自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★続・核なき世界への一歩

2016年04月14日 | ⇒メディア時評

   アメリカのオバマ大統領の被爆地訪問をめぐっては、同国内で意見が分かれるだろうことは想像に難くない。アメリカでは現場投下が終戦を早めた「正しい判断だった」とする認識がこれまで喧伝されてきたからだ。では、今の若い世代はどう考えているか興味深い。

   2015年8月6日付でニューズウィーク日本版ウェブがこう伝えている。引用させていただく。インターネットマーケティングリサーチ会社の「YouGov(ユーガブ)」が発表したアメリカ人の意識調査によると、広島と長崎に原爆を投下した判断を「正しかった」と回答した人は全体の45%で、「間違っていた」と回答した人の29%を依然として上回っていた。しかし、調査結果を年齢別に見ると、18~29歳の若年層では45%が「間違っていた」と回答、「正しかった」と回答した41%を上回った。また30~44歳の中年層でも36%が「間違っていた」と回答し、「正しかった」と回答した33%を上回った。ちなみに、45~65歳では約55%、65歳以上では65%が「正しかった」と回答した、という。

   これまでアメリカでは、原爆投下を肯定する意見が世論の大半を占め、世論調査機関ギャラップが戦後50年(1995年)に実施した調査では59%が、戦後60年(2005年)の調査では57%が原爆投を支持していた。日本とアメリカ両国で戦争の記憶が薄れる中、アメリカの若い世代では、核兵器への忌避感が強く、原爆投下にしても「間違っていた」と徐々に変化していることは想像がつく。オバマ大統領は被爆地訪問を希望しているといわれるが、こうした国内世論を慎重に見極めているのだろう。民主党、共和党がそれぞれに大統領候補の指名争いのただなかにある。ここで、退役軍人らの支持を広げたい共和党の候補者らを勢いづかせては元もこうもないとオバマ大統領が思案していることは察しがつく。


  とくに、オバマ大統領の外交姿勢は、アジア重視を強調しながら、その成長の明るい面ばかりに目を向け、たとえば中国が周辺国に与えている脅威などリアルさに十分注意を払っていないと、とよく指摘されている。こうしたリアルさをサ欠いたままで、被爆地訪問が果たしてどれだけば効果があるのだろうか、と。

  では周辺国の反応はとチェックすると。これはあくまでも、韓国・中央日報の論調なのだが、オバマ大統領に被爆地訪問は現時点で反対なのだ。12日付のウェブ版の社説「米国務長官の広島訪問、日帝免罪符なってはいけない」として、以下のように述べている。「オバマ大統領も来月の日本G7首脳会議を契機に広島を訪問することを検討中という。任期初めから核なき世界を推進してきたオバマ大統領としては歴史的なここでフィナーレを飾りたいと思うだろう。しかし東アジア全体の目で見ると、いま米大統領が広島に行くのは時期尚早だ。まず日本は韓国や中国など被害国から完全に許しを受けたわけではない。被害国が心を開けないのは、日本政府が心から過去の過ちを反省していないと見るからだ。」と。

  「東アジアの許しを得ていない」という、まるで戦勝国の発想なのだ。日本は韓国を併合したが、戦った相手ではない。むしろ、オバマ大統領の被爆地訪問がどれだけ北朝鮮の核開発に対してプレッシャーを与えることになるだろうか。韓国政府がどのような見解なのか、知りたいところだ。

  ケリー国務長官の今回の広島訪問が、オバマ大統領が5月の伊勢志摩サミットの際に広島を訪れる「試金石」、あるいは「さきがけ」「露払い」になったのかどうか。オバマ氏が広島の地に立ち「核なき世界」の演説をすれば、彼自身の人生最大の政治ショーとなり、「レガシ-(遺産)」となることは間違いない。「アメリカは原爆投下の道義的な責任がある。核廃絶の先頭に立つ」(2009年4月・プラハ演説)

⇒14日(木)朝・金沢の天気   はれ

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