25時間目  日々を哲学する

著者 本木周一 小説、詩、音楽 映画、ドラマ、経済、日々を哲学する

村上春樹の頻出用語

2014年12月10日 | 文学 思想
 村上春樹の小説の中で目立って頻繁にでてくるのが、サンドウィッチ、カクテル、ウイスキー、レコード、それに便所、そしてペニスと睾丸である。
 彼の作品では一切、寿司とかうどんやご飯という言葉は出てこない。
 翻訳しやすいようにわざとそうしているのかわからない。テーマは「喪失」そして「こっちとあっち」つまり現世と異界またはその間である。
 昔、「国境の南、太陽の西」を読んで、なんとつまらない小説かと思ったのだった。今回再読してみて、腑に落ちることが多くあって、よい小説だと思いなおした。
 主人公は事業に成功し、愛する妻と子供がいる。ところが二十年経って、12歳の頃好きだった女性が現れる。自分に欠けている部分、自分の中にある空洞のようなものを埋めてくれるのはこの女性しかいないし、その女性もそう感じているはずだ、と思い始める。最後の30頁ほどは物語の圧巻である。
 これを読んだのは確か主人公と同じぐらいの歳だった。歳をとってわかることもあるもんだと思ったが、僕より2つ上の村上春樹はその歳頃でよく書けたもんだと思う。
 この小説の中でもペニスや睾丸は頻出する。

 一体何人のことを書いているのだろうと思うが、登場人物は絶対に洋食なのである。お酒は日本酒ではないのである。これを「スタイリッシュ」と呼ぶのか疑わしいが、本の帯などには書いてある。

 という前置きはおいて、村上作品はやっぱり短編が抜きん出ている。中でも「回転木馬のデッドヒート」「神のこどもたちはみな踊る」「東京奇譚集」「女のいない男たち」は極上の世界を醸し出し、不思議さと面白さが中心にある。長く連れ添った夫に「半ズボン」を買ってきてほしいと頼まれて、それを探し、サイズを合わしているところで、突然、離婚しようと決意する話など、驚かされる。「羊をめぐる冒険」や「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」や「ダンスダンスダンス」は短編よりは数段劣るように思う。くどいのと無駄な文が僕には多いと感じられるのかもしれない。「謎」で引っ張る彼の手法にも少々辟易したのかもしれない。