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「悪意の受益者」と推定されうる貸金業者

2007年07月14日 19時03分43秒 | 法関係
さすがは最高裁判決です。
借り手の無知ということを利用することになりかねないので、貸し手には当然ハードルが課せられるということになりましょう。

asahicom:灰色金利利息の請求、過払い発生時から可能 最高裁 - 社会

同時に2つの判決が出されたとのことで、両方とも拝見致しました。若干内容は異なっていますが、判決の核心部分は同様でありました。(参考までに、裁判長は異なっておりましたが、両判決の裁判官はメンバーが同一でした。同種事件ということで、そのような形となったのかな、と思いました。)

で、判決文を「判例Watch」で探すと出ておりました。

平成18受276不当利得返還等請求事件

判決文を読んで、私のような下賤の者でも、「何を示したか」ということがよく伝わってきました。できるだけ多くの方々に判決文をお読み頂ければと思います。法学的な理屈を知らないとしても、判るように書かれていると思いました。これについて書いてみたいと思います。判示された部分は『』で引用しています。

まず、基本的な原則が述べられておりました(判決からは一般原則は読み取れない、ということでもないように思えました)。

『貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。』

そもそも、貸金業者は、「みなし弁済」規定である貸金業法43条1項を知っている、という(前提である)ことです。そうであるから、
同項の適用がない場合には、
・残元本があればそれに充当
・残元本が完済になれば過払金は不当利得として返還するべきもの
であることを十分認識しているというべき(原則1)

この原則1に沿って考えると、
・貸金業者が制限超過部分を受領(=利息債務の弁済)
・受領が43条1項の適用条件を満たしていない
という場合には、「悪意の受益者」と推定される(原則2)ということです。
但し、
・43条1項の(条件を確実に満たしているので)適用と認識
・その認識を持つに至るやむなき特段の事情がある
を同時に満たす場合には、単なる受益者となるであろう(原則3)ということです。


民法の規定を見ると、次のようになっています。

第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

第704条
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

「悪意の受益者」とは704条規定の通りで、この場合には「利息を付けて返還せよ」という義務を生じます(損害賠償を負う可能性もある)。そうでない場合には、703条の受益者で不当利得返還だけで済む、ということになります。もしも、この悪意の受益者である場合には、民法規定の年利5%の利息を付けて返還しなさい、ということになりましょう。

これらに照らせば、
『これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これらの本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定されるものというべきである。』
という結論が導き出される、と判示しているものと思います。


更に、判決では原則3の「特段の事情」について具体的に判示した部分があります。

『少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。

したがって,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。』

これによれば、認識を有するに至ったことがやむを得ないといえる「特段の事情」とは、
◎「合理的な根拠」があって認識するに至ったことが必要
で、「合理的な根拠」とは、具体的に言うと
・認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あった
・認識に一致する解釈を示す学説が有力であった
ということです。

そして、認識に一致する「見解があった」というだけでは「特段の事情」とは認められない、ということです。
これは何を言っているのかといえば、「(複数裁判官によって)複数例の判例が形成されている」か、「有力な学説」といった、「合理的根拠」が必要なのであり、それがあるのであれば(43条1項の適用条件を満たしているという)「認識を持つに至らしめる」のはやむを得ないですね(=特段の事情)、ということだろうと思いました。

もっと平たく言えば、どこの誰が言ったのか知らないが、「○○を交付しておけば、これは18条書面の要件を満たしているから、43条1項が適用される」「17条書面はこれでいいのだ、43条1項はクリアだよ」=利息制限法の上限を超えても大丈夫、というような(オレ流?トンデモ?)「見解」というのは、正しくありませんよ、合理的根拠じゃありませんよ、ということですね。

法令を正しく解釈していない「(トンデモの)見解」が主張され、その誤った見解に基づいて業務を行っている貸金業者が多数存在しているとしても、それを理由として「悪意の受益者」を否定する根拠とはなり得ない、と最高裁は考えたものと思います。これは良く判る気がしますよ。だって、ポップみたいな値札にデカデカと「200円」と書いてあって、200円かと思って払ったら、レシートの隅っこに凄く小さい字で、「但し、150円を超える部分はサービスみたいなもので支払は任意です。超過分は返金できません」みたいに書いてあって、本当は150円払うだけでよかった、ということであるなら、騙されたとしか思えないでしょう、普通は。この「但し、150円を超える~」みたいに書いてある時点で、ヒッカケであることを売り手は知っている(=悪意の受益者)ということが十分推定されるわけで、もし本当にルールを知らなかったなら初めから150円と大きく書いておくか、200円を受取ったとしても50円をお釣りで返すに決まっているからだ。
それとも、間違えたルールを覚えていた、ということならば、その間違いの原因となった「ルールブック」はどこかにありますよね、あるなら見せてごらんなさい、ということなんですよね。間違った認識に至らしめた「ルールブック」が、判例や学説というようなものではなく、単に「みんながやっていいと言っていたから」というのは合理的根拠にはなり得ないですよ、という当たり前のことを示したのですよね。


大企業を含めて、これまで「悪意の受益者」としてやってきた企業は、しっかりと反省してもらいたいもんだね。企業の顧問弁護士とかたくさんいたであろうに、どうしてこれほど「悪意の受益者」の立場を放棄することなく、しかも社会的に批判も受けずにこれたのか不思議ではあるね。それだけ、多くの人々が「本当のルール」ということや「金利水準」ということに気付かないで来たから、無知につけ込まれてきたから、ということなのであろうか。


でも、自分自身オレ流解釈を並べてしまっている(例えば、日本の憲法学者の真意を問う)のであって、人のことを言えないんですよね、実は(笑)。

これは、決して悪意があるわけではないんです、少ない脳みそをふり絞って真剣に考えた結果なんです(笑)、信じて下さい!
だからといって許されるわけでもないのであるが。