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91歳、現役介護看護師74年間さすり続けた掌のぬくもり

2022-10-23 20:02:25 | ニュース
91歳、現役介護看護師 74年間さすり続けた掌のぬくもり
2022/10/23 06:00

(女性自身)
「チエさん。ここは『ぬくもりの里』の談話室やで、わかる?」 「……」

介護スタッフの細井恵美子さん(91)が声をかけるが、車いすに座ってうつむいた状態のチエさん(80)は、無言のまま。

それでも細井さんは、根気よく語りかけを続ける。

「今日はあいにくの雨やなぁ、うっとうしいな」

やわらかな京都弁を口にしながら、細井さんが自らの左手をチエさんの背中に当てたとき、ようやく彼女の首が「うん」とうなずくように、小さく動いた。

「お返事、ありがとう。元気そうやね。じゃ、お薬飲みましょか」

服薬の介助を終えると、次には隣で計算ドリルをやっている女性の元へ。

「ヤスコさん。3×2はいくつですか……違う違う、足すのやない、かけるんやで」

その後も、血圧を測ったり、入浴を終えた利用者の髪の毛をドライヤーで乾かしたりと、5人の高齢女性を相手に、一瞬たりとも休むヒマはない働きぶりだ。

10月初旬の金曜日の午前。朝から冷たい雨が降り続いており、屋外での体感温度は10度近かった。

ここは、京都府木津川市の山あいにある「山城ぬくもりの里」。特別養護老人ホームやケアハウスも併設する総合福祉施設だ。

デイサービスの談話室での光景は、一見、どこにでもある介護の現場のようだが、ほかの施設と大きく違うのは、介護職で同施設の顧問も務める細井さんが91歳で、利用者たちが80代や70代など、介護者より年下ということだ。

「今日の5人の方たちは、全員が認知症を患っていらっしゃいます。私は17歳で看護師になって74年になりますが、看護や介護の現場でずっと大切にしてきたのは会話。それは、認知症の方を相手にしたときも同じです。

私、病棟勤務のころから、ナースステーションにいるより現場が好きな、おしゃべりな婦長さんで有名やったんです(笑)。

この年やし、こんな小さな体ですから、体力では若いスタッフにかないませんが、会話なら年寄りの私でも自由にできるでしょう」

なるほど、細井さんが利用者と目の高さが同じになるまで腰をかがめ、まずは「○○さん」と呼びかけると、それまで無表情だった相手も自然に笑顔になるのだった。

同施設を運営する「らくじ会」の森山憲克社長(43)が言う。

「しかし、同じことをしても、若いスタッフでは、ああはいきません。細井さんの長年の経験と人心掌握術、加えて、やはり利用者の方と世代が近いことで、互いの距離感も近くなるようです。

うちはグループ全体で670人のスタッフがいますが、細井さんは間違いなく最年長者で、唯一無二の介護界のカリスマです」

■利用者の話に合わせていると、その人がどんな人生を送ってきたか分かり、会話の糸口に

「勤務は朝の10時から17時30分まで。お昼を食べるときを除いて、私、ほとんど休まんのです。自分で言うのもなんやけど、よう仕事してますよ(笑)」

80歳まで施設長を務め、現在は顧問として月・水・金の週3日の勤務。6時間半をかけて各施設を回り、利用者への声かけの「ラウンド」を続ける。

「まあ、かっこよく横文字でラウンドなんて言いますけど(笑)、私は、もう70年以上、ただ現場が好きやから回っているだけ」

その仕事ぶりに密着した日も、濃紺の制服姿の細井さんは、ほとんど立ちっぱなし、動きっぱなしだった。

大谷直美さん(55)は、同施設の設立時から細井さんと共に働くベテランの介護スタッフだ。

「私が細井顧問から最初に教わったのは、『相手を敬う心』でした。その一つの表れが、目を合わせての会話です。

それを思うと、コロナ前は、この談話室のテーブルも円形に配置され、みんなの顔も見え、コミュニケーションも取りやすかったのが、今は全員が前を向く教室のような配置なのが少し残念です」

当の細井さんは、いつもと変わらず、マスク姿で利用者との会話を続けていた。

「挨拶一つから、その方の状態がわかる。昨日まであった返事がなかったり、逆に妙にテンションが高いと、熱があったり。

誰もがいちばん反応するのは、やっぱり、お母さんの話やね。100歳近い女性が『お母ちゃんが家で心配しとるから、はよ帰らんと』と言う。80代の男性は『さっき、おふくろにゴツンとやられた』とニコニコ頭をさすってる。ああ、きっとやんちゃ坊主だったんやろうなと想像しながら聞くんです。

無理に話を合わせようともしません。つじつまが合わん話には、一緒にケタケタ笑ってます。

そうやって話してるうちに、その人にどんな家族がいて、どんな人生を送ってきたかがわかり、その後の会話の糸口にもなります」

そう語りながらも、利用者の湯飲みをチェックしながら、こまめにポットとテーブルの間を往復する細井さんだった。

ずっと気になっていたことを、尋ねてみた。自分より年下の利用者を介護することを、どう感じているのだろうか。

「私は、お相手が年下とか年上とか、認知症であるかなどは、あまり考えません。それ以前に、まず一人の人間として向き合おうと思ってるだけなんです」



■当面の目標は100歳まで現役でいること。「もうけっこうです」と言われるまで働く

「5年前から、一人暮らしです。朝は6時に起きて、朝食を済ませると、家を出て1時間かけて電車で通勤してます。

帰宅後は、すぐに夕飯の支度。献立はバランスに注意して、肉と魚を交互にしたり、豆類を入れたり。あと、チーズは毎日食べます。

睡眠時間は8時間。でも、休みの前は夜中の1時まで起きてることもありますね。なにしてるかって? 本を読んだり、パソコンのメールをチェックしたりです」

たしかに、自宅リビングのテーブルの中央には、デンと1台のノートパソコンが。

「私、もともと機械好きで、タイプもワープロも覚えるのが早かったんです。パソコンもすぐに使い始めましたし、LINEやZoomで打ち合わせもしますよ。

だから、『女性自身』の記者さんからはがきをもらったときは、いまどきはがきなんて、どんなおじいちゃんが取材に来るんやろうと楽しみにしてましたよ(笑)」

趣味や息抜きも、「必要ない」と言う。

「まあ、91歳だから、疲れて、フ〜ッもあるけど、働けるのは楽しいし、ときどき2人の孫や4人のひ孫も遊びに来てくれるしね。

老いると、誰でもいろんな機能は落ちます。これも、介護と同じで、自分自身とどう向き合うか。できないことを嘆くのやなしに、できることを見つけて、さらに磨きをかけることが大事。

私が、もういっぺん勉強したいと佛教大学に入学したのは48歳。通信で卒業まで10年かかりましたけど、生きる張りになりました」

当面の目標は、100歳まで現役でいること。

「それを達成するためには、心構えとしては、その10年先まで見据えて『110歳まで頑張る』ことを目標にせなあかんと思うんです。

これからも日々の出会いや会話を大切にしながら、『もうけっこうです』と言われるまで、働けるだけ働こうと思うてますけど、いや、私、欲張りやろか(笑)」

(※文中の施設利用者の方はすべて仮名です)

【後編】91歳、現役介護看護師の74年間 利用者と目を合わせ、話に耳を傾け、肌を合わせるに続く



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