していた正規分布みたいに、ハイリスク側に分布している人たちがいる、ってことだからね。金利構造というのは、上でも見たように、貸倒部分+コスト率という形で書くことが可能。コスト率は既に見たように、せいぜい10%だ。で、ハイリスクグループのうち、50%の確率でデフォルトになるグループがあるとしよう。すると、貸出金利は120%以上じゃなけりゃダメ、ってことになる。上限がなければ可能な金利だ。で、このグループは1年後には、借り手の大体半分がいなくなる。貸倒率が50%だからね。貸出残高は維持できない。すぐみんな倒れるから。残高に関わらず毎年50%のデフォルト率である人たちの市場は、10年後どうなっているかと言えば、ほぼ消滅している。

コインを1000枚投げて、裏が出たら除外し、表が出たものだけを再び投げる。これを繰り返す。すると、10~11回も投げると、ほぼ全部に近い数が除外されるであろう、と、そういうこと。つまり市場そのものが消滅するんだよ。だから、こんなハイリスクグループに貸し出す市場なんてものは、現実には存在し得ない。商売にならないじゃないの(笑)。有り得るのは、無限に借り手が現れてくる場合だけ。新銀行東京みたいに、ミドルグループに貸し出すとどうなるか?毎年のデフォルト率が10%であると、貸出金利は22.2%以上ということになる。で、このグループは10年後になれば、約65%くらいが市場から消えてしまうだろう、ということ。これは正20面体のサイコロに1~20の数字をふり、出た数字が1か2の時は除外し、それ以外の目が出たら再び投げるというのを繰り返すと、10回終われば大体65%くらいは除外されているんじゃないかな、ということかと。よく判らんけど、モンテカルロ法みたいな演算をやれば、多分結果が出せるのではないかと思う。

要するに、デフォルト率が割りと高いグループというのは、市場から早くに排除されている可能性が高いのである。潜在的に借りていなかった人が多くて、新規参入者で毎年排除される人の分だけ穴埋めできれば市場は継続できるかもしれんが。でも、ハイリスクグループの存在確率自体がかなり少ないはずなので、日本全体での数で見ても限られている。借り手は無限なんじゃない、あくまで有限なのですよ。上限金利がどの程度であるかにはあまり関係がなく、一様に金利を適用していても、デフォルト確率の高い人ほど早くに市場から排除されてきたであろう。なので、過去10年間のうちにデフォルトとなって排除されてきた約160万人にそれらの人々が含まれるのであれば、今の時点で本当にデフォルト確率が高い人というのは、本来あまり残っていないでしょう、ということです。なので、上限が引き下げられたところで、ハイリスク側に属しているので借りられなくなる人たちというのは、たとえ残っていたとしてもごく僅かでしょう。

日本全体で貸金市場の潜在的借り手の数を世帯数より多い数で仮定して、仮に7000万人としますか。このうち、キリギリスタイプが20%であるとすれば1400万人であり、それ以外(概ね合理的タイプ)が5600万人ということになる。キリギリスタイプは借り手になりやすく、36%が借り手となっているならば1400万人×36(%)=504万人が借り手として存在することになる。キリギリスタイプよりも合理的タイプは借り手になりにくく、半分の18%が借り手になる(キリギリスタイプは合理的タイプの2倍の確率で借入してしまう、ということ)とすれば、5600万人中の1008万人が借り手となる。合計は1512万人だ。

で、キリギリスタイプはデフォルト確率が高いグループで、年間で3%の人がデフォルトに陥って毎年市場から排除されるとする。すると、最初は504万人いたキリギリスのうち約131万人が、10年間で市場から排除されることになる。合理的タイプの方はデフォルト確率が低く、年間で0.3%の人がデフォルトとなり毎年市場から排除されるとすれば、合計で約30万人がデフォルトとなる。つまり、デフォルト確率が年間3%グループと0.3%グループが存在している時、10年後には約161万人がデフォルトで排除されることになる。これはこれまでの10年間で自己破産等で法的処理となった数と大体同じ水準である。キリギリスタイプは、合理的タイプの10倍の確率でデフォルトになる、ということで考えると、キリギリスタイプでは504万人だったのが373万人に減少、合理的タイプは1008万人が978万人に減少、ということになる。市場から排除されたのは、キリギリスタイプの約26%、合理的タイプの約3%である。
(本当は新たな借り手が新規参入するので、10年間で人数が減少ばかりということではないはずですが、面倒ですので一応初めの状態と比較してみる、ということにしました)

貸金市場の貸倒率が高いのは、上で見たキリギリスに「多く貸し込んで」債務額を膨らませているからで、実人数で見ればそこまでは多くない。キリギリスの特性につけ込んで貸し込みを行い、デフォルトになるまでに回収している額の方が多い、ということだろう。キリギリスのうちデフォルトになるのは、年間「たったの3%」だからね(笑)。残り97%のキリギリスは払い続けているわけだから、貸す方がかなりお得だろう。破綻水準に至るキリギリスの3%が抱える負債額が他に比べれば莫大なだけだ(これとて、実際に使ったお金よりも、金利が膨張した方が多い可能性は高いだろうが)。貸金市場のざっとの推定で、キリギリスタイプの借入額上位200万人が貸金市場全体の約半分の債務残高なのではないか。貸金業者たちは、こうしてキリギリスに貸し込んで市場規模を膨らませてきたに過ぎないんだよ。で、それと一緒に金利を取られてきたのが合理的タイプの人たちであり、この人たちが払った金利をも食いつぶしているのがこれまでの貸金市場であったろう。キリギリスに量的制限を設けるか市場から完全排除して貸出を止めるとなれば、適用金利はかなり低くて済むのだよ。だって、年間デフォルト確率は0.3%ですからね。市場全体で債務残高とか貸倒率がどのくらいになるか判りませんが、かなり少なくなるであろう。

貸金に「キリギリスに貸すのを止めろ」と言っても効果ないよ。キリギリスが市場からほぼ消えてしまうまで、貸すだろう。市場に残ってるキリギリスは、貸してくれる業者を求めるからね。業者にしても、貸せば儲かる方法だったからね。これは確かに上限金利引下げでは、あまり効果が出なかったわけだ。業者がキリギリスに貸したくて貸したくて仕方がないんだから。ヤミ金までもが、「キリギリスを追い求めて三千里」だから(笑)。
今更になって、貸し手が「キリギリスに貸すのは止めましょう」ってなるの?
別に、それでもいいけど。
貸出残高は大幅に減少することになると思うけどね。
貸し手が、アナタは性格を直しなさい、とか言う?
貸し手が、アナタは借りすぎなのでもう借りるの止めなさい、と言うの?

で、ヤミ金が大儲けなんですよね?

いずれにしても、貸金市場は大半がキリギリスへの貸し込みによって作られた市場である、と思うね。


それから、大手貸金業の貸出残高が7千億円くらい減少した、とかってニュースがあったけど、あれってどの程度が「貸出審査厳格化」の効果なんだろうね。過払い返還費用が06年3月期で2千億円以上発生してた(経費率からの推測です)なら、今年の3月期ではもっと行っていても不思議ではないけどね。どうなんでしょうかね。過払い請求者は完済者も含まれるだろうけど、それよりもまだ債務を抱えている人は多いと思うし、訴訟とかになっているのは100万円以上の返還請求者が多いからね。例えば債務残高が100万円で返還費用を取り返して、残高がゼロになる、というような人は結構いるだろう。それらの残高減少額がどのくらいだったかにもよるが、数千億円規模かもしれんし。返還費用を払って残高がゼロになったので貸出残高も2千億円くらい減ったとしても不思議でも何でもないしね。
それと08年3月期では業界全体の貸出残高が増えちゃってるみたいだけど(笑)。過去2年連続で減少してたのに。消費者向無担保貸金業者の融資額は前年11兆6720億円だったのが、今年の3月期で11兆7403億円だって。上位27社の1件当たり平均貸出残高は約60万円になってるよ。数年前よりも確実に増えてるね。結構貸してるんじゃないですか?
大手・準大手27社で10兆円貸してるから、借入額の多い方から上位300万人が平均180万として5.4兆円、次の500万人が60万円として3兆円、残りは600万人が30万円として1.8兆円となる。ほらね、どう考えても借入上位者に貸し込んでいるのが貸金市場なんだよ。業者が餌食にしているのは、キリギリスってことですね。これがなくなれば、大半の債務残高が消えるんじゃないですか?(笑)これを市場消滅とか言われたらかなわんな。


※訂正:
上記「08年3月期」の貸出残高が11兆7403億円と書いていますが、これは誤りで「18年3月期」でした。失礼しました。
なので、19年3月期の貸出残高はどの程度なのか判りません。お詫び致します。