都知事選が終わり1週間が経った。
相変わらずネットメディアの世界では様々な「死闘・乱闘・中傷」が盛んなようである。
特に「池に落ちた犬は叩け」という眉を顰めるような連中の跳梁跋扈ぶりにはうんざりしてしまう。
同じような感想を持っている人も決して少なくはない。
「いやはや……な総括(鈴木耕)」
ソフト・ファシズムの足音 東京は猛烈な暑さである。湿度も高く、都内のあちこちで激しい稲妻が走り、ゲリラ雷雨が発生。まだ梅雨の時期だというのに、静岡では40度超にまで達したというし、ぼくの暮らしている府中市も、8日には39.2度、全国で2番目の高温だったというから、高齢者には耐えがたい暑さだ。まさに異常気象というしかない。 暑さもさることながら、なんとも言いようのない都知事選だった。なぜこんな結果になったのか、様々な人が様々に分析している。 7月7日の夜、ぼくも所属している「デモクラシータイムス」が、都知事選の「選挙特番」を組んだので、ぼくも参加。金子勝教授や山口二郎教授が出演なさって、これからの展望も含めてさまざまなお話をしてくれた。頷きながら聞いた。 その中で、金子さんは「ソフト・ファシズムの時代が来ている」と分析した。納得がいく。確かに、圧勝した小池百合子さんにしろ、突如2番手に躍り出た石丸伸二さんにしろ、その気配が濃厚である。 小池さんは一切の異論を受け付けない。 選挙間際に子ども手当をばらまいたり、公務と称して様々なイベントに顔を出すけれど、公開討論などは逃げまくる。つまり、お気に入り記者の質問以外は受け付けないという姿勢だった。 神宮外苑の樹木伐採も、晴海フラッグ(旧オリンピック選手村)の分譲マンション格安払い下げ問題も、築地市場跡の再開発も、プロジェクション・マッピングの無駄遣いも、大手デベロッパーへの大量の都幹部職員の天下りも、関東大地震の際の朝鮮人虐殺慰霊への追悼文送付の取りやめも、食料配布に並ぶ困窮者への冷酷な扱いも、むろん、あのカイロ大学卒業という経歴詐称も、萩生田百合子と呼ばれた自民党との生臭い関係も……とても片手の指では足りないほどの疑惑の数々には、徹底的にだんまりを押し通した。その結果がこれだから、見事というしかない。 都民の批判をまったく受け付けず、何やらやわらか風な物腰で物事を押し通してしまうという手法は、なるほど、金子さんの言うように「ソフト・ファシズム」の気配が濃厚である。 石丸伸二さんの急伸ぶりには驚いた。 彼に関しては、この緊急特番に参加した高瀬毅さんの分析通り、SNSを駆使した選挙運動が図抜けていたというしかない。 高瀬さんは、実際に石丸さんの街頭演説を聞いていた。その上で、「まったくの無内容。具体的なことには何も触れない。話し方もいわゆる絶叫調ではなく、やさしくとつとつと語りかける。その上で1日に都内を10カ所ほども駆け回る。それを逐一ネット上にあげていく。また、他候補のネット上の街宣の様子の動画のそばに、必ずと言っていいほど石丸さんの動画がついてくるように仕掛けてある。まさにネット選挙の申し子だった」。それが高瀬さんの感想であった。 ぼくも何度もネット上で石丸さんの街宣風景を見たけれど、高瀬さんの言うように、まったく何も心に残らなかった。だが、それでも「反自民、非自民」のとくに若い層には刺さったようだ。ボランティアが日に日に増えていったという。蓮舫さんが獲得しなければならなかった「反自民層」が、雪崩を打つように石丸支持へ傾いていったのだ。多分、これが蓮舫さんの最大の敗因だろう。 しかも、ドトールの経営者などの企業家も資金的に陰で支え、超有名な選挙仕掛人がバックについたというのだからなかなか強い。 ただし、石丸さんが安芸高田市長だったころの市議会議員たちとの“妙な闘いぶり”を見ていると、かなり危険な臭いもした。もし彼が都知事になったら、同じように都議たちを俎上にあげて闘う都知事のカッコよさをアピールするのか。だがそこから、いったい何が生まれるか。石丸市長が後ろ脚で砂をぶっかけたまま辞職した安芸高田市には、いったい何が残ったか? 石丸さんの辞職後の市長選では、それこそ石丸市政を全否定するような藤本悦志さんが当選した。それが安芸高田市民の石丸さんへの答えだったのだろう。 何もない、ふわっとした空虚な象徴、これが石丸さんの実像だったのだ、と高瀬さんは分析した。ぼくは当たっていると思った。 石丸さんの選挙後のさまざまなメディアのインタビューの評判が極めて悪い。はぐらかした答え方や、質問に質問で返す話法、さらには冷笑で質問者を見下す態度。どうもこの人、危ない感じがするのだ。いずれ、本性が現れてくるだろう。 ミソジニー 蓮舫さんの場合はどうか。 選挙戦の初期、蓮舫さんへの期待感は圧倒的だった。彼女の街宣には驚くべき数の聴衆が押し寄せ、その熱狂ぶりは前代未聞と言われた。〈蓮舫流行ってる〉というフレーズが、トレンドにあがったほどだった。 それがなぜこんなに失速したのか? ぼくは、この日の特番で「ミソジニー」と指摘した。 ミソジニーとは、女性嫌悪、女性蔑視、そして、そこから生まれる女性差別を意味する言葉だ。蓮舫さんは選挙戦初期「闘う女」を前面に押し出したように見えた。つまり、〈闘う女と逃げる女〉…。闘いを挑む強い女性と、逃げることで都知事の座にしがみつこうとする狡い女性…という対決構図を作ろうとしたのではないか。 むろん、それはマスメディアがもっと好みそうな図式だった。さっそく「女の戦い」「首都女性決戦」というような見出しが躍った。だが、それが失敗だったとぼくは思う。日本という国に抜き難く残る「女性嫌悪」、それも「強い女への嫌悪」(もっとやさしい言葉でいえば、強い女性への敬遠感)がじわじわと拡がったのではなかったか。 若い層は、既成政党には頼らず、やんわりと語る石丸さんへ傾斜した。比べて、なんだか𠮟られそう…と蓮舫さんに尻込みした。そういうふうにぼくには見えた。 熱狂的な聴衆の声援を受けて、蓮舫陣営は勘違いしたのではないか。小池さんが公務と見せかけた選挙運動を繰り返し、それをベタベタ記者らに取材させ、マスメディアにうまく載る。石丸さんは1日の10カ所ほどもの街宣を連日繰り返す。それをYouTubeなどで繰り返し配信する。 ところが蓮舫さんは、1日に2~3カ所ほどの街宣しか行わなかった。いかに多数の聴衆を集めようと、それでは伝播力も石丸さんにはまったくかなわない。小池さんはうまく公務を選挙運動に連動させた。あの電車プロレスでの空手チョップなど、イヤらしいけれど見事だったわけだ。この3者の対比が勝敗を分けた? 〈闘う女性 VS. 逃げる女性〉という図式は、〈迫る女性 VS. 柔らかく受け流す女性 VS.イケメンの若き男性挑戦者〉に置き換えられてしまった…。 マスメディアの恐るべき劣化 それにしても、今回の都知事選についてのマスメディア、ことにTVメディアの退廃ぶりは、それこそ前代未聞だった。 ぼくはあまりテレビを見ない。見るのは録画しておいた映画やスポーツ中継(ことにラグビー)くらいのものだが、ニュースはそれなりに見ている。ところが今回は、都知事選がほとんどと言っていいほどニュースに取り上げられなかったのだ。 NHK午後7時のニュースなどは呆れるほど。〈今日の大谷選手コーナー〉は、ほぼ毎回100%なのだが、選挙戦の様子は0%という日が続いていた。 ぼくがツイッターでそれを指摘すると「東京は一地方に過ぎない。毎日伝えるのは他の地方への差別だ」などというわけ分からん反論(?)が飛んできた。そりゃ違うだろう。東京は日本の首都であり、政治経済の中心地なのだ。しかも東京都の予算は、北欧の1カ国に匹敵するほど巨大だ。その首長選が〈一地方のローカルニュース〉であるわけがない。 テレビが黙れば、日常的にSNSなどに触れない都民は、現状維持に傾く。 たまにテレビが伝える選挙関連のニュースは、異常な事態に陥った選挙ポスター掲示板の惨状を、面白おかしく茶化すだけ。各候補の政策の違いなどにはほとんど触れないのだから、異常な報道機関の態度だった。 蓮舫さんが嘆いていたが、テレビ討論会を呼び掛けても、「ある候補が公務多忙ということで受けてもらえなかった」という。だがそれならば、テレビ局は「○○候補は公務多忙という理由で、討論会には参加できないということです」と注釈して、残った有力候補だけで討論会を開けばよかったのだ。公務時間を過ぎた夜11時頃なら、もし出ないとすればその候補の意思なのだと判断していい。それならば、候補者の判断なのだから文句を言われる筋合いはない。 その程度の決心さえ、テレビ局はできなくなってしまったのである。劣化の極みである。 メディア人の無知 ところが、投票日(7月7日)の昼に、開いた口が塞がらないようなひどい番組が登場した。TBS系の日曜昼の番組「アッコにおまかせ!」である。投票についての注意事項として、女性アナウンサーが「登録してある名前を正確に書かなければ無効になります。漢字で登録した人は漢字で、平仮名の人は平仮名で書かなければなりません」というような発言したのだ。これは、まったくのデマだ。 小池百合子や石丸伸二という漢字はそれほど難しくはない。だが、やや難しいとされた「蓮舫」という漢字を少しでも書き間違えれば無効というに等しかった。すぐさまツイッター上では「蓮舫さんを狙い撃ちした」と猛批判が巻き起こった。 繰り返すが、これはまったくのデマ。その人と判別できれば票として数えられる。例えば「蓮舫」を「連方」と書き間違えたとしても、それは確実に「蓮舫票」とされるはずなのだ。 むろん、番組内で訂正したけれど、これはちょっとひどすぎる。このアナウンサーもディレクターも構成作家も責任者のプロデューサーも、これまで選挙の投票に行ったことはないのか。 まさに、テレビ局が上から下までの無知をさらけ出した瞬間だった。 こんな様々な状況の中で、まさに小池百合子都知事は再選されたのだった。 欧米では、そして日本は? この結果に、小池ステルス支援を行った自民党はホッと一息ついたか? だが、そうはいかない。同時に行われた東京都議補選の結果が物語る。自民党は9選挙区のうち8選挙区で候補者を立てながら、実に2勝6敗、惨敗したのだ。 自民党という名を隠した都知事選ではなんとか勝ちを拾ったが、政党名を表に出さざるを得ない都議選では惨敗した。しかもこの選挙の実質的な責任者だった萩生田光一自民党都連会長の地盤である八王子市では、全力支援した自民候補があえなく落選してしまった。 自民への逆風はおさまっていない。 イギリスでは、穏健左派の労働党が大勝。保守党は政権の座から滑り落ちた。実に14年ぶり政権交代である。 またフランスでは、第1回投票で首位に立った極右国民連合(RN)が、決選投票で敗北。首位どころか、左派新人民戦線とマクロン大統領の与党連合にも敗れて3位に甘んじた。ヨーロッパで高まる極右の進出に、この両国はとりあえず待ったをかけた。 アメリカ大統領選は混沌。バイデン大統領のヨロヨロぶりに、民主党内ではバイデン候補交代論が噴出。それでも粘るバイデン氏だが、そうもいかなくなりつつある。バイデン氏は潔く身を退くべきだろう。トランプ再登場を阻止する手立ては、他にない。 ぼくはすでに十分に高齢者である。他人ごとではない。このコラムも「もうそろそろ店仕舞いにしませんか」と、マガ9編集部から引導を渡される前に去ろうと思っている。 日本の総選挙は、どうも9月の自民党総裁選挙以降になるらしい。誰が新総裁の座に就くかで、選挙の様相は激変するだろう。 同時期には立憲民主党の代表選もある。ぼくは残念ながら泉健太氏をそれほど評価できない。もっと政策をきちんと表に出し、明確なヴィジョンを示せる人が出てくれないかと期待している。 「コンクリートから人へ」という、かつての民主党のキャッチフレーズは素敵だった。あの時の熱気をもう一度取り戻してもらいたいと、切に願う。 希望はある…。 |
この間、英国では、穏健左派の労働党が大勝し保守党は政権の座から滑り落ちたことにより実に14年ぶり政権交代が起きた。
日本でも15年前に当時の民主党が歴史的な政権交代を果たしたのだがその後の結果はともかく、自民党の凋落ぶりから世論調査では「自民党に代わる政権を望む」声が上がっていることは事実なのだが、肝心のその政権の中枢を担う野党に大きな問題が指摘されている。
「泉健太・立憲民主党代表は“政権交代のシンボル”たりえるか? 党幹部からは「人柄はいい。聞く耳もある。しかし自分の意見がない」評も」
田内閣・自民党の支持率が急落し、本来なら野党第一党の立憲民主党に「政権交代」の機運が高まるはずだが、「泉健太総理」に現実味は感じられない。これでは自民党に真の危機感は生まれないし、立憲民主党の批判ばかりの体質も変わらない。この構図こそが、日本政治の閉塞感の本質ではないか。 ■小沢一郎の“評価”は… ぎょろ目の童顔に刈り上げヘア、会見の声はよく通る。泉健太・立憲民主党代表(49)だ。 国民は自民党政治に失望し、世論調査では、「野党中心の政権」への政権交代を望む声が高まっている。次の総選挙で政権交代が起きれば、野党第一党の代表である泉氏が首相に就任する可能性が高い。だが、どうしてもこの人物に総理大臣というイメージは湧かない。当の立憲民主党の議員たちも同じらしい。同党のベテラン議員が、最近、泉氏に面と向ってこう直言した。 「あなたが総理になるとは誰も思っていません。国民もあなたが総理になることを期待していないでしょう。それでも、なる時にはなる。そんなものです。だからその時のことをよく考えてください」 泉氏は真剣な顔で聞いていたという。 同党の長老やベテランからも不安の声が聞かれる。細川護熙政権、鳩山由紀夫政権で自民党から2度の政権奪取を果たした“政権交代の仕掛け人”小沢一郎氏も泉氏に物足りなさを感じているようだ。泉氏に近い若手議員が明かす。 「ある席で小沢先生に泉代表について聞いたところ、『泉くんはなぁ~』と言ったまま、その先をおっしゃらなかった」 ベテラン議員の1人、玄葉光一郎・元外相はBS番組で、政権交代が実現した場合に総理大臣には誰がふさわしいかについてこう言ってのけた。 「立憲民主党で言うと、総理と代表を分けるという考え方だって私はあっていいと思っています。今すぐ総理大臣と言えば、野田(佳彦・元首相)さんという声が出ているのは事実。野田さんが今一番、求められている」 党の代表は泉氏でも、首相には野田氏を据えるという「総理・代表分離論」だ。 内閣の失政で与党が選挙に敗れた時は、野党第一党の党首が代わって首相となる。それが「憲政の常道」と呼ばれる。当然、野党第一党の党首は、選挙に勝てば首相になることを前提に就任しているはずだ。 それなのに、国民の政権交代への期待が高まるなかで、党内から公然と「総理・代表分離」の声があがるというのは、泉氏はそんなに頼りない人物なのか。泉氏の政治経歴を辿ってみよう。 泉氏は北海道石狩市出身。父は市会議員だった。 中学・高校時代は野球部に所属し、立命館大学時代から民主党京都府連の常任幹事を務めるなど政治にも関わっていた。 卒業後は当時の民主党参院議員・福山哲郎氏の秘書になり、2年後の2000年総選挙に25歳で出馬、落選したが、2003年総選挙で初当選(京都3区)。以来、比例復活を含めて連続当選(8回)している。 政治キャリアは長いが、ポスト面では遅咲きだった。民主党政権時代は当選同期の議員が大臣や副大臣を経験する一方で、泉氏は政務3役では一番格下の「内閣府政務官」を務めただけだ。 民主党政権崩壊後、野党が離合集散を繰り返すなかで、旧・国民民主党から旧・立憲民主党との合併に参加。立憲民主党の創設者だった枝野幸男氏が2021年総選挙に敗北して代表を辞任すると、若手の支持を得て代表に就任した。 元民主党代議士の嶋聡氏はこんな印象を持ったという。 「彼は地味なタイプだが、若手に人望があった。政治家は公の席では互いに褒め合うけれども、内々の席では批判ばかり言うものです。とくに同期当選はライバルだからその傾向が強い。 ところが、泉さんのことは同期の議員がみんな『あんないい人はいない』と誉める。悪口を聞いたことがない」 代表選でも、「若い頃に泉さんと一緒にボランティア活動などをしたという地方の議員が全国から応援に来てくれた」(泉選対の元スタッフ)という。 だが、いざ代表に就任すると、メッキが剥がれていったようだ。同党現役幹部の1人が匿名を条件に語る。 「泉代表は、人柄はいい。聞く耳もある。しかし、自分の意見がない。幹部の会議で政策を決める時に、『代表はどうしたいのか』と聞いても、『ここにいるみんなで決めよう』と言うばかり。代表なのだから『オレはこうしたい』と言ってくれたら、みんなその方向で考えるのに、その意見がない。政策へのパッションがあまりに足りないと感じる」 それが立憲民主党の政策アピールの弱さにつながっている。元民主党代議士で国際政治経済学者の首藤信彦氏が指摘する。 「2009年の政権交代の時は、民主党はマニフェストを掲げて政権を取ればどんな政策を行なうかを具体的に国民に示した。実現できなかったことも多いが、現在の高校無償化などの道筋をつけたのは民主党でした。比較すると、立憲民主党は与党を批判、追及しているけれども自身のマニフェスト、政策がない。だから、仮に泉さんが総理になったとしても何をやるのかが判然としない。今の自民党の政治、政策とどう違うのか、それが分かりません」 やはり民主党OBで建設官僚出身の古賀一成・元代議士は泉氏の「総理の資質」を疑問視する。 「泉さんは学生時代から政治に関わり、社会人経験、サラリーマン経験がほとんどないまま若くして国政に出た。だが、総理大臣の職務は国を動かす、つまり、巨大な官僚機構を動かすことだから、社会人として人の動かし方、組織の動かし方の経験を積み、そのうえで政治家になるというキャリアが必要だと思う。 泉さんが総理として役人の行動原理、庶民の心情を踏まえた政治を行なうためには、その足らざる部分を埋めなければならない」 先輩政治家たちは、政策面でも、組織運営の面でも、泉氏は総理の要件が決定的に足りないと見ているのだ。 ★「【ネオ55年体制】泉健太代表率いる立憲民主党は「政権を取れない万年野党」、自民党から見れば野党第1党の「軽量級党首」は政権維持の“頼みの綱”」 >立憲民主党代表の泉健太氏(49)なぜ、野党第一党の党首に選ばれたのか。それは立憲民主党が政権を取れるとは考えていなかったからだ。 現在の政治状況は、「ネオ55年体制」と呼ばれる。2012年総選挙以来、安倍晋三長期政権下で自民党が衆参の選挙に勝ち続け、野党は低迷。政界は自民党一強の「万年与党」と「政権を取れない万年野党」の構造が定着した。かつて55年体制と言われた自社2大政党の時代と同じだ。 そうしたなか、野党は旧・立憲民主と旧・国民民主が合併して新「立憲民主党」を結成し、前回総選挙に臨んだが、敗北した。そこで登場したのが泉氏だった。政治評論家・有馬晴海氏がその舞台裏をこう指摘する。 「立憲民主党代表選に出馬したのは泉氏のほかに、逢坂誠二氏、小川淳也氏、西村智奈美氏という軽量級の3人。国民から見たら“こんな人いたの?”と思う人たちです。新鮮味を出そうとしたと言えば聞こえはいいが、野田(佳彦・元首相)氏や岡田克也氏などかつて民主党政権の中枢を担った旧世代の大物議員たちは、ネオ55年体制になって“どうせ政権を取れない野党の代表になってもうま味はない”と出馬を見送った側面があった。つまり、泉氏は最初から“総理になるはずがない代表”として選ばれたわけです」 野党第一党が政権交代の旗頭になれそうにない党首を立てるから、自民党も安心して派閥の談合で不出来な総理を担いでも政権を維持できる。それが、55年体制的な現象なのだ。 案の定、泉代表が率いる立憲民主党は2022年参院選で敗北、昨年4月の統一補欠選挙でも衆参5選挙区で全敗した。 「政権交代を目指すのであれば、衆院選で289の小選挙区全部に候補者を立てるのが当たり前。しかし、立憲では総選挙準備を急ぐ現在も約180の選挙区しか候補が決まっていない。政権取りに本気じゃなかった証拠です」(有馬氏) ■「万年与党」と「政権を取れない万年野党」の構造」 立憲民主党代表の泉健太氏(49)なぜ、野党第一党の党首に選ばれたのか。それは立憲民主党が政権を取れるとは考えていなかったからだ。 現在の政治状況は、「ネオ55年体制」と呼ばれる。2012年総選挙以来、安倍晋三長期政権下で自民党が衆参の選挙に勝ち続け、野党は低迷。政界は自民党一強の「万年与党」と「政権を取れない万年野党」の構造が定着した。かつて55年体制と言われた自社2大政党の時代と同じだ。 そうしたなか、野党は旧・立憲民主と旧・国民民主が合併して新「立憲民主党」を結成し、前回総選挙に臨んだが、敗北した。そこで登場したのが泉氏だった。政治評論家・有馬晴海氏がその舞台裏をこう指摘する。 「立憲民主党代表選に出馬したのは泉氏のほかに、逢坂誠二氏、小川淳也氏、西村智奈美氏という軽量級の3人。国民から見たら“こんな人いたの?”と思う人たちです。新鮮味を出そうとしたと言えば聞こえはいいが、野田(佳彦・元首相)氏や岡田克也氏などかつて民主党政権の中枢を担った旧世代の大物議員たちは、ネオ55年体制になって“どうせ政権を取れない野党の代表になってもうま味はない”と出馬を見送った側面があった。つまり、泉氏は最初から“総理になるはずがない代表”として選ばれたわけです」 野党第一党が政権交代の旗頭になれそうにない党首を立てるから、自民党も安心して派閥の談合で不出来な総理を担いでも政権を維持できる。それが、55年体制的な現象なのだ。 案の定、泉代表が率いる立憲民主党は2022年参院選で敗北、昨年4月の統一補欠選挙でも衆参5選挙区で全敗した。 「政権交代を目指すのであれば、衆院選で289の小選挙区全部に候補者を立てるのが当たり前。しかし、立憲では総選挙準備を急ぐ現在も約180の選挙区しか候補が決まっていない。政権取りに本気じゃなかった証拠です」(有馬氏) ■自民党にとっての“頼みの綱” そこに自民党の派閥の裏金問題で思わぬ追い風が吹いた。岸田文雄・首相の支持率も自民党の支持率も大幅に下がり、国民のなかから「政権交代」の声が出始めた。 自民も立憲も慌てた。 皮肉なことに、自民党から見れば、野党第一党の「軽量級党首」の存在は、なんとか政権を失わないで済むための“頼みの綱”となっている。 だからこそ、菅義偉・前首相は、「与党で過半数を割るような政権交代の雰囲気がある」と危機感を露わにして、「総裁選で新しいリーダーを」とぶち上げた。 今のうちに岸田首相のクビをすげ替え、泉氏に勝てる“選挙の顔”となる新総理を担げば、自民党が政権を維持できるという考えだ。泉氏が代表であることを最もありがたがっているのは、ほかならぬ自民党ということになる。 ★“泉おろし”が始まる不毛 自民党一強の「万年与党」と「政権を取れない万年野党」立憲民主党の構造が定着してきた中で、自民党の派閥の裏金問題が持ち上がり、思わぬ追い風が吹いた。岸田文雄・首相の支持率も自民党の支持率も大幅に下がり、国民のなかから「政権交代」の声が出始めた。 立憲側では、「政権」が近づいたように見えると、旧世代の大物議員たちがにわかに野心を燃やし始めた。 国会で裏金問題追及の先頭に立ったのが元首相の野田佳彦氏だ。首相経験者は慣例としては国会質問に立たないものだが、野田氏は「一兵卒になる」と予算委員会の質問に立ち、さらに政治改革特別委員会の委員まで務めて出番をつくった。 「今や国会追及は野田さん、党運営は岡田克也幹事長、国会対策は安住淳・国対委員長が全部取り仕切って泉代表は霞んでしまった。参院選で負けた後、泉さんが起用した役員が全員交代させられ、岡田幹事長ら旧世代が党を握ったからです。泉代表は傀儡にされている」(泉支持の立憲議員) 立憲民主党では自民党と同じく今年9月に代表選が行なわれる。そこには野田氏、枝野幸男氏ら旧世代の大物たちの出馬が有力視されている。野田支持派の議員がこう言う。 「うちの党が政権を担うには、日本維新の会、国民民主党との連立が必要になる。その時、軽量の泉代表では舐められてしまう。総理経験者の野田さんが代表になって『連立に参加してほしい』と頭を下げれば、維新も国民も説得できる」 玄葉光一郎・元外相元外相の「野田さんが今一番、求められている」という発言も、代表選での“泉おろし”をにらんだものだと党内で受け止められているのだ。 だが、泉支持派は彼らの打算を見抜いている。 「野田さんや枝野さんたち旧世代は、政権交代の可能性が出てきたから、“泉に総理の座をくれてやるのは惜しい”と考えているんでしょう。彼らが出馬すれば泉さんの出馬が難しくなるが、保守の野田さんと左派の枝野さんが代表選で戦えば、内ゲバで党がまた分裂含みになってしまう」(前出の泉支持の立憲議員) 元民主党代議士の嶋聡氏はこう見る。 「もし泉総理が誕生するのであれば、本来は野田さんや玄葉さんなど総理や閣僚を経験した議員が全力でサポートする体制が必要になるが、野田さんも玄葉さんもまだまだ意欲満々だから、そんな体制にはならないでしょう。それが立憲民主のよくないところです」 この党は大きな勘違いをしている。 国民の政権交代への声が高まっていると言っても、2009年の政権交代時と現在の状況はまるで違う。当時は曲がりなりにも国民の間に民主党政権への期待があったが、今は立憲民主党政権への期待はない。あるのは自民党政治への強烈な不信感だ。 それに気づこうとせずに、かつての民主党政権で国民を失望させた面々がまたぞろしゃしゃり出てくれば、国民の政治不信は一層強まる。それこそが、国民から見放されたはずの自民党を利することにもなる。 この不毛な政治状況に元民主党代議士の五十嵐文彦氏がこう語る。 「能力のある議員、先が見通せる議員は与党にも野党にもいるが、トップになれない。本当に日本をよくしようと思ったら、与野党含めて全部ガラガラポンしたほうがいい」 正鵠を射た指摘だろう。 |
どうやら都知事選でも「既成政党」は多くの有権者から嫌われ始めており、本気で「与野党含めて全部ガラガラポン」への道を模索する時期にきているのかもしれない、とオジサンは思う。
【参考】