上勝町に宿泊して一番美味と感じたのは「かみカツ」だった。豚カツではない。地場産品の肉厚のシイタケをカツで揚げたものだ。上勝の地名とひっかけたネーミングなのだが、この「かみカツ丼」=写真=がお吸い物付きで800円。シイタケがかつ丼に化けるのである。こんなアイデアがこの地では次々と生まれている。全国的に上勝町といってもまだ知名度は低いが、「葉っぱビジネス」なら知名度は抜群だ。このビジネスはいろいろ考えさせてくれる。女性や高齢年齢層の住民を組織し、生きがいを与えるということ。「つま物」を農産物と同等扱いで農協を通じて全国に流通するとうこと。ビジネスの仕組みを創り上げたこと。たとえば、注文から出荷までの時間が非常に短い。畑に木を植えて収穫する。山に入って見つけていたのでは時間のロスが多いからだ。ただし、市場原理でいえば、つま物の需要が高くなって価格が跳ね上がることはありえないだろう。
過疎地における公共とは何か、何をしなければならないのか
上勝は葉っぱビジネスだけではない。バイオマスエネルギーにも取り組んでいる。上勝町の面積の89%が森林。この資源を有効利用するため、間伐材などの未利用の木材をチップ化して燃料にしている。町の宿泊施設「月ヶ谷温泉・月の宿」ではこれまでの重油ボイラーに替えて、ドイツ製の木質チップボイラーを導入し、温泉や暖房設備に利用している=写真=。重油ボイラーは補助的に使っている。木質チップは1日約1.2トン使われ、すべて同町産でまかなわれている。チップ製造者の販売価格はチップ1t当たり16,000円。重油を使っていたころに比べ、3分の2程度のコストで済む。町内では薪(まき)燃料の供給システムのほか、都市在住の薪ストーブユーザーへ薪を供給することも試みている。地域内で燃料を供給する仕組みを構築することで、化石燃料の使用削減によるCO2排出抑制を図り、地域経済も好循環するまちづくりを目指している。さらに、森林の管理と整備が進むことになり、イノシシなどの獣害対策にもなる。
上勝ではさらに再生可能エネルギーの開発を進めている。風力、小水力、バイオマスの三本柱。最大の課題は経済性という。風力は初期投資が大きいので、どのように資金調達をし、どう返済していくか。水力は風と違って変動が小さいが、渇水期もあるので、季節による水量と発電量を推測し、そこから収益可能性を考えていくというシュミレーションは今後の課題としてあるようだ。さらに、土石流でこわれた場合にはどうするかなど。風力発電は地権者との話し合い、土地の境界確定も必要となる。小水力についても、地元との水利権の交渉も必要となる。そして、再生可能エネルギーが開発されたとしても、これだけでは上勝の特徴は出ない。エネルギー事業に観光ビジネスをかみ合わせて、多様な雇用・収入源を得ていく。地域が生き残っていくための仕組みづくりをどう構築するか、だ。これが、葉っぱビジネスから再生可能エネルギーへの上勝の次なるステップなのだろう。
上勝町を視察して思うことは、過疎地における公共とは何か、何をしなければならないのかということだ。人々の生きがい、経済の活性化、移住で若者人口を増やすなど取り組むべき課題はいくつもある。これを突き詰めていくと、採算が困難な事業分野で、いかに経済と調整して事業を進めるのかということになる。そうしないと持続可能ではないからだ。その解は、単独ではできないので、他と連携していく、外需へのアプローチということになる。これを横石氏は「ハブとスポークの発想」にたとえた。いかに広げ、域内に人を呼び込むか、共感を得るか、だ。これにまい進する上勝の人々の努力を讃えたい、そして見習いたい。
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