今朝のメディアで気になるニュ-スから。スーパーコンピューターの計算速度を競う世界ランキング最新版で、これまで2位だった理化学研究所の「京(けい)」が3位に順位を落としたとのニュースが流れている。ニュースをそのまま読んでしまえば残念な話に思えるが。
首位は、オークリッジ国立研究所(アメリカ)の「タイタン」。1秒間に1京(京は1兆の1万倍)7590兆回の計算速度を記録したという。3位の「京」は1京510兆回。速さだけを競うのであれば「3位」だが、実用的という意味では「京」は優れている。計算科学研究機構(AICS)のホームページで掲載されている立花隆氏(ジャーナリスト)の文が分かりやすいので、以下部分引用させていただく。
「もともとの設計性能が10ペタだったとはいえ、こんなに早くトップ性能が引き出せた背景には関係者のなみなみならぬ努力があったことと思う。これもひとえに斬新な富士通の高性能低電力消費型チップ(SPARC64TM VIIIfx)と6次元メッシュトーラスという独特のアーキテクチャ構造をとることで、高速性と高信頼性(壊れても全面的には壊れない。すぐ自己修復する)を同時に達成するという優れたハードウェア技術が見事に功を奏したが故にだと思う。次のステップは、このすぐれたハードを見事に使いこなして、ソフトウェア(アプリケーション)と計算実績の面でも、世界一の業績を次々にあげていくことだ。それが実現できたら、ケタちがいの計算力を利用したケタちがいのシミュレーション力(速度と精度)で、日本の科学技術力と産業力を数倍レベルアップすることができる。日本の国力を数十倍にしていくことができる。」
上記の「産業力を数倍レベルアップすることができる」というところがポイントだと思う。ことし9月から本格稼働が始まり、大学や国立の研究所だけでなく、産業界の研究にも門戸が開かれている。公募に対して製薬や化学、ゼネコン、自動車メーカーなど、産業界から25件が採択され、利用が始まってる。
産業や研究に役立つ、とはどういうことなのか。参考例として、2010年のノーベル化学賞の根岸・鈴木博士のクロスカップリング反応がある。有機化合物と別の有機化合物を触媒のパラジウムによりカップリンングし、ビアリール化合物という新たな有機化合物をつくっていく。パラジウムという触媒は自体はカップリングが成功すると、さっと離れて、次なるカップリングに動く。新しくできた化合物はテレビの液晶材料や抗がん剤など幅広く使われる。鈴木・根岸博士のカップリング反応というのは、原料が安定していて扱いやすい、化学反応が穏和で操作が簡単、有害な廃棄物をほとんどださない。つまり配合を間違えても爆発しない、猛毒を発生させないので、扱いやすい。だから産業に役立つ、扱いやすいということなのだ。スーパーコンピューターも同じで、計算が速いだけでなく、「壊れても全面的には壊れない、すぐ自己修復する」という高信頼性が伴わなければ活用できないのだ。
このようなスパコンをアメリカでは製造できるのだろうか。メディアは「3位に転落」などと見出しで報じている。視点を変えれば、評価は一転する。
※写真は、スーパーコンピューター「京」を製造している富士通ITプロダクツ=石川県かほく市
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