能登で何かと話題になっているのが、風力発電の増設計画だ。ブレイド(羽根)の長さ34㍍の風車は風速3㍍で回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の1千世帯で使用する電力使用量に相当する。能登半島には同規模の風車が73基あり、ざっと7万3千世帯分となる。能登地区の9市町の世帯数は7万2千世帯(令和2年国勢調査速報集計)なので、風力発電でほぼ賄えていることになる。(※写真・上は能登半島の尖端、珠洲市に立地する風力発電=同市提供)
岸田政権は2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指していて、風力発電の増設計画が全国で加速している。政府の方針を受けて、能登半島でも新たに7地域で12事業、171基が計画されている。能登半島で風が強く、海に面した細長い地形が大規模な風力発電の立地に適しているとされる。
そこで議論が起きているのが、「今でも賄えているのに、これ以上の風力はなぜ必要なのか」といった問題提起だ。能登には風力のほか七尾市に火力発電所、現在は運転停止となっている志賀町には原子力発電所がある。電力エネルギーがなぜ能登に集中しなければならないのか、電力の地産地消に向けてそれぞれの地域が取り組むべきではないのか、と言った声を聞く。
声の背景にあるのが景観と自然保護だ。環境省は先月14日、海岸線が中心だった能登半島国定公園(1968年指定)を内陸部の里山を含め広げる拡張候補地として選んだと発表している。候補地は2030年度をめどに決める。一方で、環境省の「国立・国定公園内における風力発電施設の審査に関する技術的ガイドライン」(2013年改定)では、「展望する場合の著しい妨げ」「眺望の対象に著しい支障」に該当するものの設置を認めていない。つまり、12事業171基の設置は国定公園が里山に拡張する前の、駆け込み需要ではないかと。
能登半島は2011年6月に国連食糧農業機関により、世界農業遺産(GIAHS)「Noto's Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」が認定されている。その認定要件に景観がある。今後、さらに171基も増えると里山の景観に違和感が出て、GIAHSの認定要件を満たすのかという疑問の声もある。
自然保護の声は、バードストライクを懸念している。石川県は環境省が進めている国の特別天然記念物のトキの本州などでの放鳥について、すでに名乗りを上げている。能登には本州最後の1羽のトキがいたこともあり、県はトキの放鳥を能登に誘致する方針だ。ところが、能登に風車が244基も林立することになれば、トキには住みよい場所と言えるのかどうか。同じく国の特別天然記念物のコウノトリのひな3羽が能登半島の中央に位置する志賀町の山中で生まれ、8月には巣立ちする。コウノトリが定着することになれば、やはり懸念されるのはバードストライクだろう。(※写真・下は豊岡市役所公式サイト「コウノトリと共に生きる豊岡」動画より)
能登の里山里海をめぐる外部環境の動きは急だ。自身は政府が進めるカーボンニュートラルの推進に反対ではない。ただ、過大な投資には上記の地域の反発や懸念があることを無視してはならない。
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