証券会社の知り合いから一冊のリポートが送られてきた。手書きの添え状にこう書かれていた。「コロナ禍、人のマインドが180度変わり、日本にとって良い変化が起きているように感じております」と。リポートのタイトルは「日本:コロナ後の世界~マクロ経済・社会構造に予想される変化」。このテーマに関心があったのでさっそく読んでみる。果たして、「良い変化」かどうか。
リポ-トは証券会社のチーフエコノミストによる分析だ。リポートではコロナ禍による日本と世界の価値観の転換を4つの視点で述べている。1)人の動きに関わる様々な変化、2)広義の社会保険機能の強化、3)国境・県境など「境界」の存在価値の上昇、4)効率第一主義の見直し、についてだ。
1番目の人の動きに関わる変化は顕著だ。「ソーシャルディスタンス」というという言葉が当たり前のように使われるようになった。この視点でリポートでは、これまで国や自治体が推進してきた「コンパクトシティ」という、人口を中心市街地に集積するという政策は見直しが必要になってくるかもしれない、と述べている。また、人が動くことによって付加価値が生み出されてきた観光や文化・芸術などの施設では、その場に行くなくても、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といったデジタル技術の進化でより実感が増すかもしれない。観光やエンターテイメントの分野も変わるかもしれない。
2番目の広義の社会保険は多様な解釈を提案している。これまで福祉国家としての日本では、医療や介護の「高齢者中心」の社会保障だったが、これからは生活保護や雇用保険といったセーフティネットの拡充にも力点が注がれる。これによって、日本は北欧型の高福祉・高負担モデルに接近していく可能性があると指摘している。国民の合意が大前提だが、さらなる消費増税に向かうことにも。また、企業の経営理念は利益優先の株主重視から、消費者や社員、社会の安全を重視するステークホルダー重視へと切り替えが始まりそうだ。
3番目の国境・県境など「境界」の存在価値では、マイナス材料としては、出入国や国境検疫の高いハードルが続き、旅行業や宿泊などのサービス産業にも影響が出てくる。一方で、境界をつくることで域内の住民の安全を守るという発想は、自治体の連携による広域行政、あるいは都道府県を超えた道州制といった自治体再編の動きを加速させるもしれないと指摘している。
4番目の効率第一主義の見直しでは、在庫と供給網の在り方を問うている。ジャスト・イン・タイム型の在庫を極端に圧縮する生産体制や、コンビニに見られる小量高頻度配送は自然災害にその弱さを露呈している。さらに、企業価値は投資と株主還元というこれまでの「アメリカ型」の姿勢から、内部留保の蓄積と並行して一定の手元流動性を手元に置く「日本型」の企業財務が再評価されるかもしれない。以上は、野村證券「ANCHOR REPORT」(5月12日号)=写真=からの引用である。
これに自己流の予想も加えてみたい。5月24日付のブログでも紹介したが、コロナ禍で日常の変化がある。それは「人が触ったものには触らない」という衛生観念が共有されている。ドアノブやエレベーターのタッチボタンのほか、紙幣や硬貨も非衛生的だと指摘は以前からあった。この意識変化によってキャッシュレス化がさらに進むとみている。さらに、国がデジタル法定通貨の実現に向けて動く可能性が見えてきた。2024年に予定している新札発行を、デジタル法定通貨へと舵を切るのチャンスではないだろうか。「デジタル円」の可能性がコロナの後押しで加速する。そんなふうに憶測している。
⇒2日(火)夜・金沢の天気 はれ
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