かれこれ9年前のことになる。
今はなき阪急西宮スタジアムで、須磨の浦女子高校のマーチングバンドを観た。
須磨の浦女子は当時日本で最高のマーチングバンドとして知られ、フランスにも遠征していた。
西宮市民祭りの花形的存在で、チーム全体からオーラを発していた。
暑い夏真っ盛りの8月の夜のことである。
須磨の浦のマーチングが始まったとき、まるで魔法にでもかけられたように、その世界に入っていく自分がいた。
テーマは“海”
須磨の浜辺に立って、夜の海を観ている自分がいるかのようだった。
瀬戸内海の静かな海
昼間は海水浴の客でにぎわった後の、
しんと静まりかえった夏の夜の海
花火をする人も寝静まった真夜中の海
その海に精霊、人魚が、現れて、カモメと戯れる
月の光を浴びながら、星のしずくを受けながら、
水面を滑る白鳥のように、
音楽に合わせて舞い踊るカラーガードのなんと美しかったことだろう!
こんなにもマーチングが美しいものだなんて!と一度でマーチングの魅力にとりつかれてしまった。
たった、数分間のショーだったが、もう10年近くにもなるのに、その時のショーの情景は
鮮明に覚えている。
阪神淡路大震災の傷跡もまだなまなましいあのころである。
まるで夢の中に浸っているかのような数分間であった。