ボツネタ経由で知りました。朝日新聞に出たのだそうです。今まで何度か書いたのですけど、もう一度まとめて反論したいと思います。
ボ - 出資法の上限金利の引下げに異論 by坂野友昭早大教授@昨日付朝日「きょうの論点」欄
広告特集:早稲田大学
(記事中に示されているのは、「上限金利規制が消費者金融市場と日本経済に与える影響」と題するワーキングペーパーによるものです)
図1に示された超過需要の問題は、現在の貸金市場や消費者金融市場全体(銀行やクレジット等の信用供与も含む)の市場構造の前提があります。それは「完全競争市場」、「貸出金利はリスクを正確に反映」、「審査は全て適正」ということです。
・以前にご紹介しましたが、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の47thさんの記事(ふぉーりん・あとにーの憂鬱 上限金利規制の論拠を考える:市場支配力2)では、貸金市場の構造としては「独占的競争市場」の可能性が述べられています(茶野努氏の「消費者金融サービス市場の競争度」というペーパーが取り上げられています)。完全競争市場とは言えない可能性が高いと考えられます。
・審査に関しては、日本の貸金業者には信用情報機関の登録・利用を全く行っていない業者が多数存在しており、必ずしも「適正」とは言いがたいと思われます。更に、機関ごとに利用できる情報が違ったり、事故情報などの取扱が異なるという面があり、貸出業者側の審査が十分に行えない場合も想定されると思われます。特に自己破産や特定調停に至る債務者では、通常の貸出審査を経た融資ばかりが実行されている訳ではありません。
・貸出金利とリスクの関係ですけれども、必ずしもリスクの高くない層に対する貸出においても、よりハイリスクの層と同様の貸出金利が適用されています。リスクに連動した金利変更はあまり行われていないと思います(一部貸金業者では行われているかもしれませんが、実態はよく知りません)。例えば、貸金業者からの借入があってもなくても、クレジットカードのキャッシング金利は同じですよね。
・図1の超過需要(=信用供与額の減少)の発生は、均衡金利水準とそれよりも低い上限金利水準との乖離幅があることによって生じると考えられます。しかし、均衡金利水準は正確には推定できてないのではないかと思います。なのに、均衡金利水準がシミュレーションで想定される上限金利(例えば27%とか23%とか)よりも、必ず上(多分ペーパーでは27~29.2%の間の領域)に存在するということが必然という扱いになっています。仮に、均衡金利水準が20%よりも低い場合には、このような超過需要は発生しないと考えられます。よって、図1に基づく「超過需要の発生」を必然とすること、更に貸金業や消費者金融全体の信用供与の減少額を推定することは、実際の貸金市場や消費者金融市場を反映しているとは言えないと思います。またその額を、GDPの0.364%と推定してますが、「過大」なシミュレーションであると考えます。
・借入の困難な層というのは存在する可能性がありますが、厚生労働省の公的融資制度を利用することは検討に値すると思われます。少なくとも高利の貸金業者たちや闇金業者たちの餌食になるよりは、はるかにマシです。
・イギリスの例を挙げておりますが、日本とは違った法制度や社会環境があり、簡単に比較はできないと思います。イギリスでは5千~1万5千ポンドのローンのAPRで見れば、日本よりも低金利であり(例えば6.4%という商品も存在します。7.9~11.9%程度の複数業者が存在しています)、市場による競争は働いているということだと思われます。導入金利は更に低く、1%未満という場合もあります。クレジットカードのキャッシング金利にしても、3ヶ月間無料とかそれ以降14.9%といった水準であり、日本での実態(先日までのトヨタファイナンスは26.4%もの金利を取っていた)とは違います。
しかも、消費者信用法によって、暴利的信用取引であると裁判所が認めた場合には、”裁判所が契約を再締結させる権限”を有しています。広告規制も日本よりも厳しく、業者の免許制度も制限が設けられています。クレジットカウンセリングも充実しており、日本のような状況とは異なっていると考えられます。そういう環境が整えば、金利上限は必要なくなるかもしれませんが、日本ではそこまでの整備は進んでいないと思います。
参考記事:
貸金業の上限金利問題~その3
貸金業の上限金利問題~その8
貸金業の上限金利問題~その9
すみすさん、経済学院生さんへのお答え
貸金業の上限金利問題~その12
闇金が増加したワケ(追加あり)
貸金業の上限金利問題~その13
参考記事にも書いたが、上限金利のないイギリスは、破産者の人口比では95年約0.05%→03年約0.07%という推移だった。日本では同じ時期に0.03%→0.19%と約6倍以上に増加したのだ。00年の金利引下げ以前までに、約0.1%まで増加していた(特定調停件数は自己破産よりさらに多く、03年には約53万件で、自己破産と個人の民事再生を合わせれば約80万人の多重債務者問題が発生していたと考えられる。つまり自己破産件数の約3.3倍にも達することになり、人口比で言えば0.63%で、イギリスの自己破産+和議よりも約6倍くらい多いと推定される)。日本とは環境が全く異なっている。上限金利の議論をイギリスから部分的に「輸入」してきて、「イギリスには上限がないんだ」といくら言ってみても、日本で同じ効果を期待するのは、現状では到底無理だろう。
(※訂正:コメントで情報を頂戴しましたので、訂正させて頂きます。
特定調停は債権者ごとということだそうで、1人の債務者が複数の借入先があると、その債権者ごとに事件件数が発生するのだそうです。つまり事件件数が53万件であれば、「債務者数=53万人」ではなく、「債権先=53万件」ということです。債務者1人平均だと7件程度の債権先と思われ、53万/7=約7.6万人の債務者ということが推測されます。ということで、上記「約80万人の多重債務者問題」というのは誤りであり、約33万人程度ということになります。人口比では0.26%となります。お詫びして訂正いたします)
坂野先生はイギリスの標準的なAPRが20%未満(約15~16%くらい)である、ということを正確に言うべきだろうね。制度や上限金利のないことだけを取り上げてるが、バンク・オブ・イングランドのベースレートが4~5%くらいなのに(日本はとりあえずゼロ金利だ)、日本よりもはるかに低い金利で無担保の信用供与が行われている、ということもですよ。
それに00年の金利引下げ以前から、金利選好の謎というのは存在していた。日本では、低金利業者を必ずしも選ばない、ということだ。これは知識が不足しているとか、アクセスのしやすさとか、CMによるイメージなどに影響されているのではないか、と考えられている。借り手のアンケート調査でもそうした傾向がある。
勿論、上限金利引下げが妥当かどうか、ということは議論が必要だと思われます。上限金利だけでは「社会的弱者は保護できない」というのは、その通りかもしれませんが、市場が機能していくまでの間の暫間的な処置として無意味とまでは言えません。
(加筆修正してます。18時頃)
ボ - 出資法の上限金利の引下げに異論 by坂野友昭早大教授@昨日付朝日「きょうの論点」欄
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(記事中に示されているのは、「上限金利規制が消費者金融市場と日本経済に与える影響」と題するワーキングペーパーによるものです)
図1に示された超過需要の問題は、現在の貸金市場や消費者金融市場全体(銀行やクレジット等の信用供与も含む)の市場構造の前提があります。それは「完全競争市場」、「貸出金利はリスクを正確に反映」、「審査は全て適正」ということです。
・以前にご紹介しましたが、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の47thさんの記事(ふぉーりん・あとにーの憂鬱 上限金利規制の論拠を考える:市場支配力2)では、貸金市場の構造としては「独占的競争市場」の可能性が述べられています(茶野努氏の「消費者金融サービス市場の競争度」というペーパーが取り上げられています)。完全競争市場とは言えない可能性が高いと考えられます。
・審査に関しては、日本の貸金業者には信用情報機関の登録・利用を全く行っていない業者が多数存在しており、必ずしも「適正」とは言いがたいと思われます。更に、機関ごとに利用できる情報が違ったり、事故情報などの取扱が異なるという面があり、貸出業者側の審査が十分に行えない場合も想定されると思われます。特に自己破産や特定調停に至る債務者では、通常の貸出審査を経た融資ばかりが実行されている訳ではありません。
・貸出金利とリスクの関係ですけれども、必ずしもリスクの高くない層に対する貸出においても、よりハイリスクの層と同様の貸出金利が適用されています。リスクに連動した金利変更はあまり行われていないと思います(一部貸金業者では行われているかもしれませんが、実態はよく知りません)。例えば、貸金業者からの借入があってもなくても、クレジットカードのキャッシング金利は同じですよね。
・図1の超過需要(=信用供与額の減少)の発生は、均衡金利水準とそれよりも低い上限金利水準との乖離幅があることによって生じると考えられます。しかし、均衡金利水準は正確には推定できてないのではないかと思います。なのに、均衡金利水準がシミュレーションで想定される上限金利(例えば27%とか23%とか)よりも、必ず上(多分ペーパーでは27~29.2%の間の領域)に存在するということが必然という扱いになっています。仮に、均衡金利水準が20%よりも低い場合には、このような超過需要は発生しないと考えられます。よって、図1に基づく「超過需要の発生」を必然とすること、更に貸金業や消費者金融全体の信用供与の減少額を推定することは、実際の貸金市場や消費者金融市場を反映しているとは言えないと思います。またその額を、GDPの0.364%と推定してますが、「過大」なシミュレーションであると考えます。
・借入の困難な層というのは存在する可能性がありますが、厚生労働省の公的融資制度を利用することは検討に値すると思われます。少なくとも高利の貸金業者たちや闇金業者たちの餌食になるよりは、はるかにマシです。
・イギリスの例を挙げておりますが、日本とは違った法制度や社会環境があり、簡単に比較はできないと思います。イギリスでは5千~1万5千ポンドのローンのAPRで見れば、日本よりも低金利であり(例えば6.4%という商品も存在します。7.9~11.9%程度の複数業者が存在しています)、市場による競争は働いているということだと思われます。導入金利は更に低く、1%未満という場合もあります。クレジットカードのキャッシング金利にしても、3ヶ月間無料とかそれ以降14.9%といった水準であり、日本での実態(先日までのトヨタファイナンスは26.4%もの金利を取っていた)とは違います。
しかも、消費者信用法によって、暴利的信用取引であると裁判所が認めた場合には、”裁判所が契約を再締結させる権限”を有しています。広告規制も日本よりも厳しく、業者の免許制度も制限が設けられています。クレジットカウンセリングも充実しており、日本のような状況とは異なっていると考えられます。そういう環境が整えば、金利上限は必要なくなるかもしれませんが、日本ではそこまでの整備は進んでいないと思います。
参考記事:
貸金業の上限金利問題~その3
貸金業の上限金利問題~その8
貸金業の上限金利問題~その9
すみすさん、経済学院生さんへのお答え
貸金業の上限金利問題~その12
闇金が増加したワケ(追加あり)
貸金業の上限金利問題~その13
参考記事にも書いたが、上限金利のないイギリスは、破産者の人口比では95年約0.05%→03年約0.07%という推移だった。日本では同じ時期に0.03%→0.19%と約6倍以上に増加したのだ。00年の金利引下げ以前までに、約0.1%まで増加していた(特定調停件数は自己破産よりさらに多く、03年には約53万件で、自己破産と個人の民事再生を合わせれば約80万人の多重債務者問題が発生していたと考えられる。つまり自己破産件数の約3.3倍にも達することになり、人口比で言えば0.63%で、イギリスの自己破産+和議よりも約6倍くらい多いと推定される)。日本とは環境が全く異なっている。上限金利の議論をイギリスから部分的に「輸入」してきて、「イギリスには上限がないんだ」といくら言ってみても、日本で同じ効果を期待するのは、現状では到底無理だろう。
(※訂正:コメントで情報を頂戴しましたので、訂正させて頂きます。
特定調停は債権者ごとということだそうで、1人の債務者が複数の借入先があると、その債権者ごとに事件件数が発生するのだそうです。つまり事件件数が53万件であれば、「債務者数=53万人」ではなく、「債権先=53万件」ということです。債務者1人平均だと7件程度の債権先と思われ、53万/7=約7.6万人の債務者ということが推測されます。ということで、上記「約80万人の多重債務者問題」というのは誤りであり、約33万人程度ということになります。人口比では0.26%となります。お詫びして訂正いたします)
坂野先生はイギリスの標準的なAPRが20%未満(約15~16%くらい)である、ということを正確に言うべきだろうね。制度や上限金利のないことだけを取り上げてるが、バンク・オブ・イングランドのベースレートが4~5%くらいなのに(日本はとりあえずゼロ金利だ)、日本よりもはるかに低い金利で無担保の信用供与が行われている、ということもですよ。
それに00年の金利引下げ以前から、金利選好の謎というのは存在していた。日本では、低金利業者を必ずしも選ばない、ということだ。これは知識が不足しているとか、アクセスのしやすさとか、CMによるイメージなどに影響されているのではないか、と考えられている。借り手のアンケート調査でもそうした傾向がある。
勿論、上限金利引下げが妥当かどうか、ということは議論が必要だと思われます。上限金利だけでは「社会的弱者は保護できない」というのは、その通りかもしれませんが、市場が機能していくまでの間の暫間的な処置として無意味とまでは言えません。
(加筆修正してます。18時頃)