9月20日、旭川にて学生時代の同期と、今年も一夜かぎりの狂乱の宴を行うこととなった。
いつものメンバーは、私、EK君、N君、I君の4人。
この集まりは、11年前に、EK君・N君・私の3人で、旭川で当時無職だったN君を「励ます会」として始まり、
大体一年に一回は「大会」と称して主に旭川に集結している。
6年前にI君が参加。今年で結成11年。今回が12回目の開催となる。
しかし今回はリーダー格のN君が、残念なことに負傷欠場。
ところがI君の勧誘で、学校卒業後12年ぶりの再会となるS君の参加が決まった。
集合時間:PM7:30。集合場所:旭川駅前。
ちょっと早めに到着した私、EK君、I君の3人が
プラモ屋、アニメショップに立ち寄ってから、約束の時間に駅前へと向かう。
待ち合わせ場所には、12年前とまったく変わらぬ姿のS君がいた。
久々の再開にもかかわらず、ものの数分ですぐに意気投合。
一次会はしゃぶしゃぶ食べ放題の店。4人で2時間ノンストップでしゃべり続ける。
互いの不健康自慢、仕事の話、欠場したN君の話などなど、
いくら話してもネタが尽きることはない。
一次会が終了。
この時点でI君はすでに泥酔状態、EK君、S君はほろ酔い状態、飲めない私はシラフ。
さて二次会はカラオケである。
いつの頃からか、この会はカラオケ大会がメインとなり、
選曲はアニメ・特撮ヒーローもの限定という非常に異様な集団と化してしまった。
S君は明日仕事なので、am0:00まで参加とのこと。
入店に際しては、幹事であるEK君にすべてお任せ。
伝票を見る。
え!終了時間am6:00?! まま、まぢで!
さて、カラオケ大会がスタート。
ほろ酔いのS君とEK君がじゃれあっている。
まるで15年前の光景そのままだった。
泥酔状態のI君は、飲み物を運んでくる女性店員がくるたびに
何か話しかけている。非常にあやしいおっさんの集団である。
アニメ・特撮モノばかり歌いつづける私とEK君。
ある意味異様ともいえるこの雰囲気にS君は、こういった。
「これはありえない!こんな集まりはどこにもない!」
S君は我々を受け入れてくれたのだ。
彼はam0:00で帰るはずだったのが、よほど名残惜しかったのか、
予定時間を一時間延長し、am1:00になってようやく重い腰を上げた。
部屋から退出する際には、
「また集まるときは、必ず声をかけてくれよ!絶対ね!」
それぞれとがっちり握手。感動的なシーンであった。
前に参加した某氏は、この異様な光景を目にして「用があるから・・・」と
逃げ帰るようにして退散した。それ以来彼に会うことはない。
当然と言えば当然だ。
こうして我々の会(通称:某会)に、「超友」がまたひとり一人加わった。
毎回必ず何かが起こる某会。
やはり今回も、新メンバー加入というすばらしい記念日となった。
am1:00、二次会第二部スタート。
・・・え!?第二部?!
そういえば前にも、店を変えてカラオケに興じるということがあったが、
経費節約のためこの方式は封印していた。
それよりなにより、この方式は体力を激しく消耗するのである。
休憩を挟んでのカラオケ大会。
一度クールダウンしたあとに、もう一度テンションを上げるというのは
若いときであれば可能だったが、もうこの年ではキツい。
おまけにこの日の昼間、肌寒かったにもかかわらず子供の外遊びに
長時間つき合わされ、体力はかなり消耗していた。
そして家族を置き去りにし、夜を徹して遊ぶというこの日のために、
前日まで家族に対しては普段以上に気を遣っていたせいか、
なんとなく胃の調子が悪かった。
今思うとストレスからつい食べ過ぎの日が続いていたかもしれない。
さらに今回は体力温存を考慮し、バスでの移動を試みた。
しかしこれが見事に裏目に出てしまった。
バスでは車内での空気調整のためエアコンがかかりっぱなし。
まず乾燥した空気でノドをやられてしまった。
私は極力自分の車ではエアコンを付けない。
エアコンで調整した車内の空気というものはどうやら私の体にあわないのだ。
しかしこの日は、バスで3時間の移動。身体全身に違和感を覚える。
前日までは入念に体調管理を徹底していたつもりだったのだが、
ここに来て思いっきり最悪のコンディションに陥った。
そんな状態で、第二部が始まる。
I君は開始間もなくして轟沈。深い眠りにつく。
EK君は一次会の様子とは一変して、おもむろにケータイを取り出し
なにやらセッティング。先ほどとは気合の入り方が違う。
高校時代の友人(以下、YS君)から、歌唱法の「特訓」を受けた後、
彼から某会対策としてのアニソンCD集(4枚組)を贈ってもらい、
そして今回勝利を収めるための曲目リストを、メールにて伝授されたようである。
YS君はEK君が『師匠』と仰ぐほど歌が上手だそうだ。
EK君を見る限り、先日行われたという「特訓」の成果は十分に発揮されていた。
そして私が最も驚いたことがある。
YS君は今回の私の選曲(新ネタ)を的中させているのである。
YS君とは、EK君の結婚式で同席しているそうなのだが面識はない。
会ったこともないのに、私の考えていたことを的中させてしまうとは・・・
私は『ただならぬ気配』を感じ、YS君は『相当な実力者とみた』
EK君は師匠の教えを忠実に守り、曲目リストに従って次々と「これぞ某会!」というような曲を連発。
私は完全に後手に回り、明らかに劣勢である。
日中、子供の外遊びで体を冷やし、バス内のエアコンですっかり体調を崩した私。
そしてしゃぶしゃぶ食べ放題・・・結果は言うまでもない。猛烈な腹痛が襲ってきた。
トイレにたつ回数が増えてくる。飲み放題なので、のどを潤すために摂取する
ソフトドリンクの量は相当なものである。これが腹痛に追い討ちをかけて、
ついに私の腸が破壊された。トイレに行くたび得体の知れない液体がとめどなく放出される(汚)
尿意もハンパではない。そしてここ一週間前からの食べすぎによる慢性的な胃もたれ。
二次会の途中で、胃腸ともに完全破壊されたのだった。
昨年5月のこの会は、焼肉&カラオケであった。カラオケはやはり飲み放題だった。
このときも私の胃腸は完全に破壊され、大会終了後泊めてもらったI君宅で悶絶したのだった。
前回と同じ展開、いやあのときより状態は悪いかもしれない。
「~♪ゴリラ!ゴリラ!ゴリラ!♪~」とEK君は絶好調である。
特訓の成果にプラスしてN君がいないせいだろうか、この日のEK君は実にのびのびとしている。
あぁ、アルコールも入ってたっけか。
私も応戦しようとするが、腹の激痛には耐えられない。
am3:00、ついに私は停戦を申し込む。
「ちょちょ、ちょっと休憩を・・・」とまたトイレに駆け込む。
なんだか吐き気もしてきた。
~インターミッション(休憩)~
ここから、EK君と所帯持ち同士の「不幸自慢合戦」が始まる。
ウチに帰ってきてゴロゴロしながら屁をこいては妻子のヒンシュクを買うという
「ダメオヤジ」ぶりなら負けない自信はあったが、そういったミクロで低俗な話にはならなかった。
そしてここでも私は分が悪かった。
一次会のとき、民間企業に勤める私以外の3人が仕事・普段の生活の話になった。
「帰宅は10時過ぎだから子供の寝顔しか見れねぇ~」
「オレは毎日0時過ぎるぅ~」
毎日6時に帰宅し、子供と一緒に風呂に入り、たまには家族の中で一番早く寝るという
この私がこの会話の中に入っていけるわけがない。
私と私の家族は、不景気と呼ばれる時代に夜遅くまで激務に耐え貫き、働いている方々が納めた税金で、
毎日のうのうと暮らしているのだ。
というわけで、この不幸自慢対決においても、私の劣勢は変わらない。そして一時間の休憩が終わった。
私はこの休憩の間、実は「じゃちょっと早めに切り上げよう(終わろう)かぁ」という言葉が
でてくることをひそかに期待した。腹が痛くて痛くて耐えられそうにないのだ。
しかし、なぜ自分から言い出さなかったのか・・・。そんなことが許される雰囲気ではないのだ。
室内には私とEK君、そして熟睡しているI君。
・・・でもなぜかもう一人いるような気がしてならなかった。
私が「帰ろう」と言い出したところで、相手はEK君しかいない。
しかしそれは許されない。
なぜなら、ここにはいない「もう一人」が絶対に許すわけがないのだ。
「歌い足りない!」そんな声が聞こえてくる。
その声の主は、N君である。
いつもこのカラオケ大会において、類まれなる澄んだ声で歌い続け、
午前5;00頃、神のごとく光り輝き、某会の頂点に立つ王者、それが彼である。
もちろん彼は死んだわけではない。腰の手術を終えて現在は地元で静養中だ。
生きてるんだから、霊魂となるわけがない。
しかし彼がいないこの部屋に、彼は間違いなく「いた」。
少なくとも私はそう感じた。
絶対彼がそう言うに違いないのだから、ここでやめるわけにはいかないのだ。
am4:00二次会第三部スタート。三部構成~これも、某会史上初の試みである。
私の口からは「歌えるかなぁ~」「あと二時間もつかなぁ~」と
弱気な言葉しか出てこない。腹痛&吐き気は相変わらずなのである。
・・・ちょっと待てよ。私は何か大きな勘違いをしているような気がしてきた。
今回のカラオケは、いつも我々を圧倒するN君を打倒するべく、
「史上最大のリハーサル」とするはずだったのでは・・・?
そうだ!彼にトドメを刺す歌として用意した曲(ツインボーカル)の練習だ!
EK君も快諾。しかし二人で歌い始めては見たものの、私は腹が痛いのと胃のむかつきで、
ハモることなんて考える余裕すらない。
結局、N君対策用の曲はお粗末な結果に終わる。「勘違い」はやはり勘違いでしかなかった。
ということは、やはりEK君との一騎打ち・・・こ、これじゃただの潰し合いじゃないか・・・。
しかし私は、N君が復活し最期の闘いとなるかもしれない「最終決戦」を前にして、
ここで潰されるわけにはいかないのだ。
EK君は虎の巻を有効に活用し、ますます快調に次々と新ネタをたたみ掛ける。
私はもうノドが限界に近づいてきた。
終了まであと約一時間。am5:00になろうとしている。
我々が入室した部屋の階には、もう我々の他は誰もいなかった。
相変わらず襲い掛かる尿意、便意。
「♪ズバババン!ズバン!♪」EK君の勢いが止まらない。
私は焦るばかりである。しかしここでちょっと幸運がめぐってきた。
探していたが見つからなかった曲がここにきて見つかったのである。しかも二つ。
早速入力。一曲目。あぁ、もう声がでない。
二曲目。これは次回まで温存しておこうと思っていたが、緊急事態だ。やむなく入力。
「ダァッシュ!!ダァッシュ!!」 よし、成功。
終了まであと20分。
最後はアレでいくしかない。しかしまだアレを出すには早過ぎる。
それまで何とか持たせなくては・・・苦肉の策で旧ネタをつなぎ技として歌う。
インターホンが鳴り響く。終了10分前の合図である。
EK君、ついにN君がかつて歌っていた歌をも、自分のものとしてしまう。
私も第三部の途中でN君が歌ったことのある曲にトライしたが、
全然声がでなかった。彼の音域の広さに改めて脱帽した。
am5:52、順番からするとトリはEK君なのだが、時間がないことと
さすがに疲れたかEK君は事実上のギブアップ宣言。
「それでは・・・」と私は最後の曲を入力。最終兵器である。
ツインボーカルの歌なので、EK君に一緒に歌うか一応打診するも
「ムリムリ、もうムリ」との回答。
・・・一人で歌うのか・・・いよいよ最後だ・・・声は出るだろうか・・・
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'04年11月、私は戦隊ヒーロー主題歌で王者・N君を打倒しようと試みた。
これに呼応しEK君も、同ジャンルでN君を追い詰める。
彼は静観していた。私はトドメを刺すべく最後に用意していた戦隊モノの曲を入力。
しかし、いざ歌おうとしたら、キーが高くて全然歌えない。
大 失 敗
中途半端に歌い終わった私の情けない姿を見計らったかのごとく、
最後はN君が見事に締めくくり、堂々と王座防衛を果たした。
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あのときの記憶が鮮明に蘇ってきた。
曲のタイトルが画面に映し出された瞬間、私は仕事のこと家族のこと、そして激しい腹の痛みさえ忘れた。
今まで生きてきた中で、こんなに全神経を集中するのは初めてかもしれない。
目の前にはEK君しかいない。I君は熟睡中である。
I君にはとりあえずまだオネンネしておいてもらおう。
私は、EK君と「もう一人」に向かって標準を定めた。
ロックオン。
息を吸い込み発声する瞬間、何か不思議な力が体の奥底からこみ上げてくるのを感じた。
「ストーーーーーーーーーーム!」
決まった。カンペキに決まった。
「不思議な力」は、次から次とあふれ出てきて、多少のミスはあったものの
あれだけぼろぼろの体だったのに、フルコーラスを歌いきってしまった。
目の前にはポカーンとしているEK君。
「あさの6時にストームかぁ、あさの6時にストーム・・・」
そう彼はつぶやいていた。その表情は悔しそうにも見えた。
私はその姿と自分でも信じられない力が出てきたことがおかしくなってきて
「アハハハハ」と声を出して笑おうとした。
・・・・笑い声がでない・・・・
am5:58、すべてが終わった。
寝ているI君を起こし、我々は店を出る。am6:00、外は快晴である。
まずI君がタクシーで自宅へ。
この日の彼は、一次会で誰よりも早く酔っ払い、カラオケ店ではろれつが回らず
何を言っているかわからないほど泥酔しまくり、女性店員にちょっかいを出し、
カラオケを数曲歌って、約5時間眠り続けた。
しかし、なぜか彼はこの会に欠かせない人物の一人となっている。
また次回も声をかけたら来てくれるような気がする。
いったいなぜ彼は来てくれるのだろうか。彼もまた「超友」の一人なのである。
店を出ても「あさの6時にストームかぁ・・・」と繰り返していた同じく「超友」EK君。
最後に出てきた言葉が、この日の彼を象徴していたように思う。
「いやぁ~、今日はとても勉強になったぁ!」
その言葉は非常に力強く、自信に満ち溢れていた。
彼は確実にグレードアップしている。次回大会で台風の目となることは間違いないであろう。
私が歌った最後の曲は、旭川から数十キロ離れたもう一人の「超友」N君に向けてのものだった。
彼に声が届くはずもない。当たり前だ。彼はまだスヤスヤと眠っていることだろう。
それなのに・・・
いったい我々は何のためにこんなに熱くなっているのだろうか。
普通の友達としての存在を超えた友・・・それが「超友」である・・・
私はインターネットカフェへ、EK君は自宅へと帰宅の途につき、今年の某会は散会となった。
EK:「じゃ、股!」
私:「股来年!」・・・自然と口から出てきた。
※股!(読み・マタ):我々が交わすあいさつ
え~~また来年やるのぉ~
自分で放った言葉が信じられなかった。
おわり
最後までこの駄文を読んでいただき、少しでも共感した部分があるという方が
いらっしゃったとしたら、あなたと私は「超友」になれるかもしれません。