IAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長の発言は国際世論を喚起する、ある意味で絶妙なタイミングだった。NHKニュースWeb版(7日付)によると、グロッシ氏は本部があるウイーンで理事会を開き、北朝鮮のプンゲリにある核実験場の坑道の1つが再び開いた兆候がみられると指摘した。さらに、記者会見で、その事実は衛星写真から確認していると明らかにし、「専門家の分析はこの活動は過去の核実験とも似ているというものだ」と核実験が行われる可能性に懸念を示した。
IAEA公式サイト(6日付)=写真・上=にグロッシ氏のコメントが掲載されている。以下(意訳)。
豊渓里(プンゲリ)の核実験場では、おそらく核実験の準備のために坑道の1つが再開されたという兆候を観察した。核実験の実施は、国連安保理決議に違反し、深刻な懸念の原因となる。寧辺(ヨンビョン)のサイトでは活動が続いている。原子炉の運転と一致する継続的な兆候がある。ここにある放射化学研究所では、過去の廃棄物処理や維持管理活動中に観察されたことと一致する活動の兆候がある。遠心分離機濃縮施設の別館に屋根が設置されている。軽水炉付近では、2021年4月から建設中だった新棟が完成し、隣接する2棟が着工しているのが観測された。1994年に建設が中止された原子炉では、建物の解体と、他の建設プロジェクトで再利用される可能性のある一部の資材の移動が観察された。降仙(カンソン)複合施設と平山(ピョンサン)鉱山濃縮工場での活動の兆候が進行中だ。
豊渓里では2006年10月9日に最初となる核実験が行われ、2017年9月3日までに6回行われている=写真・下=。長崎大学核兵器廃絶研究センター公式サイトによると、6回目のとき、北朝鮮は「ICBMに搭載可能な水爆実験に成功」と発表していた。核実験の地震規模としては最大でマグニチュード6.3(米国地質調査所)で、メガトン級の大規模な爆発威力だった可能性がある。今後北朝鮮がICBMに搭載可能なレベルにまで核弾頭を小型化させることは時間の問題である、と分析される。
北朝鮮はこれまでICBMの発射実験を繰り返してきた。それに搭載する小型核弾頭が完成すれば、核・ミサイルによる打撃能力は完成形に近くづく。最高権力者としては、核実験を一刻も早く実施したいのではないか。NHKニュースWeb版(7日付)によると、アメリカ国務省のプライス報道官は6日の記者会見で、北朝鮮が核実験を行う可能性について質問され、「われわれは北朝鮮が近日中に7回目の核実験を行おうとしているのではないかと懸念している」と述べた。
一方で、国連軍縮会議が今月2日、スイス・ジュネーブで開かれ、その議長国に北朝鮮が就いた。65ヵ国が参加して核軍縮などについて話し合うこの会議は、各国がアルファベット順に毎年6ヵ国が会期中持ち回りで4週ずつ議長国を務めていて、11年ぶりに北朝鮮が議長国となった。就任は5月30日付で、今月25日まで議長の座にある。
開幕した軍縮会議で冒頭、G7を含む48ヵ国を代表してオーストラリアの代表が、北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させていることについて「軍縮会議の価値を著しくおとしめる無謀な行動に深い懸念を抱く」と批判し、中国やロシアなどは北朝鮮を擁護する発言を行い、非難の応酬で実質的な議論は行われなかった。今回のIAEA事務局長の発言は北朝鮮批判に拍車をかけることになる。「議長国が軍縮の義務を破っている、議長の資格はない」として強烈なボイコットが運動が起きるかもしれない。さらに、この間に北朝鮮が核実験を行えば、前代未聞の事態となるだろう。軍縮会議の存在意義そのものがないとして解体運動へと展開するのではないか。
そもそも、いま軍縮会議自体が機能不全に陥っている。1996年に包括的核実験禁止条約(CTBT)を採択したがいまだに発効されていない。国連安保理を含めて国連の矛盾が露わになってきた。
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