凱旋門賞から一夜明けて、英仏の競馬ジャーナル紙の感想が入って来ました→こちら。
オルフェーヴルを破った地元フランスは、余裕を見せて賞賛さえしていますが、キャメロットが惨敗したドーバー海峡の向こうでは、褒めるポーズすら作れないほどショックを受けたみたいですね。たとえるなら、黒船来襲がブリテンで起こったようなものです。
イギリスとアイルランドは競馬の格式が高く、本場の誇りを維持するために並々ならぬ投資を繰り返してきました。王室や貴族の競馬から脱却し、アラブの富豪に本拠地を構えさせ、最近ではスポンサーを付けて賞金の維持に必死です。しかし、近代競馬はスピード化と同じ意味を持っています。スタミナ優先の伝統的な血統だけでは誇りを保てなくなりました。
こと血統に限って、意外なことにイギリス圏は輸入大国です。1940年代の代表的種牡馬はイタリアのネアルコ。1950年代もイタリアのリボー(生まれは英国)。この2頭の無敗馬は、フェデリコ・テシオという、伝説的な馬産家の結晶です。日本だと、ルドルフを排出したシンボリ牧場のような感じです。
ネアルコに対抗するイギリスの種牡馬はナスルーラですが、これはアラブのアガ・カーン3世がイギリスで生産したものです。1960年代はナスルーラの直仔ネヴァーベンドが席巻し、1970年代は、ネヴァーベンドの直仔ミルリーフと、ネアルコ分枝のノーザンダンサーの時代となります。
ソレミアの母系に見えるミルリーフですが、英ダービーとキングジョージを勝っています。しかし、生まれたのはアメリカでした。ミルリーフは引退するとイギリスで種牡馬となり大成功。直仔シャーリーハイツと孫のスリップアンカーと、3代続けてダービー馬になっています。でも、もう後継種牡馬は望み薄状態。
対して、競馬の世界では見劣りするカナダから奇跡的に生まれたのがノーザンダンサーです。ビールの蔵元として有名な富豪テイラーが、牧場を買収して設立したのがウインドフィールズファームで、イタリアのテシオのカナダ版です。母系はアメリカ血統で、父系はネアルコの直仔ニアークティック。アメリカに遠征して見事にケンタッキーダービーとプリークネスステークスの二冠馬になりました。
ノーザンダンサーは引退すると、すぐに英国最後となる三冠馬ニジンスキーを出し、世界の血統をノーザンダンサー1色に塗り替えるほど繁栄しました。しかし、数多の子孫の中から、ヨーロッパで一番繁栄したのは、モンジューやガリレオを出したサドラーズウェルズ系です。キャメロットは、モンジューの最高傑作と調教師が吹聴した、サドラーズウェルズ系の正統な後継者だったのです。
しかし、そのキャメロットが好枠をもらいながら見るも無残な敗戦。スポーツ紙が毒舌を吐きたくなるのも無理はありません。本場の競馬が形無しなのですから。競馬二流国が生んだノーザンダンサーの子、ニジンスキーがヨーロッパの馬を蹴散らして以来の大ショックでしょう。
オルフェーヴルは、母の父メジロマックイーンの生産牧場であるメジロ牧場が閉鎖されたばかり。メジロ牧場とシンボリ牧場はよく似ていて、ノーザンダンサーの孫モガミ(父リファール)を共同で所有したほどです。日本のテシオや日本のテイラーと言うべきなのは、メジロ牧場も一緒でした。
このように見てくると、サンデーサイレンスというモンスターサイヤーの出現が日本の競馬を変えただけでなく、子のステイゴールドがノーザンダンサーのようであり、孫のオルフェーヴルがニジンスキーのように、世界の種牡馬となる日が来るのかもしれません。サンデーサイレンスが伝える、闘争心、瞬発力、スピード、という要素は世界レベルです。そこに、天皇賞にこだわって長距離のスタミナを重視してきたメジロ牧場の配合が加わり、名馬オルフェーヴルが誕生したのです。
サドラーズウェルズ系のスタミナと粘り強さだけでは、イギリス競馬は先細りが見えています。ディープインパクトには懐疑的だった目も、改めて再評価をやり直すでしょう。オルフェーヴルのレイティングを低くして誇りを保つのは自由ですが、気が付いたら世界から置き去りにされているかもしれませんよ。イギリスとアイルランドは、オルフェーヴルのたった300mで夜も眠れなくなったのですから。
エフライム工房 平御幸
オルフェーヴルを破った地元フランスは、余裕を見せて賞賛さえしていますが、キャメロットが惨敗したドーバー海峡の向こうでは、褒めるポーズすら作れないほどショックを受けたみたいですね。たとえるなら、黒船来襲がブリテンで起こったようなものです。
イギリスとアイルランドは競馬の格式が高く、本場の誇りを維持するために並々ならぬ投資を繰り返してきました。王室や貴族の競馬から脱却し、アラブの富豪に本拠地を構えさせ、最近ではスポンサーを付けて賞金の維持に必死です。しかし、近代競馬はスピード化と同じ意味を持っています。スタミナ優先の伝統的な血統だけでは誇りを保てなくなりました。
こと血統に限って、意外なことにイギリス圏は輸入大国です。1940年代の代表的種牡馬はイタリアのネアルコ。1950年代もイタリアのリボー(生まれは英国)。この2頭の無敗馬は、フェデリコ・テシオという、伝説的な馬産家の結晶です。日本だと、ルドルフを排出したシンボリ牧場のような感じです。
ネアルコに対抗するイギリスの種牡馬はナスルーラですが、これはアラブのアガ・カーン3世がイギリスで生産したものです。1960年代はナスルーラの直仔ネヴァーベンドが席巻し、1970年代は、ネヴァーベンドの直仔ミルリーフと、ネアルコ分枝のノーザンダンサーの時代となります。
ソレミアの母系に見えるミルリーフですが、英ダービーとキングジョージを勝っています。しかし、生まれたのはアメリカでした。ミルリーフは引退するとイギリスで種牡馬となり大成功。直仔シャーリーハイツと孫のスリップアンカーと、3代続けてダービー馬になっています。でも、もう後継種牡馬は望み薄状態。
対して、競馬の世界では見劣りするカナダから奇跡的に生まれたのがノーザンダンサーです。ビールの蔵元として有名な富豪テイラーが、牧場を買収して設立したのがウインドフィールズファームで、イタリアのテシオのカナダ版です。母系はアメリカ血統で、父系はネアルコの直仔ニアークティック。アメリカに遠征して見事にケンタッキーダービーとプリークネスステークスの二冠馬になりました。
ノーザンダンサーは引退すると、すぐに英国最後となる三冠馬ニジンスキーを出し、世界の血統をノーザンダンサー1色に塗り替えるほど繁栄しました。しかし、数多の子孫の中から、ヨーロッパで一番繁栄したのは、モンジューやガリレオを出したサドラーズウェルズ系です。キャメロットは、モンジューの最高傑作と調教師が吹聴した、サドラーズウェルズ系の正統な後継者だったのです。
しかし、そのキャメロットが好枠をもらいながら見るも無残な敗戦。スポーツ紙が毒舌を吐きたくなるのも無理はありません。本場の競馬が形無しなのですから。競馬二流国が生んだノーザンダンサーの子、ニジンスキーがヨーロッパの馬を蹴散らして以来の大ショックでしょう。
オルフェーヴルは、母の父メジロマックイーンの生産牧場であるメジロ牧場が閉鎖されたばかり。メジロ牧場とシンボリ牧場はよく似ていて、ノーザンダンサーの孫モガミ(父リファール)を共同で所有したほどです。日本のテシオや日本のテイラーと言うべきなのは、メジロ牧場も一緒でした。
このように見てくると、サンデーサイレンスというモンスターサイヤーの出現が日本の競馬を変えただけでなく、子のステイゴールドがノーザンダンサーのようであり、孫のオルフェーヴルがニジンスキーのように、世界の種牡馬となる日が来るのかもしれません。サンデーサイレンスが伝える、闘争心、瞬発力、スピード、という要素は世界レベルです。そこに、天皇賞にこだわって長距離のスタミナを重視してきたメジロ牧場の配合が加わり、名馬オルフェーヴルが誕生したのです。
サドラーズウェルズ系のスタミナと粘り強さだけでは、イギリス競馬は先細りが見えています。ディープインパクトには懐疑的だった目も、改めて再評価をやり直すでしょう。オルフェーヴルのレイティングを低くして誇りを保つのは自由ですが、気が付いたら世界から置き去りにされているかもしれませんよ。イギリスとアイルランドは、オルフェーヴルのたった300mで夜も眠れなくなったのですから。
エフライム工房 平御幸