自在コラム

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★ゲノム情報が健康管理に活用できる時代に

2023年10月12日 | ⇒トピック往来

   先日、能登半島の真ん中にある志賀町で開催された「健康づくり講演会」を聴き行った。講演の一つ、「ゲノムは人類の共有財産~ゲノム情報が健康管理に活用できる時代に~」のタイトルに興味がそそられた。

   人は誰もが遺伝情報(ゲノム)を持つ。親の病気を知ると、自身にも遺伝性の病気にやがて罹ると思ったりする。「ゲノム」という言葉を意識したのは10年前の2013年。アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーが公表した乳がん治療だった。母親が乳がんで命を落としたことをきっかけに自ら遺伝子検査を行い、発症率が高いことが判明したことから、予防のために両乳房を切除・再建手術を行った。日本でも大きく報じられ、遺伝カウセリングや遺伝子検査が広まるきっかけとなった。そして、ことし6月には遺伝情報に基づき患者に応じた治療を推進する「ゲノム医療法」が国会で成立し、遺伝医療に弾みがついた。

   志賀町でゲノムの講演会が開かれたのも理由がある。2011年から金沢大学の予防医学による住民の健康の維持と増進に取り組むための調査研究が行われてきた。2019年度からは「スーパー予防医学検診」のプロジェクトが始まり、定点観測的にデータを収集し、さらに遺伝子検査など行い、個人に合わせた保健指導プログラムを開発している。講演会は調査に協力している住民へのフィードバックの意味を込めている。

   冒頭のタイトルで講演したのは金沢大学附属病院遺伝診療部の渡邊淳部長=写真=。人体の細胞の中にはヒトの遺伝情報を保存しているDNAが含まれていて、DNAは細胞の中の染色体と呼ばれる物質の中で折りたたまれている。ヒトは父と母からそれぞれ1組の染色体のセット(22本の常染色体と1本の性染色体)をもらうので、1つの細胞には2セットの染色体が入っている。ただ、DNAは必ずしも安定した存在ではなく、さまざまな要因により変化し、病気の発症と関連するものは「ゲノム異常」とも呼ばれる。

   遺伝子が関わる病気は多岐にわたる。がんや糖尿病などを含めると、およそ9割が生涯に何らかの遺伝性疾患に罹るとの説明があった。がんは遺伝すると思いがちだが、ゲノム異常で起きる病気と遺伝する病気はイコールではないこと、がんと遺伝に関しては正しく理解することが必要、と。ただ、患者が治療で医師から説明を受ける際、専門性の高い用語が使われることが多い。どう患者や家族に理解してもうらうのか。その取り組みの一つとして、「遺伝カウンセラー」の話があった。ゲノム医療を受ける患者と医師の間に立って、患者側を支援する人材だ。金沢大学では2021年度から遺伝カウンセラーの養成を行っている。

   ゲノム医療では遺伝情報を調べることで患者の最適な治療薬の選択につながる。一方で、予め病気のリスクがわかるため、医療保険の加入や就職などで差別や不利益を受けることにもなりかねないので、医療側は徹底した情報管理が問われる、と。最後に、2002年のノーベル生理学・医学賞を受けたジョン・サルストン(イギリス)の言葉を引用して講演が締めくくられた。「人間の出発点となるゲノムは、各人にとっての制約ではなく、むしろ可能性ととらえるべきである」

⇒12日(木)午後・金沢の天気   はれ時々くもり


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