たまご形のつぼみから、青い筋を割って小さな空間が開く。
噴き出した白い花びらは、互いにねっとりと絡みつき、身を丸めてのたうち、えびぞりになって折り重なる。
バニラアイスにメープルシロップをかけたような甘ったるい香りが、どろりと流れ出す。
近づくものを包み込み、琥珀 (こはく) として固めて、追憶の地層深くに埋めてしまう香り。
陶酔も、後悔も、日常も、犯罪も、この世界に漂うありとあらゆるものを琥珀色の至福の中に固めて、木の根元に沈めてしまう。
クチナシの木の根元には、そうして失われた記憶が数知らず眠っている。
気がつけば、私も記憶をひとつ失ってしまっていた。
その記憶はまだクチナシの木の根元に転がっているはずだが、どの琥珀が私の記憶だったのか、もう定かではない。
あと千年もすれば、その記憶もきっと、このクチナシの甘い香りとなって、また白い花びらのすき間から流れ出すのだろう。
噴き出した白い花びらは、互いにねっとりと絡みつき、身を丸めてのたうち、えびぞりになって折り重なる。
バニラアイスにメープルシロップをかけたような甘ったるい香りが、どろりと流れ出す。
近づくものを包み込み、琥珀 (こはく) として固めて、追憶の地層深くに埋めてしまう香り。
陶酔も、後悔も、日常も、犯罪も、この世界に漂うありとあらゆるものを琥珀色の至福の中に固めて、木の根元に沈めてしまう。
クチナシの木の根元には、そうして失われた記憶が数知らず眠っている。
気がつけば、私も記憶をひとつ失ってしまっていた。
その記憶はまだクチナシの木の根元に転がっているはずだが、どの琥珀が私の記憶だったのか、もう定かではない。
あと千年もすれば、その記憶もきっと、このクチナシの甘い香りとなって、また白い花びらのすき間から流れ出すのだろう。