自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★GIAHS国際会議の視座‐6

2013年05月28日 | ⇒トピック往来
伝統的な農法や景観を有し、多様な生物を抱える地域を「世界農業遺産(GIAHS)」として認定する、国連食糧農業機関(FAO)主催の世界農業遺産国際会議(GIAHS国際フォーラム)があす29日から、石川県七尾市を会場に開催される。それを前に、サブイベントが連日、金沢市で開催された。

     認知度が低いGIAHS、アジアから発信を

  27日午後から金沢大学では、日本の里山里海を保全し、持続的発展を目指す「国際GIAHSセミナー」が開催され、生態学や文化人類学の研究者、自治体、NPO法人の職員ら60人が研究発表や討論に耳を傾けた。国際会議が開かれるのを前に研究者の連携を広げようと同大学里山里海プロジェクト(代表・中村浩二特任教授)が主催した。中村教授は、GIAHS事務局の科学委員会の委員でもある。趣旨説明に立った中村教授は「GIAHSの国際評価を活かした持続的な発展のために、研究者が何をなしうるのか考え、支援につなげたい」と述べた。

  GIAHSサイトを持続可能にカタチで未来にわたって展開するためには、科学的な評価が必要となる。そのために大学など研究機関とGIAHSサイトがどのように関わり、データが整理されているか、選定の際の評価基準として重視されている。具体的に言えば、FAOの認定基準は、1)食料と生計の保障、2)生物多様性と生態系機能、3)知識システムと適応技術、4)文化、価値観、社会組織 (農-文化)、5)優れた景観と土地・水資源の管理の特徴‐などである。これらが、申請段階で提示されているか、それが科学的な根拠に基づくものかという点である。「生き物がたくさんいる」という表現でははなく、「○○大学の調査によると、この地域に生息する動植物は○○種におよび…」という文章表現で申請されているかである。
  
  セミナーでは、金沢大学のほか国連大学や新潟大学、宇都宮大学、石川県立大学、東京農業大学など6つの研究機関から13人が研究発表した。中でも、「能登GIAHSにおける地域住民と協働による自然環境調査」(柳井清治・石川県立大学教授)、「能登GIAHSと人材養成」(小路晋作・金沢大学博士研究員)、「文化資源学とGIAHS」(野澤豊一・金沢大学特任助教)、「佐渡の生物共生型農業:自然再生の視点から」(西川潮・新潟大学准教授)、「佐渡GIAHSを発展・活用する人材の養成」(大脇淳・新潟大学准教授)、「里山を鳥獣害から守る人材の育成」(高橋俊守・宇都宮大学准教授)らから能登と佐渡のGIAHSと直接のかかわりからの発表もあり、人材養成や獣害問題に及んだ。

  「日本におけるGIAHSの発展:大学の役割」と題して発表した国連大学サスティナビリティと平和研究所の永田明シニア・プログラム・コーディネーターの言葉だった。「欧州がユネスコの世界遺産をリードしたように、農業遺産はアジアがリードできるポジションにある」と述べ、とくに、日本、中国、韓国、日本の連携が重要で、国連大学は今後ともアジアの国々の世界農業遺産の連携に貢献したいと強調した。

  28日、金沢市文化ホールで、世界農業遺産の調査や認定に協力する研究機関でもある、国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(金沢市)が主催するシンポジウムが開かれた=写真=。国内外の研究者、市民など90人が参加した。認定での知名度を生かしてエコツーリズムなどを進める中国での取り組みや、まだ認定地域を持たない韓国での今後の課題などが紹介された。国連大学の武内和彦上級副学長は、「GIAHSの認定地域19のうち、アジアには11のサイトがある。世界農業遺産の一般への認知度は、世界遺産にはまだ及ばないことから、観光などへの活用も念頭に、アジア各国の取り組みによって浸透を図ってはどうかと」と話した。前日の永田氏の話と同様、GIAHSのアジアからの発信を強調した。

  こほか、GIAHSをどのように活用するばよいか、地域のイメージアップ(住民の自信と誇り、アイデンティティの回復)、農産物等への付加価値、ブランド力の強化(環境保全型農業、6次産業化などの推進)、観光(グリーン・ツーリズムなど)への活用(農業・農村の活性化)、世界のGIAHSサイトとの知識や経験の交流(国際フォーラムや現地ワークショップの開催など)など討論が繰り広げられた。

⇒28日(火)夜・金沢の天気    はれ


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