4月19日の記事で、今の高校生には通じない日本語がたくさんある、というようなことを書きました。
私ヌルボが小学校の音楽の授業で教わった歌には、戦前からの唱歌が多かったので、今の若い人たちには「わからない日本語」の宝庫ですね。たとえば・・・
♪さぎりきゆるみなとえの・・・(「冬景色」)
♪どてのすかんぽじゃわさらさ・・・(「すかんぽの咲くころ」)等々。
そして、たぶんもっとよく知られているのが「村の鍛冶屋」。
♪しばしもやすまずつちうつひびき・・・
当時の少年ヌルボは「槌打つ」を「土打つ」と誤解して、どういう意味だろうと疑問に思ってました。(笑) この歌の二番の出だしはたしか「あるじは名高い働き者よ」でしたが、最初は「あるじは名高きいっこく親爺」だったそうで、今の多くの日本人にはさらにわけがわからないでしょう。
いや、それ以前に、鍛冶屋という職業自体、かなり前から説明をしないとわからない職業になっていると思われます。
子ども時代、自宅からちょっと離れたところに鍛冶屋さんがありましたが、今にして思えば、それもひとつの「歴史的な体験」かもしれません。
※ウィキペディアによると、現在でも伝統的な野鍛冶は日本各地に存在しているとのことですが・・・。
消えつつある職業といえば、鋳掛屋(いかけや)はどうなんでしょうか? 経師屋(きょうじや)は健在かな?
また、悉皆屋(しっかいや)という職業があったことは、舟橋聖一の<隠れ反ファシズム>小説「悉皆屋康吉」を読んで初めて知りました。
まあ、そんな難読用語オンパレードの近過去の例を持ち出すまでもなく、コンピューターの普及とともに活版の植字工等々、現在進行形の消えゆく職業は多々あります。
さて、ここで2冊の韓国書を紹介します。
2001年5月、同時に刊行された「꾼(クン)」と「장이(ジャンイ)」です。
【「クン」(左)と「ジャンイ」(右)。この2つの違いは・・・、うーむ、時間をかけて調べてみます。(汗)】
10年以上前に購入して、精読することなく放置していたのですが、最近読み直して、この本の価値を再認識しました。
内容は「사라져가는 토종문화를 찾아서(消えゆく郷土文化を訪ねて)」の副題にあるように、時代の変化とともに消えていく仕事に携わっている最後の人たちを取材した記録です。
書名の「꾼」や「장이」は、それらの職業をしている人を「○○꾼」とか「○○장이」とよぶことが多いことによるものです。
・・・と言っても、私ヌルボが知っていた単語は「일꾼(働き手)」「나무꾼(木こり)」「소리꾼(歌うたい)」「사기꾼(詐欺師)」「숯장이(炭焼き)」くらいなものかな。
「장이」に似た「○○쟁이」の場合は「겁쟁이(臆病者)」「거짓말쟁이(嘘つき)」等が思い浮かびますが、侮蔑の意の籠められた言葉が多いですね。つまり、詐欺師のような良くない稼業ではなくても、差別の対象だったことがうかがわれます。
以下、この2つの本でとりあげられている職業を紹介します。
全体的にみると、山や海等で自然の幸を獲て生活している人々と、伝統工芸に携わっている職人に大別されます。
中には、「꾼」や「장이」の付かない職業も含まれています。
≪「꾼」の部≫
①高麗人参採り(심메마니)
심메마니は심마니の江原道方言(NAVER辞典)。高麗人参といっても、深山に自生する非常に高価な山参(산삼)が目当て。
※本書には、彼らの用いる独特の隠語が「디딤」=신발(履き物)以下50例以上も載っています。옷(服)のことを「너구리」(タヌキ)と言う。しかし「마당너구리」(庭タヌキ)とは개(犬)のこと。日本でも猟師たちの間では<山言葉>というのがありましたね。
②薬草採り(약초꾼)
キム・ミョンボクさんが忠清道方言で속단(続断.ナベナ)、승마(升麻.ショウマ)、운지(雲芝.カワラタケ)その他たくさんの薬草の名前をあげています。
③イワタケ採り(석이)
석이の漢字は石栮。深山の岩壁に着生する地衣類の一種です。しかし、こういう仕事が昔は成り立ち得たのかー・・・。
④マツタケ採り(송이꾼)
송이の漢字は松栮。日本には専門家がいるのでしょうか?
⑤ハチミツ採り(석청꾼)
漢字だと石清。ハチミツといっても養蜂場で採ったものではなく、深山の木や岩の間に蜂が貯えた上等のハチミツなんだそうです。(そういうものがあることさえ知らなんだ。)
⑥草幕農民(초막 농사꾼)
草幕とは、山間(やまあい)の狭い空閑地に開いた畑のわきに草やワラで作った小屋です。農作業中の休憩や降雨の時の退避、農機具の保管等の場所として用います。
上の表紙の画像がその草幕です。場所は忠清北道丹陽郡。
この88歳になるというおじいさん、村の自宅から草幕のある畑まで2㎞あまりを歩くのが大変で、1時間かかるとか。
この草幕は、かつて朝鮮に多数いた火田民と関係するのでは、と思われますが、今回はそこまでは未確認。
⑦トクサル漁師(독살 어부)
독살(トクサル)というハングルを見て頭に浮かんだのは毒殺。毒薬で魚を獲るのかと思いましたがそうではなくて、同音異義語の固有語トクサルは、海岸の浅瀬に積み上げた石垣のこと。主に干満の差が大きい西海岸の干潟で1.5m内外の高さに大きな円形状に石を積み上げ、満潮時に入り込んで干潮時には出られなくなった魚を網ですくって獲るのです。
【ずいぶん大がかりな石垣の囲いです。】
→ 韓国の消えゆく職業 「~クン」と「~ジャンイ」②
私ヌルボが小学校の音楽の授業で教わった歌には、戦前からの唱歌が多かったので、今の若い人たちには「わからない日本語」の宝庫ですね。たとえば・・・
♪さぎりきゆるみなとえの・・・(「冬景色」)
♪どてのすかんぽじゃわさらさ・・・(「すかんぽの咲くころ」)等々。
そして、たぶんもっとよく知られているのが「村の鍛冶屋」。
♪しばしもやすまずつちうつひびき・・・
当時の少年ヌルボは「槌打つ」を「土打つ」と誤解して、どういう意味だろうと疑問に思ってました。(笑) この歌の二番の出だしはたしか「あるじは名高い働き者よ」でしたが、最初は「あるじは名高きいっこく親爺」だったそうで、今の多くの日本人にはさらにわけがわからないでしょう。
いや、それ以前に、鍛冶屋という職業自体、かなり前から説明をしないとわからない職業になっていると思われます。
子ども時代、自宅からちょっと離れたところに鍛冶屋さんがありましたが、今にして思えば、それもひとつの「歴史的な体験」かもしれません。
※ウィキペディアによると、現在でも伝統的な野鍛冶は日本各地に存在しているとのことですが・・・。
消えつつある職業といえば、鋳掛屋(いかけや)はどうなんでしょうか? 経師屋(きょうじや)は健在かな?
また、悉皆屋(しっかいや)という職業があったことは、舟橋聖一の<隠れ反ファシズム>小説「悉皆屋康吉」を読んで初めて知りました。
まあ、そんな難読用語オンパレードの近過去の例を持ち出すまでもなく、コンピューターの普及とともに活版の植字工等々、現在進行形の消えゆく職業は多々あります。
さて、ここで2冊の韓国書を紹介します。
2001年5月、同時に刊行された「꾼(クン)」と「장이(ジャンイ)」です。
【「クン」(左)と「ジャンイ」(右)。この2つの違いは・・・、うーむ、時間をかけて調べてみます。(汗)】
10年以上前に購入して、精読することなく放置していたのですが、最近読み直して、この本の価値を再認識しました。
内容は「사라져가는 토종문화를 찾아서(消えゆく郷土文化を訪ねて)」の副題にあるように、時代の変化とともに消えていく仕事に携わっている最後の人たちを取材した記録です。
書名の「꾼」や「장이」は、それらの職業をしている人を「○○꾼」とか「○○장이」とよぶことが多いことによるものです。
・・・と言っても、私ヌルボが知っていた単語は「일꾼(働き手)」「나무꾼(木こり)」「소리꾼(歌うたい)」「사기꾼(詐欺師)」「숯장이(炭焼き)」くらいなものかな。
「장이」に似た「○○쟁이」の場合は「겁쟁이(臆病者)」「거짓말쟁이(嘘つき)」等が思い浮かびますが、侮蔑の意の籠められた言葉が多いですね。つまり、詐欺師のような良くない稼業ではなくても、差別の対象だったことがうかがわれます。
以下、この2つの本でとりあげられている職業を紹介します。
全体的にみると、山や海等で自然の幸を獲て生活している人々と、伝統工芸に携わっている職人に大別されます。
中には、「꾼」や「장이」の付かない職業も含まれています。
≪「꾼」の部≫
①高麗人参採り(심메마니)
심메마니は심마니の江原道方言(NAVER辞典)。高麗人参といっても、深山に自生する非常に高価な山参(산삼)が目当て。
※本書には、彼らの用いる独特の隠語が「디딤」=신발(履き物)以下50例以上も載っています。옷(服)のことを「너구리」(タヌキ)と言う。しかし「마당너구리」(庭タヌキ)とは개(犬)のこと。日本でも猟師たちの間では<山言葉>というのがありましたね。
②薬草採り(약초꾼)
キム・ミョンボクさんが忠清道方言で속단(続断.ナベナ)、승마(升麻.ショウマ)、운지(雲芝.カワラタケ)その他たくさんの薬草の名前をあげています。
③イワタケ採り(석이)
석이の漢字は石栮。深山の岩壁に着生する地衣類の一種です。しかし、こういう仕事が昔は成り立ち得たのかー・・・。
④マツタケ採り(송이꾼)
송이の漢字は松栮。日本には専門家がいるのでしょうか?
⑤ハチミツ採り(석청꾼)
漢字だと石清。ハチミツといっても養蜂場で採ったものではなく、深山の木や岩の間に蜂が貯えた上等のハチミツなんだそうです。(そういうものがあることさえ知らなんだ。)
⑥草幕農民(초막 농사꾼)
草幕とは、山間(やまあい)の狭い空閑地に開いた畑のわきに草やワラで作った小屋です。農作業中の休憩や降雨の時の退避、農機具の保管等の場所として用います。
上の表紙の画像がその草幕です。場所は忠清北道丹陽郡。
この88歳になるというおじいさん、村の自宅から草幕のある畑まで2㎞あまりを歩くのが大変で、1時間かかるとか。
この草幕は、かつて朝鮮に多数いた火田民と関係するのでは、と思われますが、今回はそこまでは未確認。
⑦トクサル漁師(독살 어부)
독살(トクサル)というハングルを見て頭に浮かんだのは毒殺。毒薬で魚を獲るのかと思いましたがそうではなくて、同音異義語の固有語トクサルは、海岸の浅瀬に積み上げた石垣のこと。主に干満の差が大きい西海岸の干潟で1.5m内外の高さに大きな円形状に石を積み上げ、満潮時に入り込んで干潮時には出られなくなった魚を網ですくって獲るのです。
【ずいぶん大がかりな石垣の囲いです。】
→ 韓国の消えゆく職業 「~クン」と「~ジャンイ」②
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