自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆群発地震で古陶「珠洲焼」が転がる無残

2022年06月22日 | ⇒ドキュメント回廊

   震度6弱の揺れなど群発地震が続く能登半島・珠洲市のニュースをテレビで視聴して、地域工芸のシンボルである珠洲焼に相当な被害が出ているのではと察している。震度5強の地震があった日、NHKニュース(20日付)では、珠洲市立珠洲焼資料館の展示作品50点のうち半分ほどが倒れ、ガラスケース内にあって落下は免れたものの、中には破損したものもあったと報じられた=写真・上=。

  珠洲焼の古陶の多くは民家の土蔵に眠っている。家宝として、大切に保管されている。多くはしっかりとした棚の下段に並べられている。上段に置くと、誤って手が触れて落ちる可能性があるのであえて下段に置いている。ところが、震度6弱、震度5強と連続すると棚から転がり落ちる。それは、珠洲焼資料館を見れば一目瞭然だ。底に固定する下支えを入れたとしても、ヨコ揺れタテ揺れには耐えられないのだろう。民家の蔵の中では相当数の作品が被害を受けていることは想像に難くない。

   珠洲焼の魅力に見入ったのは、2007年暮れごろだった。珠洲市のあるお宅に招かれ座敷に上がると、現代作家の手による珠洲焼の花入れに一輪の寒ツバキが活けてあった。黒い器と赤い花のコントラスに存在感があり、しばし、見とれてしまった=写真・中=。そういえば、玄関にもさりげなく珠洲焼の一輪挿しがあった。「お宅にお茶やお花を嗜(たしな)まれる方がいらっしゃるのですか」と無礼を承知で尋ねると、「いやおりません。先代からこんな感じで自己流で活けております」と主(あるじ)は笑った。

   そして、珠洲焼の古陶が眠っているという土蔵に案内された。還元炎でいぶされ、艶やかになるまで焼き締められた黒色の壺は、荒々しい能登の気候風土の中でどこか厳粛さを感じさせる。それでいて、自己主張せずにどっしりとした能登の家構えに合う。中でも、主が大切にしていると語っていたのは、「海揚がり」の壺だった。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だったが、各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、古陶として揚がってくることがある。壺にへばりついた貝類がそのままになっていて、時空を超えた作品に仕上がっている。この家の主は、先祖が明治時代に引き揚げた家宝だと、うれしそうに話していたのを覚えている。

   先に述べたように、各民家の土蔵などに仕舞われた珠洲焼の古陶は落下して相当の破損を被っているのではないか。さらに、珠洲焼の現代作家の人たちが創って展示している作品や、焼き上げ窯にしても損傷を負っているに違いない。今回の震災はさまざまな分野の人々に相当なダメージをもたらしているのだろう。(※写真・下は海揚がりの珠洲焼=「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより、文中の海揚がりの壺とは別の物)

⇒22日(水)午後・金沢の天気    くもり

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