1995年の公開の映画『アンダーグラウンド』は、旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァ監督による、いかにもヨーロッパ映画らしい映画である。監督の妄想が、大音響のブラス楽器のバルカン半島特有の音楽とともに、171分の長さで繰り広げられる。ユーゴスラビアに内乱が起き、国が消滅したときに、クストリッツァ監督は悲しみと怒りを笑いの中に押し込めて、この映画を作ったのである。
妄想のシナリオを説明するのは私には難しい。つじつまの合わないことの連続である。
舞台は、ドナウ川のほとりの、ベオグラードの地下豪(アンダーグラウンド)である。ベオグラードはクストリッツァ監督の祖国、旧ユーゴスラビアの首都である。
ナチスドイツの軍事侵攻の1941年、詩人で共産党員のマルコが、大きな地下豪に一族や親友クロをかくまい、武器を製造させる。ここから、もはや妄想である。クロの妻は息子を生んで地下で死ぬ。戦争が終わっても、マルコは地下豪で武器を製造続けさせ、富を築くとともに、チトー体制のもとに共産党の中で出世していく。
ドイツ侵攻から20年後、マルコはクロをパルチザンの死んだ英雄に仕立てて映画まで製作する。その撮影の最中に、クロは息子とともに外の世界に飛びだして、俳優を本当のドイツ人将校と思って殺してしまう。クロの息子は初めて知る外の世界でドナウ川で溺れ死ぬ。
それから30年後に、すでにチトー大統領も死んで、ユーゴスラビアに内乱が起きる。クロは隊長として行方が分からなくなった息子を探し続けている。武器商人のマルコとその妻は、クロの部下と遭遇し殺されてしまう。いっぽう、クロは国連軍の質問に答える。「あなたはクロアチア勢力なのか? セルビア勢力なのか?」「どの部隊に所属しているのか?」に「俺はペタル・ポパラ・クロ(本名)だ」「俺の部隊だ」「祖国だ」と答える。クロは昔の地下豪に逃げ、そこで井戸の中から息子の声を聞き、飛び込んで死ぬ。
論理的には死んだはずの者たちが、ドナウ川のほとりに集まって宴会を行って、映画は終わる。
ウイキペディアを見ると、公開されたとき、アメリカでの評判は悪かった。チトー体制のユーゴスラビアを懐かしむような作りだったので、悪者のセルビアを肯定していると批判された。当時、アメリカは国連軍の名目でセルビアを爆撃していたのである。そして、セルビア軍のリーダーは収監され裁かれ有罪にされた。私は、ソビエト連邦の影響下に属さなかった共産国ユーゴスラビアに内乱が起きたのは、アメリカのCIAの陰謀ではないかと、根拠なく疑っている。
じつは、私がこの映画をみるのが、きのうのBSプレミアが初めてだ。偶然、面白い映画を見させていただいた。YouTubeにこの映画の断片が最近多数上がっているのは、ウクライナ軍事侵攻の影響ではないか、と思った。
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