90キロで観光バス暴走、急な下り坂で26歳運転手は「ブレーキが利かない」と叫んだ
2022/11/13 09:12
【読売新聞社】
(読売新聞)
静岡県小山町の県道で先月、大型観光バスがカーブの続く急な下り坂を走行中に横転し、ツアー客ら28人が死傷した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)容疑で送検された運転手の男(26)(処分保留で釈放)が「平地を走る感覚でフットブレーキを多用してしまった」と、過失を認める供述をしていることが捜査関係者への取材で判明した。
事故から13日で1か月。県警の検証で、多用による過熱でブレーキの利きが弱まる「フェード現象」の発生が確認されるなど事故原因の解明も進んでいる。県警と静岡地検沼津支部は、運転手を除く負傷者26人(重傷11人、軽傷15人)の被害についても容疑者在宅のまま捜査する。
一方、重傷を負った女性客の家族が取材に応じ、女性から聞いた話として、横転直前の緊迫した様子も明らかになってきた。バスが時速約90キロで暴走状態に陥る中、運転手は「ブレーキが利かない!」と叫び声を上げたという。
取材に応じたのは女性の娘とその夫。女性は外出を嫌がるほどふさぎ込んでおり、「事故後の苦しみを知ってほしい」と訴える。
娘夫婦によると、女性は友人らとツアーに参加。当日は富士山須走口5合目で散策後、バスに乗車した。山道を下って次の目的地に向かう予定だったが、出発後数分で異常が発生した。
速度が上がり、添乗員が運転手にギア操作を助言しながら「スピードを落として」と求め、運転手が「ブレーキが利かないんだ」と答えるのが聞こえた。女性は怖くなり、座席でリュックを抱え込んで身を守ろうとしたが、横転で大けがをした。
女性は最近退院したが、一人暮らしで日常生活に不安が残り、家族が泊まり込みで介助している。女性は娘夫婦に「悔しい。バスに乗らなければよかった」と話すという。
事故直後、運行会社の「美杉観光バス」(埼玉県)と、ツアーを主催した「クラブツーリズム」(東京都)の幹部は、娘夫婦に「誠心誠意対応する」と謝罪したが、その後は女性を気遣う連絡はないという。娘は「母は大変な思いをしているのに……」と不信感を募らせる。取材に対し、美杉観光バスは「コメントできない」、クラブツーリズムは「対応の詳しい内容は差し控える」としている。