前回に続いて仮設住宅の話。世界的な建築家で知られる坂茂(ばん・しげる)氏が建築設計を手掛けていた能登半島の尖端、珠洲市での木造2階建ての仮設住宅が完成した=写真・上=。着工したのは3月初旬で、これまで何度か現場を訪れたことがある。画像は、坂茂建築設計(東京)の公式サイトで掲載されている6月14日に撮影されたものを拝借している。
仮設住宅が造られているのは観光名所である見附島を望む同市宝立町の市有地で、坂氏が手掛けるのは6棟90戸。きょう入居が始まるのは、そのうち最初に完成した30戸分となる。仮設住宅には坂氏のこだわりがある。木の板に棒状の木材を差し込んでつなげる「DLT材」を使用している。DLT材を積み上げ、箱形のユニットを形成する。石川県産のスギを使い、木のぬくもりが活かされた内装となっている。間取りは、6、9、12坪の3タイプがある。
仮設住宅と言えば平屋のイメージだが、坂氏が考案した2階建ての仮設住宅は、少ない敷地を有効に利用すること、そして、いかにも仮設住宅というイメージを払拭することにあるようだ。確かに、平屋より階建ての方が建築物らしく見える。
自身が坂氏のこだわりを初めて目にしたの去年6月のことだった。坂氏は1995年の阪神大震災を契機に世界各地で被災地の支援活動に取り組んでいて、去年5月5日に珠洲市で起きた震度6強の地震の際は、避難所となっていた公民館に間仕切りスペースを造って市に寄贈した。間仕切りはプラスティックなどではなく、ダンボール製の簡単な仕組み。個室にはカーテン布が張られているが、プライバシー確保のために透けないのだ。この透けないカーテーン間仕切りは、今回の震災でも珠洲市や輪島市などの避難所で活用されている。
もう一ヵ所、坂氏のこだわりの仕事が見えるところがある。去年秋に珠洲市で開催された「奥能登国際芸術祭2023」(9月23日-11月12日)では、ヒノキの木を圧縮して強度を上げ、鉄筋並みの耐震性と木目を活かした「潮騒レストラン」が造られ、建物自体が芸術作品として話題を集めた=写真・下、去年9月26日撮影=。元日の地震では、レストラン内部での食器類の破損や、調理器具の転倒などはあったものの、建物自体は無事だった。
震災を前提に向き合って来た坂氏の建築物の数々。新たな工法で造られた木造の仮設住宅、そして潮騒レストランは震災復興のシンボルになるかもしれない。
⇒21日(金)午後・金沢の天気 くもり時々はれ
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