みぃちゃんの頭の中はおもちゃ箱

略してみちゃばこ。泣いたり笑ったり

明瞭精緻でよどみがない

2013年05月03日 22時25分17秒 | お仕事・学び
●「山の仕事、山の暮らし」(高桑 信一 著、つり人社)

新聞の書評で見て取り寄せた本。次に読む本を図書館や書店の本棚で探そうとすると、どうしてもそのときに関心を寄せている分野の本にかたよってしまいます。そういうときに書評が便利。書評をもとに本を選ぶ場合でも自身の興味というバイアスはかかりますが、新しい世界を発見することができます。

ただし、新聞の書評は読者が多いのが難点。新聞で紹介されると、たいていの場合は多くの人が殺到し、図書館で予約しても自分の順番が回ってくるまで長く待たされます。ところが、この本は誰も予約しておらず、すんなりと受け取ることができました。

山に暮らし、自然との関わり合いの中で生きる人々への取材です。登山家らしい力強さがみなぎる文章は、輪郭を彫刻刀で刻むかのように明瞭精緻でありながらよどみはなく、水も風もそのままの姿で行間に綴じ込まれています。写真からは、山道をかきわける膝にこすれる笹の音、ゼンマイをゆでた蒸気の熱、ナイロンザイルの武骨な手ざわり、照れ隠しの笑い声まで伝わってきます。温かみのあるモノクロ写真は全ページの半分ほども盛り込まれ、山の暮らしの一端を見せてくれます。

文章に「……のである」が多用されて耳ざわりな面もありますが、それも局所的なもの。名文です。ごちそうさま。

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