判事ディード「法の聖域」の最終回は「害悪の痕跡(原題はEvidence of Harm)」です。
私は、素直に「損害(あるいは有害)の証拠」が良いと思います。
幻の2話
実は、最初のBBCの放送時には、沈黙の侵略(Silent Killer)(第22話)と戦争犯罪
(War Crime)(第23,24話)との間にもう2つのエピソードがあったのです。
「One Angry Man」 と「Heart of Darkness」です。
メインは「Heart of Darkness」の方ですが、その前哨戦的に「One Angry Man」
の方でも、扱われている「三種混合ワクチン」について、ドラマでは危険だとしているの
ですが、これは信頼性に欠けるということで、DV化の際以降、ドロップされました。
日本でも三種混合ワクチンの有効性と副作用との関係について、議論があり、
必須接種から任意接種に変更になっているはずです。
詳細は分かりませんが、インターネットでのプロットの紹介などを見るとこのようなことが
あったようです。
「One Angry Man」では、とうとうディードが陪審員を務めることになったようです。
長期にわたるもので、イアンの妨害計画は着々と進行していたのです。
「Heart of Darkness」では、ジョーはマークに対する不信感はあるものの結婚式の
設定にこぎつけましたが、ディードの嫉妬から式のリハーサルに遅刻したり、式当日の
朝に開かれる司法関係の会合に出席を強制されるなどの妨害があるので、結局は、
結婚は取りやめになったのではと推測します。しかし、ディードは一方ではモラグとの
関係は続けているようです。
22話から引き続くイラク未亡人の事件(モラグ担当)とワクチン接種拒否事件(ディード
担当)の結果について懸念する政府は、ディードとモラグに対する陰謀を企てたようです。
モラグはディードと別れることにし、ディードについては、ICCへという道筋ができたのでは
ないかと推測します。
ディードの陪審員としての働きぶり見たかったですね。久しぶりの700万越え、730万の
視聴率でした。
解説
1 今回のテーマはひとつはLeagal Aid(司法支援)です。
イギリスの司法支援は充実しているといわれています。
しかし、一方で、その額が大きくなることに対する批判もあります。
たとえば、ブレア元首相夫人のシェリー・ブレアやキャメロン首相の弟について、司法支援
から多額の収入を得ていることが話題になっていたと思います。
司法支援は政府や弁護士会から独立していますが、財源は税金ですから、政治の影響
があります。
である以上、今回のドラマのように、政府に不都合な争いに関しては支援をしないという
こともあり得ます。
50%以上勝訴のチャンスといいますが、実際は、明らかに不当なものでない限りOKなの
ですが、それが口実になります。
また、仕事についての競争がなくなれば、弁護の質も落ちてしまいますし、政府側に都合の
いい弁護活動をする者を優遇するなどもあり得ます。
今回のドラマの背景には、そういう深刻な問題があるのです。
日本も法テラスができましたが、むしろ提供するサービスの質は低下したとの声を利用者
から聞きます。
2 もう一つは、司法支援を通して、政・産・官の癒着に取り込まれる司法の危機感を描いたのだと
思います。
ジョン・チャニング卿が今回の見直し裁判から手を引くようにイアンから懇願されたときに
「正義の女神ユスティティアが伝統的に遠くを見つめている姿で描写されるのは、ジャジは
個人の当惑・厄介とか、特に政府の当惑・厄介などといった、無関係なことに影響されるべき
ではないとの理想があるからだ」と説明していました。
今回のテーマはやはり、政治のご都合で司法は振り回されてはいけないということだと思います。
天秤と剣を持つテミスの像はあちこちで見ますが、こういう深い考えがあったのですね。
なお、もともとは目隠しかもしれませんが、実際は目隠しなしが多いと思います。
ジョン・チャニング卿も目隠しではなく「disatntly」と表現していたのはそういうことと思います。
ロンドンの刑事裁判所の正義の女神の像です。
目隠しなのでしょうか。それともなしでしょうか。私には遠くを見ているようにみえますが。
それはそうと、最近の回では、ディードは伝統のあるロンドンの中央刑事裁判所で執務する
ようになっていますが、古いだけに判事室も含め、狭いようですね。
なお、イアンがICCにいると思ったなどと言っていましたので、戦争犯罪のときだけではなく、
そうするとハイコートジャッジとの兼務なのでしょうか(念のため、ICCの裁判官の任期は
9年です)。
3 メインは司法支援の打ち切りを妥当と認めたニヴァン判事の決定の適法性ですが、
全部を見直すというのではなく、ニヴァン判事に偏見、バイアスがあったかどうかです。
その見直しを、ディードがすることになったのです。
最近のディードはやや慎重になっていてジョーが代理人の裁判を回避したいようですが、
引き受け手がなく、やむなく担当することにしたのです。
ところで、高等法院には3つの部(Divisin)があり、通常は一人の裁判官が担当しますが、
事件によってはDivisinal Courtと言って2人または3人で審理しなければならないものが
あるようです。本件は、そういうものだったのですね(多分、いったんなされたDecisionの
見直しReviewなので、日本の抗告のような感じかもしれません。ハイコートジャッジの判断
に対する見直しなので、一人ではできないということだと思います。)。
イギリスでは事件の担当はややいい加減に決まっているようなので、こういうこともあるのでしょう。
だからこそ、ニヴァン判事が担当することになった経緯が問題とされたのです。
ニヴァン判事は医学の勉強もしてたのですね。
ニヴァン判事が医師や医薬品業界と近いことについては、チャーリーが大学性の時に
マッキンゼー・フレンドとして、エイズの母親の代理をした件で、既にチャーリーが指摘していましたね。
一人での審理は、当然無効になる可能性があるのですが、ディードは強行します。
ジョン・チャニングは、いったん断ったものの、ディードに助け舟です。2人で審理することにした
のです。イアンであれ、ディードであれごまかしには屈しないと言っていましたが、根っからのジャッジ
なのでしょう。あるいは孫娘のチャーリーの頼みだったこともありそうです。
しかし、もっと根本には、近年の政治や官僚の干渉に我慢がならなくなっていたのです。
最初はニヴァンにバイアスがあったかどうかが審理の対象のはずでしたが、これは、審理を始める
ためのディードの作戦だった可能性があります。
本件について調査を進めるにつれ、見知らぬ女性に誘われたり、尾行されるなど身辺に不審な
動きが見られるようになり、またチャーリーが家探しにあったり、専門家証人の自殺に見せかけた
死など真相隠ぺいの工作などがあり、例の嗅覚で、何かがあること睨んでのことだったのです。
また、法廷の使用も妨害されます。アスベストが口実です。ということは、イギリスでもアスベスト
の被害が明らかになっていたのですね。おもしろいですね。
いずれにしても、ここまで妨害があるということは、トップが深くかかわっているということです。
ジョーが、内務省、健康省の事務次官と製薬会社のCEOの三者会談があったことを明らかに
するや、すぐさま実体審理に入ることを宣言しましたが、これは最初からの計画かもしれないです。
司法委員会の代理人のピーターが反対すると「ICCのやり方は違っている、その影響かもしれない」
などと煙に巻いて一向だにせず、強引に進めます。
司法委員会の担当者、内務省の事務次官、次局長、製薬会社のCEOと大物を次々を喚問して
行くのは、気持ちいいですね。
これはもう、ディードの独り舞台です。法廷侮辱罪に問われて、身柄拘束されるなど(ディードなら
やるかもしれません)みっともないというわけで、みんな応じないわけにはいかないのです。
司法委員会の担当者から内務省の関係者の名前をうまーく聞き出しましたね。挑発して証言させる
ディードのテクニックは凄いですね。
事務次官は民間緊急事態法の修正法案のことをつい喋ってしまいます。
ディードが背後の動き、真相を知るきっかけになります。
例によって、事件の関係者の協力を得て、HDDの不正操作を暴き、専門家証人の証言で、兵士
たちに投与されたワクチンの有害性(1000人のうち2、3人)を、製薬会社も政府も最初から
知っていたことが明らかになります。
4 結局、この修正案というのは、将来に向けてというよりは、むしろ、このワクチン事件について
製薬会社に免責を与えることを目的とした動きだった可能性があります。
修正案が成立する前に、ワクチンの有害性やそれを最初から知っていたことなどが明らかに
なっては、修正案の目的が一般に知れてしまいます。当然、成立はあり得なくなります。
そこで、この事件を葬ることにしたのです。
司法支援をするしないは司法委員会が決めること、内務省や製薬会社は関係ない、それに
法律が専門の司法委員会が勝訴の可能性がないと判断したのは、ワクチンが有害だと認め
られなかったからだ、と主張できるわけで、これ以上に好都合なことはありません。
これまで、ディードの暴走?を止めるために、イアンやニール、法務大臣たちが集まり、いろいろな
方法を検討しています。スパイ係までいます。そして、ディードを陪審員にするとかICCに送り込む
とか、想像もつかないような方法を取っています。ニールがいうように陪審員なんて本来、無作為
のはずですが、そんなことはどうにでもなるというわけです。
また、民間会社は事業に莫大な投資をしています。ですから、儲けの邪魔をするような者に対しては
手段を選ばない、全く躊躇しないというわけです。
善良な市民には想像もつかないような企みが常に行われているということです。
5 結局、審理の結果、ニヴァンが司法支援の中止の決定をしたのは、バイアスでないことはわかりました。
ニヴァンの知らないところで不正操作がおこなわれ、勝訴の可能性がないとされたのです。
しかも、勝訴の可能性がなくなったのは、専門家証人が死亡したからです(これは
自殺ではなく、自殺に見せかけた殺しだったのです。ギャンブルをまったくしないにもかかわらず
ギャンブルの借金で困っていたなどの偽の証拠を作っていたのです。警察を管轄する内務省なら
簡単にできることです)
そういう意味では、ニヴァンの決定は間違っていなかったわけです。
しかし、さらなる審理の結果、勝訴の可能性がないどころか、政府も製薬会社も最初からワクチン
の有害性を知っていたことがわかりました。だから不正操作をしたのです。
訴訟をすると50%チャンスどころか勝訴の可能性が大きいのですから、チャニング卿は見直しを
するよう命じたのです。
なお、冒頭で題は「損害(あるいは有害)の証拠」の方がいいと書きましたが、今回の争点は
「50%勝訴の可能性」なのです。訴訟を提起するための第一歩である司法支援を得ることができな
ければ一歩も進みません。
「50%勝訴の可能性」すなわち「損害(あるいは有害)の証拠」です。
ディードは何度も専門家の証人がいなければ駄目だというのはそういうことなのです。
ですから、相手も自殺に見せかけた殺人やHDDの書き換えなどの証拠隠滅をしているのです。
6 弁護士は本来、不正と戦う存在です。しかし、税金で賄われることで、その財源の
分配元である政治や行政の支配下に組み込まれてしまったのです。
前途洋洋、新進気鋭の弁護士生活をスタートさせていたはずのチャーリーが、仕事がないと
愚痴っていました。
いずれは、CPSに登録するかもと言っていました。また、新しい仕事は、どうやらそういうところ
から来たようです。
日本でも、法科大学院ができたものの司法試験には合格できず、また司法試験に合格したもの
の卒業試験に失敗し(ただし多くは追試で救済)、ようやく弁護士になったものの仕事はなく
イソ弁どころか軒弁でも良い方、法テラスや国選などの割り当てがほとんどなどとあまり明るく
ない感じです。
今回のドラマは法曹界の問題提起もあるように思います。
7 それにしてもハイコートジャジの権限は強大ですね。
以前ディードは、不正との戦いについて、中にいて中から戦う、と発言していましたが、そのとおり
ですね。ハイコートジャジの身分があるからこそできることです。
窓際に追いやられそうなのですが、反骨精神と群を抜く優秀さと有能さで生き残っているのです。
また、ディードの正義が人々の良心を覚醒させ、共感を呼ぶのです。そういう意味では、
権力の外には健全な良識が残っているのです。
ジョーは過激グループの仲間になったようですが、良識的な世界で正義を貫くことは難しいという
ことなのでしょうか。
8 ディードは国際組織であるICCから何を学んだのでしょうか。
今回のディードの法廷は、going my way だったようです。それがICCから学んだこと?
その可能性もあります。
というのは、ICCは国際的な組織です。こういう組織って、誰の監督を受けているのでしょうか。
誰の利益のために働いているのでしょうか。国際社会というのは、国と違って、統一体ではあり
ません。圧力団体などないのではないかと思います。
ですから、力があれば、自由に動けるのではと思います。
9 ドラマというのは、回が重なるほど、複雑になってきます。
複雑になればなるほど、カッコよく一刀両断的にはいかなくなります。
ディードも悩みは深くなるばかりです。ジョージすら本来ならば内務大臣をパートナーに得て
幸せなはずですが、そうでもなさそうです。
人生も同じです。長く生きれば生きるほど問題がいっぱいです。盛りを過ぎて朽ちていくわけです。
国も同じです。アメリカをみてもわかるように、アメリカ一強から普通のアメリカへ移行を始めた
ようです。
司法の世界がどうなるのか、私たちに大きな問題を投げかけて、ディードのドラマは終了を迎え
ました。
海の向こうのドラマの世界だけの問題ではありません。
私たちの現実社会の問題でもあります。ディードのドラマを見たことで、気づいたり、
考えさせられたりしたことがたくさんあります。
そういう目で、私たちが生きている社会をもう一度見直してみたいと思います。
約半年間でしたが、日本の現実の社会では、東日本大震災、原発事故の発生から一段落した
時期です。何かが崩れてしまいました。
新しい社会がどうあるべきか、まだまとまりませんが、このドラマから学んだことから何かヒント
が得られるように感じています。
10 埋葬の場での弔辞?はイギリスの19世紀の詩人クリスティーナ・ロセッティの「Remeber」
の最後の部分でした。
全部の朗読(約1分)を見つけました。聞いてみてください。ここをどうぞ。
こういうのも楽しみのひとつでした。
11 私のつたないコメントを楽しみにしていてくださった方がいらっしゃらなかったら、ここまで続けられ
なかったと思います。
ありがとうございました。
これからも、ディードのことはときどき思い出すはずです。
毎回言い足りないことがいっぱいでした。一度、場外で盛り上がってみたい気もします。
では・・・・・
そして、本当に有難うございました。
英国ではディードよりも、さらに深いリーガルドラマがあるとのことですから、今後、さらに、太田先生が本領発揮できることと楽しみに致しております。
まずは、お休みになって下さいませ。
お疲れ様でした。