先週金曜日からの山籠もりのおかげで固定電話もネット接続もできない環境で生活していたので、衆参補欠選挙の結果も知らずに過ごしていた。
それまでは山口4区と2区で自民党候補が敗れれば「安倍家」と「岸家」が消滅すると密かに期待していたのだが、現実はそんなにうまくはいかなかったようである。
「自民辛勝…でも何も変わらない いつも惜敗の野党に国民の苛立ちと絶望」という日刊ゲンダイ記事が大方の国民感情を代弁しているようである。
2021年の衆院選と比べ、千葉5区は15.82ポイント減の38.25%。和歌山1区は11.05ポイント減の44.11%、山口2区は9.2ポイント減の42.41%、山口4区は13.93ポイント減の34.71%だった。参院大分選挙区は22年の参院選から10.50ポイント減の42.48%に沈んだ。 サメの脳みそと揶揄された森喜朗元首相が「関心がないといって寝てしまってくれれば」と言っていた通りで、投票率が低ければ低いほど、強固な組織力のある自公与党に有利だ。だからこそ、岸田首相が勝敗ラインとした「3勝2敗」を上回る「4勝1敗」を自民党がモノにした。逆から見れば、野党第1党を張る立憲民主党は「3戦全敗」。情けないの一言では決して片づけてはいけない体たらくだ。 「参院大分の敗北は話にならないし、千葉5区にしても野党候補を一本化すれば勝てた選挙です。あの泉代表というのは、最低限の戦い方すら分かってない。本来は自公維の3本柱に対抗すべく、共産と社民を束ね、れいわ新選組もまとめて野党勢力が体当たりで臨むところ。わざわざ失敗する方向で駒を進めるのですから、与党に太刀打ちできるわけがありません。自民の別動隊の維新にブラ下がってどうするのか。放送法の解釈変更をめぐる問題を追及した小西参院議員の『サル発言』をめぐり、維新がぎゃあぎゃあ騒ぎ立て、国会共闘を凍結したら大慌てのしみったれ。共産党も除名問題でミソをつけ、野党らしい野党は消滅寸前です」 (政治評論家の本澤二郎) 「立憲民主はなぜ補選の全選挙区で候補を立てられなかったのか。告示まで十分に時間はあったのですから、この時点で本気度が相当に疑われる。山口2区に無所属で出馬した元職をなぜ公認しなかったのか。反原発を争点に掲げたため、支援団体の連合や傘下の電力総連が猛反発したためです。2区で公認を出せば、4区と連携して票の上積みを狙う戦い方があった。いつの間にやら連合は立憲民主の上部団体になったようです。『連合が』『電力が』と言っている限り、立憲民主に浮上の目はない」 (政治ジャーナリストの角谷浩一) |
野党の惨敗の検証は後で詳細に紹介するが、気の緩みうからなのか自民党内からはこんなことがあったようである。
「あまりにゆるい『うな丼』発言 岸田政権『辞任ドミノ』再燃させかねない国家公安委員長の失言」
「うな丼大臣」の命運は…。 谷公一国家公安委員長は26日、15日に和歌山市で起きた岸田文雄首相に爆発物が投げ込まれる事件が起きた時、視察先の高知県で警察庁から連絡を受けた後も「うなぎ丼はしっかり食べさせていただいた」と発言した問題を、釈明した。 都内で取材に応じ「舌足らずだった。誤解を招きかねない発言をしたという意味で適切だったとは思わない」と述べた。「万全の警備を取るよう指示し、その上で食事を取った」と強調し、発言を撤回するかと問われると「(うな丼を食べた)事実以外のことは言っていない」と述べ、撤回しない考えを示した。 国家公安委員長は政府の治安対策の責任者。5月のG7広島サミットを控え、自民党内でも「あまりにもゆるい」との声が聞かれた。立憲民主党は参院本会議の質疑で、岸田文雄首相に「『うな丼大臣』は即刻更迭してください」(宮口治子議員)と求めたが、首相は「出張先で事件発生の報告を受け必要な指示、情報収集を行いながら業務を継続したと聞く。引き続き職務に当たってもらいたい」と、更迭要求を拒否した。 谷氏の発言は25日の自民党議員の会合でのもの。首相襲撃という一大事の話題に、昼食のうな丼を絡める緊張感のなさに、立民の安住淳国対委員長は「谷氏のもとで、警察が緊張感を持ってサミット警備できますかという話」と批判した。 岸田内閣では昨年10月から12月にかけて、4人の閣僚が立て続けに更迭される「辞任ドミノ」が起きたが、谷氏も体調面の問題から一時、交代検討の情報が流れ、最終的に続投となった。「辞任ドミノ」は、進退の判断が後手に回った岸田首相の対応の遅れが招いた。サミット成功へ1つのカギを握るのが、治安対策。その責任者の失言は、沈静化していた閣僚の資質をめぐる問題を再燃させかねない。 |
自民党議員の会合での発言なので、まさに野党議員の批判も「重箱の隅を突っつく」程度のことなのだが、和歌山県のある漁港で遊説前に刺身を食った後に手製爆弾で狙われた岸田文雄に関しては、米国在住作家の冷泉彰彦はこんな見立てをしていた。
「漁港で試食は必要だったのか?岸田首相襲撃事件が根本から問いかけること」
■またも襲撃された現職総理。それでも政治家が有権者と触れ合わなければならない理由 和歌山県を遊説中であった岸田総理に対する、爆弾テロ未遂事件は結果的に大事に至ることはなく済んだのは良かったと思います。ただ、この事件は、昨年の安倍元総理暗殺事件に続く重大なテロ事件であり、今後は模倣犯の徹底的な抑止に務める必要があるのは間違いありません。演説会場における参加者へのチェック強化、SPの人材育成、そしてSPと地方警察の連携向上など、具体的な対策は待ったなしだと思います。 その一方で、今回の事件が根本から問いかけているのは、政治と選挙全体の問題ではないでしょうか。 まず、どうして今回、和歌山1区の衆議院補欠選挙において、岸田総理が漁協を訪問してエビを試食する等のパフォーマンスを行わなくてはならなかったのかということには疑問が残ります。ちょっと考えれば、総理総裁として国政選挙の応援に行くのは当たり前かもしれません。ですが、よく考えれば、本当に必要な行動だったのかという、疑問が湧いて来るのです。 例えばですが、衆院が与野党伯仲であって、1議席の動向が法案や予算の審議に大きな影響を与えるのなら話は違います。正に、この補選の行く末が内閣の命運を握ることになるからです。更にその議席数の差が数議席ということになれば、補選は直ちに政権選択選挙になりうるわけです。けれども今回はそうではありません。現在の与党は安定多数を確保しているからです。勿論、公明党との連立に依存するかどうかという点では、自民党は議席を上積みすれば自由度が高まるし、改憲発議を行うのであれば、余計に議席数は必要という事情はあるでしょう。けれども、連立の組み換えや憲法論議は、そもそも今回の補選の争点ではありませんでした。 にもかかわらず、補選の勝敗が内閣の命運を左右するということは言われていたわけですし、総理周辺は必死で選挙戦に取り組んだのは事実です。これは、補選に連敗すると総理の求心力が揺らぐからであり、反対に補選に勝って更に意外と早いと言われている解散総選挙に勝利すれば、長期政権が視野に入って来るからという事情があります。 これは岸田氏周辺の心理を考えてみたわけですが、一方で、自民党内の議員心理とすれば、特に自分が選挙に通るか落ちるかが再優先課題であるのは間違いありません。そこで、現在の総理総裁が選挙に勝てる「旗印」であるかどうかは、議員たちにとって死活問題となります。だからこそ、補選であっても岸田総理は与党として勝利しなくてはならないということになるわけです。 ■現政権に「お灸を据える」ことしかできない有権者 これも、何となく当たり前のようにも思えますが、よく考えるとこの構図にまず問題があります。そこには政策論議が徹底的に欠落しているということが、まずあります。この場合の総理(とその派閥)の真の敵は総理候補を擁する他の派閥です。ですが、選挙を争っているのは与野党であって、他派閥ではありません。その上で、選挙に負ければ総理総裁は不人気が明らかとなり、次の選挙の「旗印」として不適格という烙印を押されるので、党内のライバルに総理の座を奪われるというメカニズムが、現在「政局」と呼ばれているメカニズムです。 では、野党に政権が行く、つまりダイレクトな政権交代が民意によって可能かというと、現在はその可能性は著しく少なくなっています。まず、左派系の野党と、保守系の野党に分裂している現在では、細川政権や鳩山政権のような受け皿は考えにくいわけです。今回の和歌山1区で勝利した維新は、あくまで都市の納税者の現状不満の受け皿であって、衰退する地方に対しては関心のない地域政党ということもあります。更に、民主党政権が瓦解した経験から、野党の統治能力には全く信用がない中では、政権交代が起こりにくい状況があるのは間違いありません。 そんな中で、自民党としては総選挙や参院選だけでなく、地方選であろうと、補選であろうと、負ければ総理総裁の求心力に傷が付き、決定的な敗北を喫すれば、党内抗争に敗北して政権が崩壊するという構図となっています。この構図そのものに、大きな問題があると思うのです。 まず、政策に選択肢がありません。政策に関して与野党では異なった選択肢があり、有権者はこれを選択することで、民意が主権者の主権行使となるわけですが、そのような選択肢が選挙の前面に出てこないのです。例えば今回の和歌山県1区の場合、当選した維新は保守系野党であり自民党との間に大きな政策上の争点はなかったのです。 確かに現政権の統治能力への信任投票という面はあります。けれども、政策の担当能力がなく、政策としても現実味のない野党に投票することで、現政権を崩壊させても、結局は自民党の他派閥の人材が新しい総理総裁になるわけです。つまり、民意が政策として反映する仕組みにはなっていないのです。これでは、まるで国政選挙が、最高裁判事の国民審査になっているようなものです。有権者は現政権に「お灸を据える」ことはできます。ですが、新政権を選ぶことはできないのです。 それにしても、この和歌山1区の選挙戦は奇妙なものでした。元来は、立憲民主党の岸本周平氏が盤石の強みを持っていた選挙区です。そうなのですが、岸本氏は知事選への転身を図り議席を捨てました。その後継として立憲は人材難から有力な候補を立てることができず、現状に不満を抱く都市型の票は、大阪、兵庫、奈良と同様に維新に流れてしまいました。そんな中で、自民の立てた候補も強くはなく、維新の優勢は明らかでした。 にもかかわらず、岸田総理は自ら乗り込んで危険と遭遇したばかりか、容疑者逮捕に功績のあった漁協員を讃えるとして、再度の現地入りもしているわけです。そればかりか、都市型票を呼び込むために、党籍のないはずの小池百合子東京都知事を応援に引っ張ったりもしています。 結果はそれでも、自民の敗北に終わりました。ですが、岸田氏の印象は危険に遭遇し、その危険を省みずに選挙戦を続けたことで好感度が増したとされています。新聞は「維新が勝って自民敗北」とか「和歌山1区で与党は手痛い敗北」などと書き立てていますが、岸田氏の本音としては「まあまあの戦績」ということだと思います。 ■小池百合子を「維新候補への対抗」として呼んだ自民の計算 例えば小池百合子氏の場合はどうでしょうか。小池氏を弁士として引っ張ってきた二階俊博氏への評価はともかく、小池氏はここで自民党に「恩を売る」ことで、復党による国政復帰の目を残したと言えなくもありません。都民ファーストは所詮は、都市の「納税者の現状不満」の受け皿であり、有権者はそこに国政を託そうとは思っていないことは「希望の党構想の失敗」で証明済です。ですが、小池氏にはウルトラCとして自民への復党という可能性を模索している可能性があり、二階俊博氏としては、その小池人気を派閥の衰退を救うために利用しようとしているかもしれません。 更に見方を変えれば、ここで小池氏を「維新候補への対抗」のために弁士として引っ張ったことで、小池氏が維新と合流することを防止するという効果を、自民党サイドが計算したという可能性もあると思います。 それはともかく、どう考えても、他の補選は全て勝ったこともあり、岸田氏の党内基盤は高まったと考えられます。肝心の和歌山での敗北は、岸田氏がテロに遭遇し、それでも「ひるむことがなかった」ということで、ほぼ帳消しになっているようです。ということは、解散風はやや加速したと考えられます。 問題は、こうしたエピソードのほとんどは、地方自治とも間接民主制とも無関係な、一種の印象論だということです。小選挙区制度は動いていても、政権担当可能な政治勢力を2セット持たないことで、二大政党制は成立していません。ですが、一党独裁を嫌い、権力には「お灸を据える」ことを好む有権者、特に都市型の有権者の票は与党には取りづらいわけです。そこで、選挙に負ければ党内で「看板を変える」というプロセスにおいて、ほとんどの判断は印象論で左右されるわけです。 政策でもイデオロギーでもなく、そこでは印象が大きくモノを言います。だからこそ、岸田総理は「負けるかもしれない和歌山1区を見捨てない」ために、和歌山入りし、そこで「自民党の強い農林水産票」を固めるために漁協に行き、そこで「印象を高めるため」にパフォーマンスをしたり握手をしたりしたわけです。その全てにおいて政策の選択は余り重要ではなかったのです。そうしたメカニズムの結果として、選挙期間中だけはどうしても政治家は「危険を冒して」でも「印象アップのため」には握手などをしなくてはならないし、演説会参加者へのセキュリティチェックは難しいとされているのです。 その結果として、危険な人物が凶悪犯罪を完遂するスレスレまで迫るという機会を与えてしまった一方で、岸田氏は被害者の正義を獲得して、和歌山1区は落としたものの人気上昇に成功しました。岸田氏の感じたであろう恐怖や、それを乗り越えた統治への意欲には敬意を表しますが、とにかく一連のプロセスの全てが政策判断ではなく、民意における印象を獲得するゲームとして戦われているのは間違いないと思います。 この全体は、自由という価値観、そして民主主義という制度のあり方として、決して強靭とは言えないと思います。そこを暴力に付け込まれたという側面も厳しく考えていかねばならないと考えます。 ■自民と維新が蛮勇さだけを競った先に待つ暗い未来 その一方で、今回の地方選や補選を通じて、2つの課題が浮かび上がったということも指摘しておきたいと思います。それは、 「保守票に信用されていないと本人が思うことで、元来は中道の岸田政権が、安倍政権よりも保守的な政策(例えば防衛費倍増)に踏み込む流れができていること」 「都市の納税者の反乱に過ぎない維新が、地方活性化の政策も、国全体の先進国経済維持の政策も持たない中で、どんどん国政における存在感を増していること」 という2つです。仮にこの2つの軸が二大政党的な対立になるのであれば、その上で、健全な形での「大きな政府論」と「小さな政府論」の拮抗という形になれば恐らく日本の将来にはプラスになると思います。 ですが、そのような軸がウヤムヤのまま対立だけが進み、やがて「軍事も絡めた勇敢さ(蛮勇)だけを競う」ようになれば、日本の安全の保障は壊れてしまうかもしれません。 では、立憲などの「持てる階層や世代であるがゆえの理想主義」というのは、勢力を挽回する可能性があるかと言うと、これは難しそうです。となれば、現在の自民と維新の対立の中から、丁寧に「意味のある政策の選択肢」を「選り分けて」有権者に選択しやすくする作業が何としても必要です。 |
上記の記事で、「自民と維新が蛮勇さだけを競った先に待つ暗い未来」の立役者は当然ながら「野党第一党」らしくない立憲民主党のふがいなさに目が向いてしまう。
ジャーナリストの高野孟は5つの補選全てについて詳しく解説しながらも、今回の選挙で露呈した立憲民主党の戦略的だらしなさを批判していた。
「衆参補選で全敗。自民党を“救った”立憲民主党の『戦略的だらしなさ』」
■露呈した立憲民主の戦略的だらしなさ。衆参補選で自民に「4勝1敗」許す体たらく 4月23日投開票の衆参5補選について、岸田文雄首相が早くから示していた目標ラインは「3勝2敗」で、それに照らせば「4勝1敗」の結果は上出来のはずだが、彼の表情は呵呵大笑からはほど遠いものだった。理由はハッキリしていて、1つの負けはもちろん4つの勝ちも自民党にとって「中身がよくない」ことにある。 ここでギアを入れ替えて支持率を上向きに保ちつつ、5月19日から3日間、地元=広島で開かれる「G7サミット」を精一杯に劇場化し、その勢いで6月21日会期末に解散・総選挙を打って政権基礎を盤石のものとする――という彼が描いていた最善シナリオは、潰えてはいないが、そこへ一気に突き進むのは躊躇われるような一時留保状態に置かれたと見るべきだろう。 衆院和歌山1区は、自民・公明が推す門博文=元衆議院議員が6,063票差で維新新人の林佑美=元和歌山市議に敗れた。自民党は当初、和歌山選挙区選出で二階派の鶴保庸介=参院議員を鞍替えさせる方向だったが、同じく和歌山で衆院への鞍替えを狙っている安倍派の世耕弘成=参院幹事長が「先を越される」のを嫌って異議を唱え、県連会長代行の立場にありながら組織を引っ掻き回し、門を強引に候補者にした。 門はこれまで1区で、民主党衆院議員から現在は知事に転じた岸本周平に4回続けて敗北し、前回は比例復活もならなかった候補。おまけに2015年には同僚女性議員と六本木で路上キスをしている写真を週刊誌に載せられて謝罪するなど、ハッキリ言って玉が悪い。そのため、地元が一本にまとまり切らないまま選挙戦に突入し、その乱れを維新に突かれた格好になった。 鶴保は超党派の「大阪・関西万博を成功させる国会議員連盟」(会長=二階)の事務局長で、もし彼が立候補すれば維新は対立候補を立てなかったろうと言われていた。世耕の我儘が元で議席をむざむざ失ったことになる。 前半戦の奈良県知事選で、県連会長の高市早苗=経済安保相が、5選を目指す現職知事の意向を無視して自分の子飼いの元官僚を立て、保守分裂状況を生み、そこをやはり維新につけ込まれたのと似た構図で、つまり自民党の重鎮や閣僚級が自分の地元を取り仕切って組織をまとめる力量を欠いていることを示している。 ■大分、千葉で自民を救った立憲の最後まで詰められない体たらく 参院大分選挙区は、自公が推す白坂亜紀に対し、立憲所属の参院議員を一旦辞職して立候補し共産・社民も推薦し国民も支援に回って野党統一候補となった吉田忠智との一騎打ち。大分は、村山富市元首相の地盤で労働運動も盛んなところで〔吉田も村山も自治労出身〕、立憲が勝つ可能性があり、泉健太代表も「最重点の必勝区」と位置付けて蓮舫=参院議員や枝野幸男=前代表らエース級を送り込んだ。が、何と、僅か341票差で白石に負けた。 自民党からすれば、これだけの条件がありながら最後まで詰められない立憲の体たらくに助けられて幸運な1勝を拾った形である。 大分とは反対に、衆院千葉5区では、政治とカネの問題で自民を離党、略式起訴された薗浦謙太郎の辞職に伴う選挙。野党が大分のようにまとまれば勝つ可能性が大いにあったにも関わらず、何と、立憲、国民、維新、共産が譲らず野党乱立となり、それでも自民の公募による新人=英利アルフィヤの50,578票に対し立憲新人の矢崎堅太郎=元県議が45,634票と4,944票差にまで迫る大健闘を見せた。 国民は24,842票、維新は22,952票、共産は12,360票を取ったので、立憲がどこか1つと組めば悠々と勝てたはずで、実際、立憲は当初、維新との協力を打診したが、前半戦以来「全国化」の勢いが出てきたと自認している維新が候補取り下げに応じるはずがなかった。泉代表は、共産との共闘を嫌っているため、維新との“中道連合”を試したかったのだろうが、その条件が皆無なのにそれにこだわる政治音痴によって大事な星を失った。共産側には千葉5区の候補者調整について「打診すらなかった」としている。 大分、千葉とも、立憲の戦略的なだらしなさが自民を救った。 ■安倍元首相の牙城でも圧勝ならなかった自民 山口4区は亡くなった安倍晋三=元首相の牙城だったところであり、同2区は健康上の理由で辞職した岸信夫=前防衛相が養ってきた超強力な地盤である。前者で吉田真次=前下関市議、後者で岸の息子の信千世が勝ったのは順当な結果と言える。 が、4区で前回に安倍が得ていたのは80,448票だったのに対し、吉田が今回得たのは51,961票。吉田の応援に走り回った昭恵夫人は、安倍と同じ「8万票は取らないと」と吉田を叱咤していたが、その意味は、安倍が培った下関市を中心とする地盤が健在であることを天下に示さないと、現在は3区から出ている林芳正=外相に切り崩されないようにしなければならないということである。下関市は、中選挙区時代には安倍家と林家が共に本拠地として激しく競ってきた舞台で、小選挙区制になって林が3区に押し出された。ところが今回の「10増10減」で現在の4区と3区が合区され、次の総選挙からは「新3区」となる。林は当然、下関市を含む新3区での公認を確保することに全力を注ぐに違いなく、その時に、今回補選で市議から成り上がったばかりで何の実績もない吉田は吹き飛ばされることになる。それを防ぐには安倍と同じ「8万票」が必要だったのだが、それには3万票も足りなかった。立憲の落下傘候補の有田芳生=前参院議員が旧統一教会の問題などで攻め立てた効果もあったが、早くも安倍派の地方議員団や後援会が弱まってきている証拠だろう。 2区の岸信千世は、岸・安倍家の“華麗なる”家系図をSNSで自慢するというどうにもならない軽薄男だが、それでも今回は父親の地盤に守られて61,369票を得た。が、父親は前回選挙では109,914票を取っており、4区の吉田の場合よりもっと大きく票を減らしている。それに対して立憲元職の平岡秀夫=元法相は5,759票差まで迫っている。ここでも立憲の泉執行部はミスを冒していて、リベラル系の大物である平岡を公認せず、無所属で出させたばかりか、応援に全く力を入れず成り行き任せにした。ここでも立憲は勝負に出られなかった。 立憲に野党第一党としての責任感に裏付けられた戦略主導性があれば、自民党を「2勝3敗」くらいに追い込めたはずなのに、惜しいことをしたものである。 |
もうすでに自民党内からは来月のサミットで景気づけ、通常国会閉会後に解散総選挙という日程がささやかれているのだが、もはや「野党第一党としての責任感に裏付けられた戦略主導性」が皆無の立憲民主党は壊滅的な敗北を喫し、解党的な出直しに追い込まれることだろう、とオジサンは思う。