ユネスコ無形文化遺産に登録されている、能登半島の尖端・奥能登に伝わる農耕儀礼「あえのこと」は、農家が稲作を守る「田の神様」に労をねぎらいと収穫に感謝を捧げる伝統行事として知られる。「あえ」はごちそうでもてなすこと、「こと」はハレの行事を意味する。毎年12月5日の行事は「田の神迎え」と言われ、それぞれの農家が田んぼから田の神を自宅に向えて饗応する。2月9日は「田の神送り」と言われ、農家でくつろいでもらっていた田の神を再度ごちそうでもてなし、その後田んぼにお見送りをする。田の神の行事は家々で伝承されていて、迎え方や送り方、そして、もてなし方はそれぞれに違いがある。
去年12月5日の「田の神迎え」を能登町の柳田植物公園内にある茅葺の古民家「合鹿庵(ごうろくあん)」で見学し、このブログで書き留めた。そして、きのう2月9日の「田の神送り」を同じ合鹿庵で見学した。
12月5日のブログでも述べたが、田の神は目が不自由であるという設定になっている。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂で目を突いてしまったなど諸説がある。目が不自由であるがゆえに、農家の人たちはその障がいに配慮して田の神に接する。座敷に案内する際に段差がある場合は介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。演じる家の主(あるじ)たちは、どうすれば田の神に満足いただけるもてなしができるか工夫を凝らして独り芝居を演じる=写真・上=。
供されたごちそうで、季節の違いもある。12月5日「田の神迎え」では、メイン料理は寒ブリの刺し身だった。そして、2月9日「田の神送り」では、タラの子付けという刺し身が出されていた=写真・下=。タラの漢字は魚へんに雪と書く「鱈」。能登半島の沖で獲れるマダラはこの降雪の時季に身が引き締まって、味がのっている。そのまま刺し身ではなく、タラの子である真子をゆでてほぐし、タラの身にまぶしたもの、この「タラの子付け」はなかなかおつな味がする。さらに、昆布でしめたマダラの身に子付けをするとさらに旨みが増す。
田の神送りを東京から見学にやってきたという料理研究家の女性は、「このタラの子付けは能登独特の刺し身ですよ。ほかに見たことはありませんね」と話していた。一部金沢の料理屋やスーパーでも見かけるが、能登が発祥かもしれない。迎えに寒ブリの刺し身をたしなみ、送りにはタラの子付けを堪能する奥能登の田の神様。なんともグルメで贅沢な神様ではある。「満足じゃ」と田に戻られたに違いない。ことしも豊作をもらたしてほしいと農家の切なる願いが込められている。
⇒10日(金)夜・金沢の天気 くもり
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