献体ずさん管理「どこでも起こりうる」 人員不足、現場の危機感
2023/01/18 16:30
(毎日新聞)
島根大医学部(島根県出雲市)で、解剖学実習などで使用するために提供を受けた献体のずさんな管理の実態が明らかになったことを受けて、毎日新聞は献体業務に携わる全国の大学関係者を対象にアンケートを実施した。
「圧倒的に人員が不足している」「このような事案はどこの大学でも起こりうるようになるのではと憂慮している」「予算縮小、教員数削減による組織再編で業務の継続性に問題が生じる可能性がある」など現場が抱える危機感が浮かび上がった。
島根大は2022年4月、事実を公表。外部調査委が7月に公表した報告書によると、17〜21年度に提供を受けた献体50体について、必要な防腐処置を怠っていたと発表。ホルマリン溶液を注入していなかったのが44体、処置が不十分で状態が悪化したものが6体確認された。ストレッチャーの上に積み重ねたり、一つの棺に2体入れていたケースもあった。
当時は大学院博士課程の学生でもある職員が、献体の防腐処置や管理、遺族との連絡調整などを1人で担っていたことが問題となった。周囲に相談できる体制はなく、職員補充の打診に大学側は応じていなかった。
◇全国91大学にアンケート
毎日新聞は22年10〜11月、献体に携わる大学と篤志家団体をまとめる「篤志解剖全国連合会」(東京都)に加盟する全91大学にアンケートを実施。51大学から回答を得た(回答率約56%)。
今回の問題をどう考えるか、担当者に自由記述式で問うたところ、「専任の技術職員の不足は深刻。目先の効用が現れにくい部分に用いる資源を節約するという風潮の中で、しわ寄せがある部分だ」(富山大)「解剖学の教育負担は他の基礎系教室の2倍かそれ以上。一方で昨今の教職員数削減により、解剖学担当教職員が抱える教育、研究、管理業務は増大している」(北海道大)など人員不足を指摘する声が挙がり、「複数人体制にするのが望ましい」との意見が相次いだ。
また学内のサポートやコミュニケーションの重要性を訴える意見も。「島根大の再発防止策を確認したが、人員は増員するが、業務のほぼすべてを解剖学講座(技術職員)に丸投げしている状況に変わりはないように思われる。大学事務側も積極的にサポートすべき」(東北大)「技術職員、教員を含め、解剖学講座内の円滑な連絡体制、意思疎通が重要。講座だけの責任ではなく、大学全体のフォローが必要」(札幌医科大)と答えた。
また、献体業務について、「担当者にとって精神的なストレスになることが多く、体調管理には注意を払っている」(松本歯科大)などの意見も。周囲の理解の低さをこの問題の背景とする指摘もあり、「献体管理という医学教育の根幹である業務に対する大学、ひいては国全体の無理解、軽視が根本であると確信している。人員の拡充、待遇改善は待ったなし」(慶応義塾大)と訴えた。
◇交付金削減、人員不足に影響
「大学への運営費交付金削減により、人件費予算が慢性的に不足しており、献体業務にあたる教職員を十分確保できない」(山梨大)とする声が上がるなど、人員不足は国立大への交付金削減に由来している。文部科学省によると、人件費などにあてる国立大学法人運営費交付金は04年度の1兆2415億円から22年度は1兆786億円と、減少傾向にある。同省の担当者は今回の問題について、「献体の意義に賛同する人に不信感を与えてしまう事案」とした上で、「各大学の優先順位もあると思うが、献体業務だけに何人もキープするというのもお願いしづらい。担当教員と情報交換をしながら問題の把握に努める」としている。
◇登録者「あるべき姿に」
「医学部47年目にして最大の問題ととらえている」。島根大医学部で昨秋、献体を申し込んでいる人たちでつくる「有終会」の年に一度の総会があり、鬼形(おにがた)和道医学部長は出席者に深々と頭を下げた。同大は22年7月、教授らでつくる「献体管理委員会」を設置するなどの再発防止策を発表している。「1人に任せきりだったのか」「学長が出てくるべきだろう」。この日、大学側の責任を追及する声が相次いだ。会員の島根県江津市、川崎泰孝さん(83)は「本当にこんなことが起きるのかと、信じられない気持ち。しっかりと信頼回復をして、一日も早く本来のあるべき姿になってほしい」と話した。問題を受けて同大は同12月、監督責任として服部泰直学長ら計6人が役員報酬の一部を1カ月自主返納すると発表している。【松原隼斗、目野創】