憂楽帳:コンテナの山から
滋賀県甲賀市の遺跡で出土した8世紀半ばの木簡に万葉歌が墨で書いてあったという。万葉集が成立する前の木簡だったことに学術的価値があるようだが、個人的には掘り出されたのが11年も前だったことに心が騒いだ。
古代の堀や溝、水害被災地は宝の山である。当時の日用品が埋まっているからだ。ただし、何が何だか分からないかけらばかり。今回の木簡も厚さ1ミリ。木くずにしか見えなかっただろう。それでもきちんと保存されていたのである。
各地の発掘現場に建つプレハブ小屋や埋蔵文化財センターの作業室で、土器片、石片、木片などを洗っては小さな記号を書き入れ、青いコンテナに整然と収める作業を見たことがある。その中に青銅器の鋳型があるかもしれないが、分かるのはいつ!と、その時は思った。
それでも、研究者はコンテナの山から一つ一つ取り出して吟味を続けていたのである。11年かかっても無理はない。過去数十年間、開発のたびに発掘が行われ、コンテナは増えてきた。開発が減って発掘も減った今、次の大発見も再びコンテナから、かもしれない。【高原克行】
毎日新聞 2008年5月26日 西部夕刊
http://mainichi.jp/seibu/shakai/news/20080526ddg041070014000c.html