ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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歌手生活40年・楊姫銀(ヤン・ヒウン)さんの「朝露」をめぐる韓国現代史 (と、自分史) <その2>

2011-07-15 19:15:13 | 韓国の音楽
<その1>の続き

 私ヌルボは李政美(イ・ジョンミ)さんのカセット・テープ「キム・ミンギを歌う」で初めて「朝露」を聴きました。このカセットを購入したのは、当時は京橋にあった三中堂だったと思います。私ヌルボが職安通り方面に行くようになったのは90年前後だったと思うので・・・。(まだハレルヤが韓国雑貨等も売っている店舗の奥側で食堂をやっていた頃です。)

         
     【まだカセットテープが一般的だった時代です。】

 李政美さんもやはり「伸びのある澄んだ声」です。「朝露」以外も良い曲がそろっています。たとえば「ひでり(가뭄)」→(YouTube)など。
 李政美さんのサイト中にある「朝露~キム・ミンギを歌う 楽譜と歌詞」(新幹社)も購入しました。今もわが家のどこかにあります(汗)。

 その後しばらくしてヤン・ヒウンさんのカセット・テープも購入。よく聴いたテープで、かなり傷んでしまいました。(今は所在不明。) 「양희은이 처음 부른 노래들(ヤン・ヒウンが初めて歌った歌)」というタイトルのCDが出ているようですが、ケースの中央部分の草の葉の写真が使われていたカセットでした。収録曲は少し異なります。
 1988年「아침이슬」のCDが出てさっそく購入。

    
       【「아침이슬(朝露)」のCD(1988)】

 上の写真のように、ヒウンさんはイッキにおばさんになってましたが、当時のヌルボはその間にヒウンさんが体験していた人生の波は全然知りませんでした。
 このCDの珠玉の(←月並みな表現)収録曲中、とくに3曲をピックアップして紹介します。

 その1が「セノヤ(세노야 세노야)」。民謡風の歌で、作詞がノーベル文学賞が期待されている高銀(コウン)です。→YouTube

 2つ目は「ペック(백구)」。漢字で書くと「白狗」。これは犬の名前で、日本風にいえば「シロ」ですね。「子犬を産んで弱ったシロを動物病院に連れていくが、注射に怯えたシロは逃げ出して、最後は車にぶつかって・・・」という歌詞は、ヤン・ヒウンさんの妹ヒギョンさん(俳優)の作文を基にキム・ミンギ氏が作った歌だとか。(→YouTube)
 ある韓国ブログの2010年3月の記事によると、32歳の自分が国民学校6年の時、先生がカセットテープで聞かせてくれ、歌詞を書き写して教わった歌で長く印象に残っている、ということを書いていますが、当時はそれがヤン・ヒウンの歌ということを知らなかったそうです。(1990年頃ですね。ヌルボ思うに、80年代民主化運動に関わってきたor共感を持っていた先生だったのでしょう。)

 3つ目は「おお! 主よ 今そこに(오! 주여 이제는 그곳에)」です。カセットではタイトルが「金冠のイエス(금관의 예수)」ではなかったかと思います。歌詞も「그곳에(クゴセ.そこに)」ではなく「여기에(ヨギエ.ここに)」でした。この問題については<その3>で記します。
 現在、ヤン・ヒウンさんが歌っているのを聴くと、タイトルは「金冠のイエス」、歌詞は「여기에(ヨギエ)」と歌っています。→YouTube
 この作詞は金芝河。モトは演劇です。内容は→コチラで。
 さる韓国サイトによると、金芝河釈放運動が日本でも展開されていた70年代、2枚のレコードが出されたそうです。(ヌルボは知りませんでした。)
 1枚は中山千夏さんが民衆プロから1976年に出したシングルレコード。「金冠のイエス」のB面は、これもキム・ミンギの「ソウルへの道」です。
 もう1枚は土曜美術社(!)から出された「しばられた手の祈り」。調べてみたら、「深夜・金芝河・富山妙子詩画集」の付録のEPレコード2枚なんですね。金芝河の詩に高橋悠治氏が曲をつけ、ピアノ林光、ヴァイオリン黒沼ユリ子という、うわーっという顔ぶれ。このEP中にヤン・ヒウンさんの「金冠のイエス」も収録されていたということです。
※翻訳者が最近自伝「歴史の不寝番(ねずのばん)」(藤原書店)を出した鄭敬謨(チョン・ギョンモ)氏というのも・・・。→「毎日新聞」関連記事

   
     【70年代にこのような音盤が出ていたとは! 聴いてみたいものです。】 

 閑話休題。「朝露」は1973年政府から健全歌謡に選定されりもしたが翌74年には禁止されます。
 「朝露」の歌詞は次のようなものです。

長い夜を明かし、草葉に実る/真珠より美しい、朝露のように/心に悲しみが、実る時/朝の丘に登り、ほほえみを学ぶ。/太陽は墓地の上に、赤く昇り/真昼の暑さは、私の試練か。/私は行く、荒れ果てた荒野へ。/悲しみふり捨て、私は行く。(訳:李政美)

 韓国ウィキペディアの「ヤン・ヒウン」の項目等によると、「太陽」は金日成、「赤く昇り」は社会主義への期待を暗示している・・・というのが笑えないその禁止理由です。
※1975年頃の韓国の民衆歌謡をめぐる状況については、日本ウィキペディアの「民衆歌謡」の項目参照。→コチラ

 ・・・ヤン・ヒウンさんと「朝露」を中心に、知っていることだけでなく、新たに調べて知ったことも含めてあれもこれも書き込んでいたら、もうかなりの字数になってしまいました。
 ということで、あと1回分続きます。

<その3>
コメント
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