自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「内閣支持率」はどう動く きょうから臨時国会

2022年10月03日 | ⇒トレンド探査

   けさの読売新聞と朝日新聞の紙面で、それぞれの世論調査の結果が掲載されている。読売の調査(1、2日)では岸田内閣の支持率が45%、不支持が46%となり、「初の逆転」と見出しで伝えている。前回調査(9月2-4日)では支持率は50%だったので、5ポイントの下落。逆に不支持は41%だったので、5ポイント上昇した。

   一方、朝日の調査(1、2日)では内閣支持率が40%、不支持率が50%となり、記事では「不支持率が初めて半数に達した」「不支持率が支持率を上回るのは2ヵ月連続」としている。前回調査(9月10、11日)では支持率41%、不支持率47%だったので、支持率はほぼ同じ、不支持率がやや上昇した。読売と朝日の世論調査を比較すると、数字の上がり下がりは読売の方が大きい。

   そして、読売、朝日ともに内閣不支持の要因となっているのは、政府・自民党の世界平和統一家庭連合(旧「統一教会」)に対する不透明な対応だろう。旧統一教会と政治家の関係をめぐる問題で、読売の「岸田総理が指導力を発揮していると思うか」との問いでは、「思わない」が80%、「思う」が13%となっている。朝日の「岸田総理の対応を評価するか」との問いでは、「評価しない」が67%、「評価する」が22%だった。また、安倍元総理と旧統一教会の関係について「調査を行うべきだと思うか」との問いでは、読売の調査は「思う」59%、「思わない」37%、また、朝日では「調査すべき」64%、「必要はない」31%となっている。

   先月27日に営まれた国葬について、読売の「よかったと思うか」との問いに、「思わない」54%、「思う」41%だった。朝日の「評価するか」との問いでは、「評価しない」59%、「評価する」35%だった。

   旧統一教会との関係をめぐり、自民党は所属する国会議員全体の半数近くにあたる179人が何らかの接点があり、選挙で支援を受けるなど、一定以上の関係を認めた121人の氏名を公表した(9月8日付・NHKニュースWeb版)。また、立憲民主党の辻元議員も統一教会の教会の関係団体の勉強会に出席し、会費を支払っていた(27日付・同)。では、政党支持率はどうなっているのか。読売の調査では、「自民党」40%、「立憲民主党」5%と続いた。両党の支持率は前回と同じだった。朝日の調査では「自民党」34%、「立憲民主党」6%と続いた。前回は自民が31%だったので、むしろ支持を伸ばしている。

   きょう臨時国会が召集される。国会論戦は7月の参院選後で初めてとなる。読売と朝日がこの日に世論調査を掲載したのも、臨時国会の論戦を意識してのことだろう。会期中(12月10日まで)に岸田内閣の支持率がさらに「危険水域」(20%台)に落ち込むのか、あるいは起死回生の矢を放つのか。

⇒3日(月)午後・金沢の天気    くもり

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★めりはりのない旧統一教会問題の政府対応

2022年09月21日 | ⇒トレンド探査

   それにしてもめりはりの利いた、見事な季節の移ろいだ。「暑さ寒さも彼岸まで」とよく言われるが、彼岸入りでもあったきのう20日は台風14号が去って、一気に秋めいた。前日までは真夏日や猛暑日が続いていたのだが、気温は20度と肌寒くなった。Tシャツと半ズボンを仕舞い、長袖のシャツと長ズボンを出した。台風一過、秋を呼ぶ。

   めりはりが利いていないのが、世界平和統一家庭連合(旧「統一教会」)に対する政府の対応だ。共同通信ニュースWeb版(20日付)によると、立憲民主党など野党は20日、旧統一教会の問題に取り組む弁護士や2世信者を招いてヒアリングを実施した。弁護士らが採択した、宗教法人法に基づく解散命令の請求を行政に求める声明について議論したが、文化庁の担当者は過去の事例を挙げ「現状では難しい」と繰り返した。

   文化庁担当者の「現状では難しい」という意味合いは裁判になった場合を想定しているようだ。日刊スポーツWeb版(同)によると、文化庁宗務担当者は「安易な解散命令請求することはできない。確実に(裁判で)勝てるだろうという状況がなければ解散命令請求すべきでない」との見解を示した。これに対し、社民党の福島党首は「解散命令を出す十分な要件がある。裁判で勝つ可能性が極めて高いので解散命令を出すことが被害者の救済、これ以上被害を生まないために文化庁、今やらないとダメです」と指摘した。

   この議論の基となったのは、全国霊感商法対策弁護士連絡会が16日、永岡文科大臣に対し、宗教法人法に基づいて旧統一教会の解散命令を裁判所に請求するよう求める声明だった。連絡会の公式サイトに声明の内容が掲載されている。以下、抜粋。

「2 解散請求 文部科学大臣は、旧統一協会に対し、宗教法人法第78条の2に定める報告質問権を行使するとともに、同法第81条1項に基づき解散命令を請求されたい。 3 カルト対策 (1)内閣総理大臣は、フランスなどカルト対策に先進的な諸外国の法制度・諸施策を参考に、基本法の制定も視野に入れた上で、被害抑止・救済のための法制度を整備し諸施策を講じられたい。(2)文部科学大臣は、旧統一協会による過去の諸々の被害(金銭被害、家族破壊、労働力収奪、その他被害)に関し調査の上で、その結果を総括的な報告書をまとめられたい」

   ヒアリングに出席した木村壮弁護士は「正体を隠した勧誘、献金活動が繰り返されている。違法な活動が継続しており、解散命令請求ができないことはないはず」と指摘した(20日付・共同通信ニュースWeb版)。

   文化庁宗務担当者の発言は実に役人らしい見解だ。解散請求を裁判所が審理して、解散命令請求が100%勝てる状況にないので請求しない、と。発言は、面倒くさいことをオレたちにやらせるな、と言っているだけのようにも解釈できる。

   文化庁だけではない。ヒアリングで、野党側が消費者庁が把握している旧統一教会による被害相談件数について回答を求めた。すると、同庁担当者は「個別の事業者、団体にかかわる相談件数についてはお答えを控えさせていただいている」と答えた(20日付・日刊スポーツWeb版)。旧統一教会問題のヒアリングでの場で、この発言だ。法務省が設置した旧統一教会に関する「合同電話相談窓口」=写真=で受け付けた相談件数は今月5日から14日までに1415件(速報値)にも上る。

   旧統一教会に関しては、自民党は消極的、関係省庁は関わりを拒否する。おそらく、教団は高笑いをしているに違いない。 「野党が何を言おうが、我々の摂理は正しい。自民党と関係省庁は正しく理解してくださっているのだ」と。

⇒21日(水)夜・金沢の天気    はれ 

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☆季節の話題 底引き初物とブランド「加賀しずく」

2022年09月02日 | ⇒トレンド探査

   長年金沢に住んでいると、「9月1日」はちょっと気持ちがたかぶる日だ。日本海側の底引き網漁は、資源保護のため7月と8月は禁止されていて、この日に一斉に解禁となる。きょうが初競りの日で、スーパーなどの鮮魚売り場がにぎやかになる。何しろ、地元で取れた魚なので新鮮さが違う。普段見かけることもない魚も並び、売り場では「底引き解禁だよー」と声が響く。

   きょう午後、金沢の近江町市場をのぞいた。鮮魚店売り場では、水揚げされたばかりのカレイやハタハタ、子持ちの甘エビ、メギスなどが並び、多くの客が買い求めていた。ただ、見た目だが、例年より並んでいる量が少ない=写真・上=。

   店員にさりげなく、「いつもの年より並ぶ量が少ないね」と尋ねると、「きのうは大雨だったことで漁を見合わせた漁船もあって、きょうの競りは入荷量が少なかった」と話してくれた。あす以降は天気が回復するものの、台風11号が北陸に接近すると底引き網漁にまた影響が出てくるかもしれない。

   9月は実りの秋でもある。別の店をのぞくと、「加賀しずく」というナシが並んでいた。「お一人様2個まで」と強気の表示が出ている=写真・下=。よく見ると、1個980円の値段がついていた。

   このナシは石川県が16年かけて開発したオリジナルブランドで、先月26日から出荷が始まり、初競りでは最も高級な「プレミアム」に1箱15万円の値がついたと地元テレビのニュースにもなっていた。1本の木に実らせる果実を6割ほどに制限し、1個当たりの養分を増やすことで、甘くて大きなナシに仕上げるのだという。出荷量が少ない分、限定販売となり、値段も高くなる。

   この季節、魚やフルーツなど食べ物の話題にこと欠かない。そろそろキノコも。

⇒2日(金)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

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☆盆明け、胸中ざわざわ三本立て

2022年08月17日 | ⇒トレンド探査

   盆明け、北日本に大雨を降らせていた前線が北陸などに南下してきたようだ。金沢地方気象台の予報によると、石川県の大気の状態が非常に不安定になっていて、朝から激しい雨が降っているところもある。気象台と県は能登半島の一部に土砂災害警戒情報を出して警戒を呼びかけている。能登半島はリアス式海岸で山を背にした海沿いの集落が多い。これまでも豪雨による山の土砂崩れで人災や家屋倒壊、集落が孤立するなど被害が出ている。(※写真は8月4日、金沢市を流れる犀川の様子)

   auスマホに「通信障害に関するご返金のお知らせ」というKDDIからのメッセージが入っていた。「7月2日(土)午前1時35分より長時間にわたり、弊社の通信サービスをご利用のお客さまには多大なご不便とご迷惑をお掛けしました」「お客さまは以下のご返金の対象となります。お詫び返金:200円(税抜)※9月以降のご請求において減算いたします。お受け取りのお手続きは不要です」などと。復旧までに4日もかかり、「お詫び返金」という名目ならば、せめて1000円くらい戻してほしい。200円は単なる「返金」で、それに「お詫び」の文字を乗せるとは厚かましい。

   岸田総理は組閣や自民党役員人事について、霊感商法や献金強要など反社会的行動を取ってきた「世界平和統一家庭連合」(旧「統一教会」との距離を測ると明言していたが、その言葉の信頼性はすでに吹っ飛んでいる。きょうの報道で、先の参院選で東京選挙区で当選した生稲晃子議員が公示前の6月に萩生田光一党政調会長とともに、統一教会を訪問していたことを認めた。

   問題は、銃撃で死亡した安倍元総理の安倍派(清和会)の次なる指導者と見られている萩生田氏だ。ただでさえ、清和会は統一協会との関わりが深い議員を多数抱えていて、世間の非難を浴びている。そこにきて、選挙の際に萩生田氏が生稲氏をわざわざ統一教会に連れて行き、「投票をよろしく」と支援を求めたとなれば、密接な関係性を自ら証明したようなものだ。清和会は党内のトップ派閥ではあるものの、このままでは持たない。この派閥がチカラを失えば、党内勢力図が大きく変わっていくのではないだろうか。

⇒17日(水)午前・金沢の天気    あめ

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★オリ・パラの垣根払うパリの「オリンピック革命」

2022年07月29日 | ⇒トレンド探査

   前回ブログの続き。パラリンピックではオリンピックとは別の感動があった。卓球・男子シングルスで、エジプトのイブラヒム・ハマト選手は両腕の肘から先が欠損しているので、口にラケットをくわえ、ボールを打つっていた。サーブ時は足全体を大きく振り上げ、足の指でつかんだ球を上にトスする。首と身体を左右に大きく振りながらラリーを続け、強烈なレシーブを決める。10歳の時に列車事故に遭い障害を負った。「人に不可能はない」。人はここまでできると教えてくれているようで衝撃的だった。

   車いすラグビーも印象的だった。日本対デンマーク戦。ガツン、ガツガツと車いすの衝撃音が響く。ぶつかり転倒する。車いすのタイヤがパンクして取り換え。また、激しい試合が再開される。その繰り返し。車いすラグビーは別名「マーダーボール」、殺人球技といわれるほど激しくぶつかり合う。このマーダーボールでは、選手の障がいの程度に応じて持ち点が割り振られていて、障がいの軽い選手だけでなく、重い選手や女性選手も出場する。パラリンピックの多様性を象徴するような競技だった。

     パラリンピック競技を視聴していて、ふと気にしたことがある。自らの視聴目線は「感動ポルノ(Inspiration porn)」ではないのか、と。意図を持った感動シーンで感情を煽ることを「ポルノ」と表現するが、障がい者のパラ競技を視聴して、「感動をもらった、励まされた」と自らを煽っているのではないかと。そして、自らの目線は障がい者に対する「上から目線」ではないのかと自問自答した。

   パラリンピックに合わせて来日したフランスのソフィー・クリュゼル障がい者担当副大臣の記者会見も印象的だった=写真、在日フランス大使館公式ホームページより=。2024年パリ五輪・パラリンピックについて、「オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払う大会にする」と述べていた。両大会のボランティアの6%を障がい者にする考えを示し、「すでに3000人の障がい者がボランティア参加できるようにトレーニングを始めている」と社会参画の必要性を強調した(2021年8月30日付・日テレニュース)。

   クリュゼル氏は都内のカフェを訪れ、重い障害のあるスタッフがロボットを遠隔操作して接客する様子を視察した。このカフェでは、難病や脊髄の損傷など障害のある60人が、自宅や病院にいながら、ロボットを遠隔操作して接客し、ロボットのカメラとマイクで客とコミュニケーションも取っている。クリュゼル氏は「多くの人が働き続けることを可能にする、すばらしい試み。パリ大会は私たちにとって大きな挑戦になるので、日本のアイデアを役立てたい」と話していた(同8月25日付・NHKニュースWeb版)。

   オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払うという発想が心を打つ。クリュゼル氏の会見や視察の様子を見て、フランス革命のシンボリックな絵画、ウジェーヌ・ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』を思い浮かべた。銃剣を左手に、右手にフランス国旗を掲げ果敢な女性を描いた、あの絵画だ。

   24年パリ五輪の開会式はセーヌ川で、スケートボードはコンコルド広場で、マラソンや自転車のロードレースは競技時間を違えて一般市民も同じ日に同じコースで競う。前例にとらわれない開放感や華やかさ。「オリンピック革命」がパリで起きるのかもしれない。

⇒29日(金)夜・金沢の天気    くもり時々はれ

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☆感動の東京五輪から1年、ただあえて言うならば

2022年07月28日 | ⇒トレンド探査

   1年前のいまごろ、東京オリンピックで日本勢は金メダルラッシュだった=写真・上=。卓球の混合ダブルスで水谷隼・伊藤美誠選手が強豪・中国チームを破って五輪卓球で日本に初の金メダルをもたらした。シニア世代には卓球は中国のお家芸というイメージがあるので、この「チャイナの壁」を突破した快挙だった。

   卓球とは違って、オリンピックの醍醐味を新たな視覚で楽しんだのがスケートボードだった。当時はスケートボードがオリンピック競技になっていることすら知らなかった。女子ストリートで、13歳の西矢椛(もみじ)選手が優勝し、日本史上最年少の五輪メダリストになった。2位のブラジル選手も13歳、3位の中山楓奈選手は16歳、表彰台に10代の選手が並んだ姿は新鮮なイメージだった。

   地元選手の活躍もあっぱれだった。レスリング女子57㌔級の決勝で石川県津幡町出身の川井梨沙子選手がベラルーシの選手を下し、前回のリオデジャネイロ大会に続いて金メダル。さらに、川井選手の妹・友香子選手も62㌔級で金メダルを獲得。姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えられた。

   ここから論調は一変する。いまさら論にもなるが、人口減少が続き、膨れ上がる赤字国債を誰が返済するのかという議論が出ている中で、1兆4530億円もの開催経費をかけてまでオリンピックを開催した意義はどこにあったのか。世界は「オリンピック・ノー」に動き始めている。2024年のパリ開催は決まっているが、立候補を表明していたドイツのハンブルグやローマ、ブタペストでは開催費が財政を圧迫するとの住民の反対が根強く、最終的に撤退している。28年のロス、32年のブリスベンも競争相手の都市がなくすんなりと決まったように思われているが、他の都市は住民の反対で立候補に至らなかったというのが経緯のようだ。

   日本も国民は東京オリンピックを待ち望んでいたのか。開催前のNHK世論調査(2021年2月8日付)で、オリンピックをどのようなカタチで開催すべきかとの問いで、「中止する」が38%で最も多く、「観客の数を制限」29%、「無観客」23%だった。コロナ禍でもあり、中止の声は3分の1を以上を占めた。世論が割れたことで、オリンピックの大口スポンサーだったトヨタは関連のテレビCMを見送らざるを得なかった。

   札幌市が1972年に続き2度目の開催を目指す2030年冬のオリンピック・パラリンピック。同市が作成した「2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会 概要(案)」(2021年11月発行)=写真・下=によると、開催経費は最大で3000億円を見込んでいる。うち、大会運営費が2000億円から2200億円、施設整備費が800億円としている。巨額な経費はかかるにしても、オリンピック開催による経済効果はそれを払拭するというのが市側の建前論だろう。

   オリンピックの開催に反対ではない。ただ、イベントの開催でレガシーや経済効果を期待する時代はもう終わったのではないか。2025年の大阪・関西万博にしてもしかり。インターネットで情報が飛び交う時代に、万博で何か得るものがあるのだろうか。時代に合わなくなった「オワコン」(終わったコンテンツ)にしがみついて、「夢よ再び」の時代ではない。オリンピックや万博はもう他国に任せて、新たなグローバル・コンテンツを創り出すことに価値を見出すべきではないだろうか。

⇒28日(木)午後・金沢の天気    くもり時々はれ

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★侮辱罪の厳罰化とテレビ視聴率の因果関係~参院選まで3日

2022年07月07日 | ⇒トレンド探査

   きょう7日から改正刑法の一部が施行され、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を加えられ、SNS上での誹謗中傷など、悪質な行為への対処がこれまで以上に厳しくなる。

   侮辱罪の厳罰化に向けてこれまで法務省は去年4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど着々と準備を進めていた。

   この厳罰化のきっかけとなったのが、フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だった。

   この事件では、警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女子プロレスラーのツイッターに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検は去年3月、この男を侮辱罪で略式起訴し、東京簡裁は男に科料9000円の略式命令を出した。即日納付され、男はこれ以上罪を問われることはなかった。侮辱罪の罪の軽さが問題視されていた。

   SNS上のこうした侮辱は厳罰化すれば治まるのだろうか。煽った側のメディアの責任は問われないのだろうか。放送より先の3月31日にフジテレビは動画配信サービス「Netflix」で番組を流し、SNS上で炎上した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだ。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。つまり、結果的にSNS上の誹謗中傷を煽ったはテレビ局側ではなかったか。

   これはテレビ業界全体に言えることだが、よいにつけ悪いにつけSNS上での反響の大きさが視聴率のアップにつながると勘違いしている節がある。表現の自由や報道の自由に水を差すつもりは一切ない。侮辱罪が厳罰化したことの意味を捉えて、テレビ業界は番組によるSNS上での誹謗中傷を相互にチェックする、あるいは情報を共有する組織・システムを構築する必要があるだろう。

(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒7日(木)夜・金沢の天気    はれ

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☆難題超えてアートで過疎脱却の心意気~参院選まで4日

2022年07月06日 | ⇒トレンド探査

   震災や台風など被災地の復興というと、なんとか現状を回復したいとの思いが被災した人たちの願いでもある。これまで被災地へボランティア支援に行って感じたことだ。でも、目標を高く掲げながら「みなさんいっしょに頑張りましょう」というアクティブな自治体はそう多くはない。先月19日に震度6弱、20日も震度5強の群発地震に見舞われた能登半島の珠洲市では、3年に一度開催している「奥能登国際芸術祭」の次回開催を来年9月から51日間行うことを決めた、という。

   地元紙によると、きのう同市で芸術祭の実行委員会総会が開かれ、名称を「奥能登国際芸術祭2023」とし、期間を9月2日から10月22日までとすることを決めた。実行委員長の泉谷満寿裕・珠洲市長は「来年秋に3回目を開催することで、珠洲市の活性化につなげたい」と述べ、総合ディレクターの北川フラム氏も同席しあいさつした。また、開催にあたっては、来年秋に31年ぶりに石川県で開催される国民文化祭(10月14日ー11月26日)と連動した企画するとすることにした(6日付・北國新聞)。

   記事を読んで、去年の新型コロナウイルスの感染拡大で、東京オリンピックの開催の是非が問われたことを思い出した。結局、無観客で開催を実施したものの、世論が割れたことで、オリンピックの大口スポンサーであったトヨタは関連のテレビCMを見送らざるを得なかった。リスクがある中での、大型イベントの開催は判断が難しい。

   来年の開催を判断した珠洲市はどのような工夫を凝らせば、震災のリスクを回避しながら芸術祭の開催が可能か、そのような知恵と経験則を行政と住民が共有しているに違いない。去年9月5日に一年遅れで開催した「奥能登国際芸術祭2020+」は石川県にまん延防止等重点措置が出されていて、当初は屋外の作品のみの公開だった。珠洲市民のコロナワクチンの接種率は県内の自治体でトップだった。そして、9月16日には震度5弱の地震に見舞われた。幸い人や作品へ影響はなかったものの多難な幕開けだった。後半の10月以降は屋内外の作品が公開され、来場者は63日間で総数4万9千人を数えた。

   難関を乗り切ったという達成感があっだろう。閉会式で泉谷市長は「芸術祭は『さいはて』の珠洲から人の時代を流れを変える運動であり、芸術祭とともに新たな動きを産み出していきたい」と述べていた。それに再度、チャレンジする泉谷氏はことし5月22日の市長選で5選を果たし、信任を得ている。

   珠洲市は令和2年(2020)国勢調査で人口1万2900人、増減率はマイナス11.6%、平均年齢は59.8歳と、典型的な過疎・高齢化の地域でもある。ただ、若い人たちの移住者が年々増え、昨年度は85人だった。その背景にあるのは国際芸術祭の開催地という「アートの光」かもしれない。コロナ禍と被災を超えて過疎地をどう再生し、「人の時代を流れを変える運動」へと展開するのか。体を張って過疎脱却を目指す政治家の心意気を感じる。

(※常設展示されている山本基氏の作品『記憶への回廊』=写真・上=と、塩田千春氏の作品『時を運ぶ船』=同・下=)

⇒6日(水)夜・金沢天気     はれ 

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★隣国の「武力ハラスメント」に具体策を~参院選まで5日

2022年07月05日 | ⇒トレンド探査

   参院選挙まであと5日、与野党が論戦を繰り広げている。物価高への対策にはボルテージが上がっているようだが、どうしても気になるのは、日本海側などの安全保障環境だ。

   中国軍とロシア軍の爆撃機4機が日本海や東シナ海などで長距離にわたって共同飛行している(5月24日)。そして、ロシアの駆逐艦5隻が日本海など列島を周回し、中国の駆逐艦3隻も日本列島に沿う形で航行するなど不気味な動きを繰り返している。北朝鮮のICBMの連続発射、さらに核実験と新たな核兵器開発も懸念される。隣国のこうした武力ハラスメンにどう対抗していくのか。参院選では防衛費の増額については聞こえてくるが、間近に迫っている危機については具体案が聞こえてこない。

   中でも気になるのが北朝鮮による核実験だ。北朝鮮の北部の日本海側にある豊渓里(プンゲリ)の核実験場では、核実験の準備がすでに進んでいると国際原子力機関の事務局長が発表している(6月6日付・IAEA公式サイト)。いつ核実験を行うのかと世界は注視していた。しかし、いままでのところ音沙汰はない。

   その理由として考えられるのは、核軍拡競争に終止符を打ち核戦争を防止することについて話し合う国連軍縮会議。北朝鮮はこの会議の議長の座にあった。議長は持ち回りの1ヵ月間で就任は5月30日付、6月25日までだった。議長の座にある間はいくらなんでも核実験はしないだろうと自身も読んでいたが、その座を降りてからすでに10日経つ。そろそろ動き出すのではないか。

   前回2017年9月の核実験(6回目、160kiloton=キロトン)では、北朝鮮はICBM用の水爆実験に成功と主張していた。キロトンは原爆や水爆の爆発力を表す単位で用いられ、1キロトンは火薬1000㌧に匹敵する爆発力とされる。その160倍の爆発力だった。これはアメリカが1945年8月、広島に落とした原爆の10倍、そして長崎の8倍に相当するもので、当時、世論は騒然となった。

   再開するであろう北朝鮮の新たな核実験の規模はさらに大型化する可能性もある。そして、核兵器を搭載した弾道ミサイルで日本と韓国を攻撃する軍事力をすでに有している、と考えても不自然ではない。隣国の脅威は着実に高まっているにもかかわらず、政治は具体策を示せないのか。

⇒5日(火)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

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☆「デジタル田園都市」移住のチャンス~参院選まで6日

2022年07月04日 | ⇒トレンド探査

   「デジタル田園都市構想」は政府が掲げる目玉の政策だ。「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」(内閣官房公式ホ-ムページ)を掲げている。

   その兆候はすでに起きている。総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告」(1月28日付)の報道資料によると、東京23区では2021年の年間の転出者は38万2人、転入者は36万5174人で、初めて転出が転入を上回った。若者を中心に大都会から農山漁村への移住がすでに起きている。

   身近な事例で言えば、能登半島へも「田舎暮らし」を求めて大都会からさまざまな感性や技能を持った若者たちがやって来ている。その顔ぶれは東京など大都会などからのIT企業の社員が多い。能登半島の尖端にある珠洲市では昨年度84人の移住者がやってきた。最近では企業そのものが本社機能を一部移転するカタチでやって来る。東証一部の医薬品商社「アステナホールディングス」は去年6月に本社機能の一部を東京から同市に移転している。同社は珠洲にテレワークの拠点を置き、人事や経理を中心に社員の希望者が移住している。   

   都会からの田舎暮らしは今に始まったことではない。第一波が2011年にあった。東日本大震災の後だった。そのときもITエンジニアやITデザイナーなどの技能を有する人たちが能登に移住してきた。彼らに移住の動機を尋ねると、「パーマカルチャー」という言葉が返ってきた。パーマカルチャー(パーマネント・アグリカルチャー、持続型農業)は農業を志す都会の若者たちの間で共通認識となっている言葉だった。天変地異が起きたとき、人はどう生きるか、それは食の確保だ。それを彼らは「農ある生活」とよく言う。

   現在のこのトレンドは、新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークの働き方の概念が普及して、生活を地方に移す社員が増えたことが影響している。さらに、副業を認める会社では、社員が地方でやってみたいことにチャレンジするという副業型移住も増えている。

   政府も本気で「デジタル田園都市構想」を進めるのであれば、地方移住を社員に奨励する企業への優遇税制などの具体策を提示すべきではないか。政策が実現するチャンスが訪れている。

⇒4日(月)夜・金沢の天気     はれ

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