自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆透けて見えるシナリオ

2006年06月29日 | ⇒メディア時評

 その劇的な再会に水を差すつもりはない。だた、演出されたシナリオが透けて見える分、しらける。日本の新聞でも1面で掲載された、韓国人拉致被害者の金英男(キム・ヨンナム)さんと母親が28年ぶりに北朝鮮・金剛山で対面したニュースのことである。

 実は同じようなシーンは19年前にもあった。1963年5月、石川県能登半島へ漁に出たまま行方不明になり、87年1月に北朝鮮で生存が判明した寺越武志さんと、両親の太左衛門さん、友枝さんが再会(同年9月)した場面である。武志さんが不明となったのは中学生、13歳のとき。

 母と再会を果たしたものの、97年9月、武志さんはマスコミのインタビューで「自分は拉致されたのではない。遭難し、北朝鮮の漁船に助けられた」と主張した。その主張は、02年10月、39年ぶりに一時帰国し、故郷の石川の地を踏んだ10日間の滞在中も繰り返された。拉致疑惑を否定するために帰国したようなものだった。

  再会した親子はその後どうなっているのか。武志さんは朝鮮労働党党員で平壌市職業総同盟副委員長のポストにあるとされている。02年の帰国も職業総同盟の訪日団の一員として訪れたのだ。友枝さんがこれまで北朝鮮を訪れたのは30回以上。新潟に寄港する北朝鮮の貨客船「万景峰号」などを利用する。出発する前に武志さんから電話がかかり、土産のオーダーがある。ダンボールにして10数箱分。衣料や薬、食料など半端な量ではない。この様子は寺越さん母子をテーマにしたドキュメンタリー番組などで何度か見た。

  どれほどの量の土産が北朝鮮に持ち込まれるのか。こんな数字がある。今月25日に北朝鮮・元山に向けて新潟西港を出稿した万景峰号の乗客は217人、積荷の中の雑貨は151㌧だった(26日付・新潟日報)。雑貨を北朝鮮への土産とみなすと、1人当たりざっと700㌔である。

 以下は推測である。北朝鮮にいる肉親から仕送りを求める手紙や電話がある。求められた土産の中には、生活物資もさることながら職場の上司への「貢物」も多分に含まれているだろう。あるいは、日本に親戚がいることをいいことに、上司が土産を「指示」していることもあるだろう。日本に住む家族はそんなことも暗に理解しつつ、せっせと仕送りをする。こうなると、これは北朝鮮の「ビジネス・モデル」ではないか、と思ってしまう。

  各新聞記事によると、28日の面会時、英男さんは、母の崔桂月(チェ・ケウォル)さんらに拉致された経緯や北朝鮮での元妻の横田めぐみさんとの生活について一切語らなかったという。おそらく英男さんは韓国には帰国せず、寺越友枝さんのように母が北朝鮮を往復することになるだろう。土産を山ほど持って。

 ⇒29日(木)夜・金沢の天気  はれ

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