思いがけず届いた幸せ。焼豚のほかに骨付き肉も入っていました。
肉をそぎ落として食べ、骨から外しにくい肉には直接しゃぶりつき、最後に太い骨が残りました。
この骨からダシがとれるかも。
豚の骨からスープをとった経験はありませんが、試しにやってみましょう。
この骨付き肉は製造元で既にボイルされているので、血抜きの必要はありません。
しかし、さすがに豚の骨。とにかく太くて硬くて、のこぎりで切断しなければ断面が現れません。
ギコギコギコギコ……
ほとんど大工仕事。
のこぎりを慎重に引きます。骨は、ホームセンターに並んでいる材木のような整った形をしているわけではなく、手で押さえようとしても今ひとつ安定しません。おまけに、水洗い後の骨は濡れています。
手を切らないように、ゆっくりとのこぎりを引きます。少し溝ができたら、力を込めて一気に断ち落とします。
一通りの切断を終えた後ののこぎりは、刃が熱くなっていました。
初めて見る骨の断面は、外側が白く硬い組織で固められ、内側が空洞になっていました。空洞の部分にはスポンジ状の組織が詰まっています。
スポンジ状の組織は半透明のプラスチック繊維を絡み合わせたような外観をしており、水分を含んでいます。見た目といい手触りといい、まるでカイワレ大根を水栽培するときの培地。
これが骨髄
*なのか。昔の人はこのようなものも日常的に見ていたのでしょう。「骨の髄まで」という表現が生まれ、実感を持って使われてきた背景には、そんな体験があったはずです。自分が生まれるずっと前から伝えられている言葉が実感を失いつつある現在、現代ならではの新しい言葉も作り出していかないと、言葉の力が弱くなってしまうと痛感します。
さて、骨を適当な大きさに切断できたので、鍋に放り込んで煮出します。
1回目は白く濁ったスープができました。
「これが豚骨スープかぁ。」
こっくりとした香りが立ち上ります。
2回、3回とダシをとり続けるうちに、スープが澄んできて、香りが弱くなってきました。この状態では豚骨スープは期待できません。
こっくりとした豚骨スープが望めなくなったところで、方針転換。まだまだ骨は利用できるはず。骨に酢をかけ、カルシウムを溶かし出してスープの材料にしてみましょう。
カルシウムいっぱいのスープになーれ。
毎晩繰り返し骨に酢をかけているうちに、だんだん骨の表面が滑らかになってきました。カルシウムが溶け出したのでしょう。
*注: 骨髄という言葉にはいくつかの意味があるようです。三省堂「大辞林」第二版では以下のように説明されています。
こつずい【骨髄】(1) 骨の中心にある腔所や海綿質の小腔を満たす、細胞と血管に富んだ軟らかな組織。
ずい【髄】(…略…) 動物の骨の中心にある空洞を満たす柔らかい組織。骨の髄。骨髄。
他の説明も総合して、こんな結論を得ました。
- 日常生活の中や食品を扱う場合には、今回骨の中に見つけたスポンジ状の組織を「骨髄」と呼ぶ。
- 医学的には、スポンジ状の組織を「海綿骨」と呼び、その海綿骨のすき間を満たす組織を骨髄と呼ぶ。